第4話 地雷原

『玲奈救出作戦、ご苦労だった。だが、お主らはスキアを討伐するためにそこにいるのだろう?』

 無線機から聞こえるダミ声に耳を傾ける俺たち。

『お主らにはスキアの殲滅を言い渡したはずだ。さっさとやれい』

「しかし、その防衛では!」

 ラインハルトが食いつくが、皇帝栂先つがさきは冷たい声を出す。

『また負けたら貴様のせいだからな』

 そう言って一方的に通信を切る栂先。

「参ったね。こりゃ」

 ラインハルトはつまらないものでもみるように戦略図を見る。

「僕たちがいるのはここ、スキアがここ全域に展開中」

 そう言ってラインハルトは地図の南を示す。

「君たちならやってのけるかな? 正樹どの」

「俺? 火月じゃなくて?」

「まあ、どっちでもいいさ。君たちには期待しているよ」

 ニカッと笑うラインハルト。

 東国の出身だからと言ってバカにされては困る。

 これでも火月、玲奈ともに、優れた戦闘員だ。

 俺を視線を送るとこくりと頷く火月。

「へ。てめーらにはできねーかもな。おれがやってやるぜ」

「そうね。わたしだけで十分よ」

 待て待て。俺はそう言った意味で視線を向けたわけじゃないぞ。

「ほう。さすが東国出身の武人だけあるな。いいだろう。その力見せてくれ」

「うまくいったね! 正樹」

 るんるん気分で駆け寄ってくる玲奈。

「そうじゃないだろ」

 俺は呆れてものも言えない。

 まさか、ここに来て死を選ぶとは。

「え。あんたの得意な罠でも張るのかと思っていた」

「ああ。てめーの頭ならスキアを殲滅できるもの、ちっ。その覚悟もねーのかよ」

 玲奈と火月が俺に失望する。それが目に見えて分かる。

 が、そうはさせない。

「分かった。これから罠を用意してくる。それにこの間の救出作戦は俺たちでやったんだ。やれるはず」

 断言はできないが、俺たちは最高のパートナーだ。

 やって見せるさ。

 それにしても、あのスキアに知性があるとは。話は通じなさそうだが。

「正樹、どんな作戦にする?」

「うぜー。玲奈、てめーは少し黙っていろ」

「なによ、いいじゃない。仲間なんだから」

 玲奈の声に火月が反応し、再び争い始める。

 二人は仲良しだ。いつもそうして議論を重ねる。俺はそれに入っていけない。

 一抹の不安と、憧れがそこにはある。

「それで、どうするのよ? 正樹」

「まずは情報だ。情報がなければこの戦いに勝利はない」

「そこまで言い切るのね。じゃあ、さっそく情報収集するわ」

「今から行っても間に合わねーだろ。どうすんだよ。分隊長さん」

「ああ。これよりを使う」

 魔法でも汎用的な魔法だ。

 鳥の目から情報を引き出し、脳の中にインプットできる魔法だ。

 それを使えば、鳥のいるところどこまでも情報を引き出せる。


 俺は平和のことしか考えない。

 スキアとの交渉の余地があるというなら、それも良かろう。だが、現実問題としてスキアは敵対している。

 戦う。戦い続ける。いつ死んでもかまわない。

 俺の戦うべき相手は俺の命を脅かすもの、俺の邪魔をするもの。

 故に俺はスキアを討伐する。

 命をかけてでも、俺は世界を変えていく。平和のために。

 それが俺の贖罪でもあり、未来への道なのだ。

 俺は何があっても平和を守る。

 戦術レベル最大。降下障害物視認。装置セット。自爆回路セット。信管セット完了。

 いくらスキアといえど地雷には対処できまい。

「それで、何個の地雷を設置するのよ」

「983個だ」

「そ、そんなに……」

 設置する身からしてみれば、途方もない数の地雷だ。しかし、それで防衛ラインが確保できるのなら。

「おいおい。あいつ死ぬわ」

 スカーレット隊が俺たちを見てあざ笑う。

「そんな暇があるのなら、手伝え」

 俺がそう言うと、スカーレット隊は悲鳴を上げて引き下がる。

 よほど、眼力がんりきが強かったのか、恐怖していた。

 しかたない。手伝わないというなら、俺たちでやるしかないのだ。

「設置完了。これで来なかったら呪うわよ」

 玲奈が作業の終了を報告。一点、危険な思想を持つ、と。

「ちょっと。日記になに書いているのよ!」

 玲奈は苛立ちを露わにし、俺に文句を言ってくる。

「俺がいなくなっても、後世が伝えてくれる。そのための日記だ。悪いか?」

「内容が問題なの。わたし、そんなダメダメじゃないよ!」

 玲奈がプンプンと怒り出す。

「まあ、本当の敵はその後ろにいるんだろうな……」

「ン? どういう意味? 正樹」

「なんでもない」

 俺は日記を付け終えると、ベッドに潜り込む。

「明日は早い。玲奈も自分の部屋で寝ろ」

「むぅ。わたしもこの部屋で寝るぅ!」

「そうか」

 そういって毛布を一枚、投げつける。

「もう。分かっていないんだから! にぶちん!」

 それは誰に対する評価なのか。

 誰を罵っているのか、分からないが、俺はやれるだけのことはやった。

 あとは明日の夕暮れだ。

 スキアはその進行速度が遅いのが唯一の救いだ。そして数は多いが、それが全戦力というのも分かっている。

 だから、今いるすべてを倒せば、あとは地上から消え去る。もう二度とこんなことにはならないと言い切れる。

 だから頑張れる。だから戦える。

 でも、まさかスキアに取り込まれると、あんな精神攻撃を受けるとはな。


 夜明け。

 俺は早めに起き、玲奈を起こさずにリビングへ向かう。

 そして昨日仕込んでおいた爆弾を手にする。

 スキアのくる道のりを監視し、俺はその爆弾を設置する。

「バックにあいつがいるのなら、確かにこの地雷原は大回りするはずだ」

「けっ。てめーの手のひらの中かよ」

「起きていたのか、火月」

「あたほうよ。おれはこれでもはや、ね……。いい。てめーと話していると気がそれる」

 ばつの悪そうに呟く火月。

「しかし、てめー。何か知っているんじゃないか?」

「何も。ただ……。そうであっては欲しくはないな」

 俺の呟きに胸ぐらをつかんでくる火月。

「やっぱり。なんか知ってんだろ! さっさとはけ!」

「俺の師匠は行方不明になって二年と半年」

「ちょうどスキアが現れたあたりだな。あ? ってことはその師匠が?」

「かもしれない。だが、確証がない」

 俺は首を横に振る。

「それだけじゃねーだろ」

「そうだ。師匠はとある化学物質を研究していた」

 陰星かげぼしと呼ばれる物質を研究していたのだ。

 それは陰に関係する星のかけらとされていた。

 どんな能力や、力を持っているのかは分からない。その研究の果てに、師匠は逃亡した。

 だから、師匠は怪しいと思った。思ったが、確証はない。どれも状況証拠ともいえる。

「そんだけ知ってりゃ、確かに怪しいな。んで? どこにいると?」

「スキアの本隊。その後ろだ」

 俺は戦略図を指し示す。

「はっ。だったらてめーが行け。おれが援護する」

「しかし。本当にいなかったら?」

「だー。うっせーな。そんときは挟み撃ちにしてスキアを殲滅しようぜ」

 俺が先周りして殲滅する。確かに悪い手ではない。

「……分かった。それでいこう」

「けっ。尻拭いなんて嫌だぜ」

「そうだな。そうはさせない」

 そろそろ玲奈が起きてくる頃か。その前に爆弾をしかけ、支度を調える。

 武器を持ち、先攻する。

「正樹ー。どこいくのよ?」

 寝ぼけまなこな玲奈を置いて俺は先を急ぐ。

「てめー。生きて帰れよ!」

「そうだー。生きて帰れー!」

 玲奈がそう言うのを聞き届けると、俺はスキアの本隊に向かって馬を走らせる。

 まさか、火月から『生きて帰れ』と言われるとはな。

 この戦い、維持でも死ぬわけにはいかなくなった。

 死を恐れてはいけない。

 それが戦士たるゆえん。

 俺は死を恐れない。死は人間に平等に与えられた結果でしかない。

 結果が重要なのではない。何のために戦ったのか、何のために生きてきたのか。それが重要になってくるだろう。

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