第24話 川上賢太・五日目

 あまりに変化のない日々に、気力を奪われていく。

 川上はそう感じつつも、ベッドの上でぼんやりするしかなかった。

 少なくとも犯人は自分を殺すつもりはない。それどころか、生かすために最低限のことをしてくれる。

 そんな状況にあって、何をどうすればいいのか。解らなくなって当然だった。

 今日はシャンプーとリンスが支給された。どうやら洗面台で洗えということのようなので、川上は素直に髪を洗った。

 他にはシーツも新しいものが置かれていた。だから、素直に自分でベッドのシーツを取り換えた。

 変化といえばそのくらいである。

 自由に部屋から出ることは出来ないが、不便はほぼないと言っていい。

 今日もあった缶コーヒーを飲みながら、ぼんやりと外を眺める。

 今日も晴れているな。

 そんなことしか思い浮かばない。

 今は九月とあってか、気候が安定している。ここに来てからずっと晴れていた。それもまた、ぼんやりとしてしまう理由かもしれない。

 犯人は一体、何がしたいのだろう。自分をここに閉じ込めて、誰と交渉しているのだろう。

 気になるのはこれくらいだろうか。

 人間を捕まえて閉じ込める理由なんて、やっぱり誰かから何かを引き出す時くらいだろうとしか思えなかった。

「ううん。でも、誰が何を?」

 解らない。だから、すぐに考えるのを止めてしまう。この繰り返しだ。

 せめて犯人がこの部屋に現れた時に起きていれば質問出来るのだが、犯人は相当慎重な人物であるらしく、必ず眠っている時に総ての用事を済ませていく。

「俺も、よくもまあぐっすりと眠っているもんだよな」

 犯人が用事を済ませる間、目を覚まさない自分の呑気さに呆れてしまうくらいだ。物音に気付いて起きられれば、何かヒントが得られるかもしれないのに、ベッドに寝転ぶと、どうしようもなく眠くなってそのまま朝になる。

「だらだらしていると人間が駄目になるっていうのは、よく解るなあ」

 研究者生活をしていて、こんなに寝たのは初めてではないか。下手すれば高校生以来じゃないだろうか。

「普段の疲れが出ているんだろうな。五十五にもなればそんなもんなのかな」

 普段ならば出来ないぼんやりとし続けるという状態に、川上はある種の快適さを覚えてしまうのだった。

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