第19話 河上賢太・四日目

 昨日はその前の日に聞いた銃声に怯え続けることになったが、自分に危害を加えてくるかもしれないというのは杞憂に終わった。

 あの一発以降、銃声は聞こえなかった。

 しかし、犯人がいるのだという緊張感は否応にも増した。

 だが、同時に淡々と食事が運び入れられ、トイレの始末がされ、さらに着替えと身体を拭くためのタオルが置かれている状況に、おかしくなったのは自分なのだろうかという疑念が湧き上がってくる。

 そんなことはない。

 ここは病院として機能していない。事実、看護師も医者も一度もやって来ない。

 それどころか、食事はいつも乾パンや缶詰なのだ。ここが病院のはずはない。

 病院ではないのだ。

 だが、犯人たちは自分を生かすために最善のことをやってくれる。それだけが唯一の救いだろう。

「コーヒーだけが生きがいになってくるな」

 部屋から出られないだけで後は快適なこの場所に、川上の精神が病んできているのは確かだった。

 何も考えられない。

 何も考えたくない。

 無気力になってくる。

 それにはもちろん、外を覗くとまた銃声がするかもしれないという恐怖も手伝っている。

 ともかく安全なここから出ようなんて考えてはいけないのだ。

「何が目的でも、俺には関係ないんだろう」

 そしてついに、何が目的なのかも考えるのを止めてしまう。

 そもそも、身に覚えのない理由で監禁されているのだ。考えるだけ無駄だったのだが、なぜ自分を監禁するのだろうと考える気力はあった。しかし、四日も経つとそれも限界になってくる。

 答えのない問題を考え続けるには、この環境ほど向かない場所はない。

 怖いが快適なのだ。

 何が起こるのか、何が起きているのか解らないが、ここにいることが不快なわけではない。それが、どうしてという疑問を持ち続けることを難しくしている。

「少なくとも、人間が生きていくのに何が必要かは、解っている奴なんだろうな」

 犯人について、辛うじて思いつくのはそれだけだ。

「ずっとこのままなのかな」

 犯人はいつまでこの生活を強いるのだろう。まさか犯人は延々と自分の世話をし続けるつもりなのか。

「まるで実験だな」

 ベッドに座ってぼんやりとしながら、川上はそんなことを思ったものの、すぐに科学者がやっているわけじゃあるまいしと、その可能性をすぐに否定していたのだった。

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