第2話 パンツフェチ!
「西からの連絡が途絶えた!? いくぞ、火月、玲奈」
「てめーに言われるのは
銃器を手にして、立ち上がる火月。
「ふふ。わたしも呼んでくれてありがたいわ」
玲奈は腰に携えたバックの中身を確認する。
この土地、エドモンドはスキアとの最前線。
東と北に公路を持つエドモンドからしてみれば、西と南から攻めてくるのは定石だが、すぐに前線を突破されるのは予定外だ。
「たくっ。あっちも警戒していたんだろ? んで陥落すんだよ」
「あっちには火月という優れた人員がいないからね」
玲奈が浮ついたことを言う。火月が調子にのるだろ。
「へん。やはりおれがいなけりゃダメか」
「そんなことはない。玲奈がお世辞を言っただけだ。奴らの狙いは人だ。集中的に狙われたのだろう」
「けっ。こいつ頭いいのに頭悪いよな」
「わたしもそう思うけども」
火月の言い分が理解できず、困惑するなか、玲奈まで参戦してくる。
このままじゃ、突破口が開けない。どうする?
俺と玲奈が切り分けていく中、火月が射撃で退路を作ってくれる。
「逃げろ! やられるぞ!」
「了解。離脱だ、玲奈!」
「分かったわ」
火線が玲奈に集中している? このままじゃ、玲奈を守り切れない。
「ちょっと。マズいかも」
「火月。玲奈を援護しろ!」
「てめーが死ぬぞ!」
「それでもいい」
間髪入れずに応えると、舌打ちをする火月。
「ちっ。分かったよ。知らねーぞ!」
火月の砲火が玲奈に向かって伸びていく。
できた穴に俺が飛び込み、斬りかかる。
スキアの多くが火月の射撃でやられる中、俺は玲奈のそばに近づく。
「逃げろ!」
「分かったわ」
退路から俺と玲奈が逃げようとしたところ、火月の射撃がやむ。それと同時に、俺たちは別方向へと向かっていく。
マズい。このままじゃ、玲奈を見失う!
俺は手を伸ばし、玲奈を捕まえようとする。
が、時すでに遅し。
玲奈はスキアに呑まれた。
俺は再開した火月の射撃で逃げおおせる。
「何をやっていた! 火月!」
珍しく荒げる声に驚いたのか、火月が無線で応答する。
「こっちにもスキアがきてんだよ。ダメだ。第一次防衛ラインまで撤退する。ついてこい」
「おい。玲奈を見捨てるのか?」
「てめーに言われるのは癪だが、もうしまいだ。諦めろ! 次にやられるのはお前だぞ!」
「……」
「死にてーのか? あん?」
「……了解」
俺は火月の作った退路から逃げる。
そして火月と合流。馬車に乗り込む。
すさまじい早さで西区の最南端へ向かって走り出す。
「てめーには言わなかったが、盗聴器と発信器がある。これで玲奈の居場所が分かるってすんぽうだ」
「どういうことだ?」
「玲奈はまだ生きている」
その言葉に俺の心臓がどくんと脈打つ。
アルー地方につくと、馬車から降りる。
ここが最前線になるのは避けたかったが、しかたない。
「発信器を頼りにするってーならあのスキアの軍勢。その中にいるってこった」
火月が地図を広げ、スキアの本隊中央を指さす。
「待て。的のど真ん中にいくのか?」
「ああ。わりぃが、おめーには生け贄になってもらう」
「どういう意味だ?」
「おめーも分かってんだろ? 中心に行くにはスキアの軍勢をおびき寄せなきゃなんねー。それの特攻隊をおめー一人でやれ」
俺が聞き間違えたのか、火月は俺の肩をつかむ。
冗談言っちゃいけないよ。
俺を餌にスキアを分離させる。そして手薄になったところを救出に向かう。
そんな作戦があるか? あるんだよなー。これが。
俺はため息交じりに呟く。
「成功率は?」
「20、いや15%と言ったところか。てめーならやれる。おれが見込んだ男なら、な」
「そうかい。ならやってみせるさ」
俺は拳をあげ、火月の拳とぶつけ合う。
「女のために強がれるなら、てめーも捨てたもんじゃないな」
火月は嬉しそうに干し肉に食いつく。
「おめーも食べろ。次の作戦はのんびりしてらんねーぞ?」
「ああ。頂く」
俺も干し肉をかみちぎり、咀嚼する。
周りの衛兵が俺たちを「イケメン」と呼んでいたが、気にする必要はないだろう。
俺だって、この辺境の地を守っている。みんな戦っている。それだけで、俺は満たされる。俺と同じ考えで努力している奴がいる。
いや、そう思いたいだけかもしれない。
中には金になるから、と言う理由で戦う者もいるだろう。それも間違っていない。
生きるためには手段を選ばない。それは俺も、火月も、そしてスキアも一緒なのだろう。
だから害悪をもたらすスキアを、俺たちは滅ぼさなければならない。
人を殺すのがスキアなら、スキアを殺すのは人なのだ。
ふと思う。
殺し合っている中で何が生まれるのだろうか。何ができるのだろうか。
俺は人が人らしく安心してすごせる暮らしを夢見ている。それでもうまくいかないのはやはりスキアという怪物のせいだろう。
陰も形もないスキア。殺しても霧のように霧散する。黒いもや。その赤い双眸だけが、こちらを睨む恐怖の象徴。人を殺す殺戮マシーン。
「いって……」
『すぐには行かない。てめーは治療をうけろ。万全の状態で戦いたい』
火月が言っていたように、俺が治ってから行くべきなのかもしれない。身体が重いのだ。疲れがきている証拠だ。
着ている鎧にも問題があるのかもしれない。
しかし、火月の読み通り、スキアの編隊がこちらに向かってくるのだろうか?
広範囲に拡散するのであろうスキア編隊。そう思われているが、実際はどうなるのだろう。
まあ、それこそ神のみぞ知るってところか。
「……パンツ!?」
俺はその匂いを感じると一足先に飛び出していた。
「おいおいおい。マジかよ! あのバカ、俺の支援なしいけると思い上がってやがる!」
火月が前に出て銃器をかまえる。
俺の手前にいる連中をなぎ払ううように打ち続ける火月。
「てめー、少しは休めと言ったはずだ」
「いや、玲奈が危険な状況になっている。今じゃないと助からない」
「……けっ。貴様の勘には反吐が出るぜ。いいぜ。そのまま突破口を開く」
火月の砲火を背に俺は突き進む。
持っていた剣がボロボロになろうとも、俺は突き進む。
スキアを切って切って切りまくる!
切り倒していくと、進路が見えてくる。
※※※
ここはどこだろう。
わたしは確か正樹と火月と一緒に戦っていたはず。
にも関わらずここは優しくて暖かい。
これは……?
周りを見渡すと黒く歪んだ世界がそこにはある。
『我々を受け入れろ。でなければ
「なに? どういうことなの?」
わたしには分からないけど、とても嫌な気配が漂っている。もしかしたら本当に世界を滅ぼしてしまうかもしれない。直感がそうささやいていた。
でもわたしには帰る家がある。暖かく迎えてくれる家族がいる。
正樹や火月といった仲間がいる。友がいる。
だからここから離れなくては。
わたしは立ち上がると出口に向かって走り出す。
その先に願った者があると信じて。
希望の光を見いだすように、真っ暗な世界で走り出す。
何かにつまずき、転ぶ。
スカートがビリビリにやぶれ、パンチが露出する。
「す、スカートが。でも、これで正樹は気づくかも」
あのパンツフェチのことだ。少しでも見えれば援護に駆けつけてくれる。
ここが、例えどんな場所でも。
そうあのイケメンなら、ここまでくる。助けてくれる。
パンツにつられてここまでくる。それだけの才能を持っている。
力を持っている。
だから、わたしは諦めない。
スカートをたぐり寄せながらも歩き出す。
わたしは彼を信頼しているのだから。
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