バーサーカー!

夕日ゆうや

第1話 序章

正樹まさき! 上だ!」

「……了解」

 俺は火月かげつの言葉を聞き、天に切っ先を向ける。

 ここは城壁と森の間、その開けた土地に立っている。

 仲間の火月は城壁の上にいる。

 大剣の重さは短剣の比じゃないが、俺は振り慣れている。

 いつもながらに思う。火月は口が悪いが、いいセンスをしている。イケメンでもある。

 それと対を成す俺。

 落ちてくるスキアが剣に突き刺さり、霧散する。

「右スキア撃て!」

 俺の指示通りに火月が銃口を向ける。

 火炎魔法によって火薬に火がともり、空気が膨張する。発射された弾丸が敵スキアに突き刺さる。

 陰に似たモンスター・スキア。

 もやもやした身体に四肢を伸ばしている。赤い双眸がこちらを見つめている。

 俺はその中に切り込み、火月が援護する。

 ここは最前線。

 スキアは人を食らい、その数を増やしている。

 倒し終えると、俺は後方にさがる。

「これじゃきりがないな」

「へっ! 弱腰かよ、弱虫ちゃんは家に帰ってミルクでも飲んでな」

「まったく、わたしにも手伝わせるってどんな神経よ」

 火月の後ろから飛び出す玲奈れな。短剣を両手に持ち、斬りかかる。

 スキアが消えていく。

 いよいよ、大部隊が壊滅する。

「火月、西敵部隊を混乱させよ」

「わーってるよ。撃ち放つ!」

 射撃のうまい火月のことだ。

 リーダー格を撃ち抜くのに難はないだろう。

「玲奈、右にいった」

「はいはい。分かっていますって」

「おめーら、ちまちましてんじゃねー。撃たれたいのか!?」

 火月の射線上に入ってしまったらしい。

 とっさに左と右に割れる。

「そっちは任せた」

 俺は左に行くと、真っ直ぐに斬りかかる。

「やぁ!」

「そら見せてみろよ! 力を!」

 火月が撃ち出す銃弾にスキアが殺されていく。

 人類の敵と日々戦っているスキア・スレイヤー。

 戦いが終わると、スキアはライフルを担ぎ、さっさと帰ってしまう。

「まったく、少しはねぎらいの言葉がないものかねー」

 玲奈が頬を掻く。

 金髪の銀杏のようなポニーテール。青色のはっぴを着ている。

 瞳は蒼くキラキラしている。一つ一つのパーツが整っており、全体的に優れた顔立ちをしている。

「まあ、それは正樹にも言えたことか。無口なんだから」

「感謝はしている。借りは返す、俺なりのやりかたでな」

「まったく、お姉ちゃんは心配だよ」

 暖かな目線を向けてくる玲奈。

 だが、俺とてみんなと会話をしたくないわけじゃない。

 近くの村に帰っていくと、俺は早々に借りていた宿の入り口につく。

「待って。火月と一緒に食事でもしたら?」

「俺は今、眠い。寝る」

 俺は短く伝えると、部屋に入る。

「まったく、みんな自分勝手なんだから」

 バラバラになっているのは今に始まったことじゃない。

 俺はベッドに倒れ込む。この時間がとても落ち着く。

 しばらくすると、借りた部屋を出て町中を歩く。

 近場の居酒屋に入ると、赤葡萄ぶどう酒と、ハッシュドビーフを頼む。

 むしゃむしゃと食べていると、酒で上機嫌になった男が絡んでくる。

「お! 兄ちゃん、いい食いっぷりだね~。おいらと飲まないかい?」

「同じ席を囲むことに意義を感じない」

「なんか。むかつく言い方だな。おい、こいつとっちめていいか?」

 酔っ払った男は折りたたみ式のナイフを取り出し、仲間に確認をとる。

 俺はその切っ先よりも先に腕をとり、力任せに押し込む。

「ぎゃ――っ! いてーいてーよ」

 痛みで酔いが覚めたのか、俺はそいつを解放する。

「メシがマズくなる。さっさとされ」

「お、覚えてやがれ!」

 酔っ払いはその仲間を引き連れて居酒屋を出ていく。

「さすが正樹さん。ここいらの町を守ってくれる守り神さまだな」

 店主が、がはははと大笑いする。

「うまい店は長く続いてほしいからな」

 ビールで流し込むと、俺は金銭を机において店を後にする。

「今度はどこに向かうのかい?」

「パンツのあるところ、どこまででも」

 俺はパンツフェチだ。

 そんな俺でも受け入れてくれるこの町は嫌いじゃない。

 前を歩く女の子を見かける。

「う~。お腹空いたよ~。さっき修道院で食べてくれば良かった」

 修道院? まあいい。

「お前、お金はどうした?」

 金遣いの荒い玲奈のことだ。もう使い切ってしまったのかもしれない。

「うぅう。あ! 正樹くん。お金がないの夕食おごってくれない?」

 どうしようか。このままいつものパターンだと、おごり損になる。

 とはいえ、俺はこの子が嫌いじゃない。

 近寄ってくる玲奈は俺の腕をがっちりホールドして、動きを止める。

 胸が当たっている。

 心臓が早鐘を打つ。

「ほら。わたしにおごる気になった?」

「…………はぁ。分かった。だけど、今度から金の管理くらいしろ」

「やった!」

 俺は近くの串カツ屋に入る。

 飲み直すか。

「んで~。わたしが勝ったのを認めないのよ~。むかつくから一発おみまいしてやったわ」

 ベロンベロンに酔っ払った玲奈が身振り手振りで説明する。それは可愛いんだが、送り迎え、俺がするのかよ。

「普段は無口だから、ちょっかいかけたくなるの」

 無駄口の多い玲奈。

 俺のことを言っているらしい。

 確かに無用な会話は控えるようにしている。情報とはどこから漏れるか、分かったものではないからな。

 俺の剣術、魔法を知られる訳にはいかない。

 玲奈を連れて宿へと戻る。

 一人部屋に連れていくと、ベッドに寝かせようとする。が、袖口を引っ張られ、玲奈の上に馬乗りになってしまう俺。

 なんでこいつこんないい匂いするんだろうな。

 じゃなくて!

 今はこいつから離れるのが先決だろう。

 一本一本丁寧に指を外していく。

「おめー、なにやってんの?」

 火月の声に心臓が跳ね上がる。

「いや、玲奈が……」

「あー。まったやったのか。まったくしょうがねー奴だ」

 火月がそばに寄ってくると、うなり身を縮める玲奈。

 袖口から離してくれたので、ホッと一安心する。

「っけ。こいつおれの匂いで避けやがった」

「いや、偶然だろ」

「……だからおめーは嫌いなんだよ」

 男二人の部屋に戻ると、俺はベッドに寝転ぶ。

「おめー。ホントにこのままでいいのかよ?」

「なにが?」

「ちっ。鈍感やろーめ」

 火月が何かを放り捨て、上着を脱ぐ。

 そしてベッドの上に転がる。

「明日はスキアの本陣を叩く。しくじるんじゃねーぞ」

「俺がしくじったことがあるか?」

「ちっ。つまんねー男」

 軽口をはくと、深い眠りにつく。


 俺はなんのために戦っているのか。

 金のためか、復讐心か。そんな簡単な理由だったらどんなに良かったか。

 俺は俺の未来のために戦う。

 誰もが幸福に生きられる世界なら、もう二度と争いのない、優しくて暖かい世界になると信じている。

 そのために、俺はスキアを刈る。

 人の悪意によって、瘴気しょうきにより産まれたとされるスキア。人の悪感情を餌とし、人々を恐怖させる。

 スキアに取り込まれた人は一生、悪夢を見続けると言われている。

 そんな彼らに対抗できる武器が――アルメッシアと呼ばれる特殊金属。それを刃や弾丸に混ぜ込み、スキアの核を潰す。

 それ以外にスキアの打破はありえない。

 お陰で俺たちは三英雄のうちの一柱。火月、玲奈と組んでいる。

 火月とはソリが合わないが、戦闘時には意外なほど相性がいい。そしてそれをサポートする玲奈の存在が大きい。

 玲奈は火月と俺を引き合わせ、今もチームとして組むために個人奮闘している。

 そんな玲奈を賞賛している。

 火月の狙撃や銃撃戦もうまいとは思っている。

 思っているのだが、あっちから突っかかってくることが多く、俺の悩みの種でもある。

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