第41話 仲、悪いんだね?

 地中から空に向けて突き上がったデザートポプラの根によって、里の議事堂前に集まったすべてのモンスターが串刺しになる。


「まあ、まずはこんなものかな」


「さすがラナテュール様ですっ!」


「うん。リノンもありがとうね、時間を稼いでくれて」


 いくら私がマナの力を扱えるからと言ってもここまで大規模な植物の成長にはかなり時間を使ってしまう。


「やっぱりジャングルの方がマナがいっぱいあったな……ここじゃちょっと力が制限されちゃうかもだ」


「大丈夫ですか、ラナテュール様? もしご指示をいただけるのであれば、その他のモンスターは私が殺して参りますが?」


「ありがとう、でもそれじゃダメなんだ」


「ダメ?」


「モンスターが侵入してくる経路を塞がなきゃ、いくらエルフの里の中のモンスターを殺したって数は減らないからさ」


 というわけで、ちょっと時間がかかって面倒くさいけどやるしかないかと地面に手を着ける。


「ラナテュール様、なにを?」


「エルフの里の外周に壁を作る。10分くらいかかるかな」


 デザートポプラは私が知る植物の中でも最も長く根を伸ばせる植物である。この根を里の各農業エリアの外周部まで伸ばし、そして地上に高く突き上げさせることによってモンスターの侵入を阻む壁を生み出すのだ。


「ラーナ、私になにか手伝えることはあるかしら?」


 アウロラが動物たちと共に議事堂から出て、私たちの元にやってくる。

 

「そうだね……それじゃあアウロラとリノンは壁ができるまでの間、無理しない程度に侵入してくるモンスターを狩っておいてくれる?」


「分かったわ! それじゃあ私は農業エリアA~Dまでのモンスターをオオゼキたちといっしょに狩りまわってくる。そこの【トカゲ娘】にはエリアEで暴れまわってもらいましょう」


「……はぁ? トカゲ娘……? おい、私の行動を勝手に決めるなよ【自称】ラナテュール様の友達さん? 私はラナテュール様の指示にのみ従うんだから」


 ピリピリ。なぜか2人の間の空気が張り詰める。え?


「はぁ? 誰が自称よ? 私とラーナは公然の仲よ。アンタこそ【自称】ラーナのしもべでしょう? 実際のとこただのストーカーなんじゃない?」


「はぁ? ラナテュール様が私のことを頼りになさってくれているところを見てもそんなこと言えちゃうなんて、怖いわぁ。思い込み激しすぎよね。ということはラナテュール様の友達っていうのもやっぱりただの思い込みなのね? ストーカーはどっち?」


「はぁ? 死ぬの? ここでモンスターといっしょに死にたいのかトカゲ?」


「はぁ? お前がな? サイコロカットにしてやろうか?」


「──ちょっとちょっと、ステイ。え、なんで2人はにらみ合ってるの?」


 訳が分からないよ、私は2人にお手伝いをお願いしただけだよね? それなのにモンスターたちと戦っている時以上の殺気をみなぎらせて掴み合っているのはどうして?


「ラナテュール様……私はどうにもこのアウララ? オウロロ? ゲボ吐いたときのような効果音の名前をしたこのゴリラとはソリが合いません……!」


「ラーナ……こんな知性と品性と感性と協調性に欠けたトカゲ娘を首輪も付けずに連れて歩いちゃダメよ……? 珍ペット風情がいっちょ前にあなたのしもべだと思い上がってしまうわ……!」


「わ、分かった分かった! 2人の相性が悪いのは分かったよ! じゃあ私から改めてお願いするから! アウロラは農業エリアAからD、リノンは農業エリアEに行ってモンスター狩りをしてくれる?」


「分かったわラーナ!」


「承知いたしましたラナテュール様!」


 2人は互いに「フンッ!」と鼻を鳴らして視線を切ると、そして各担当のエリアへと駆けて行った。

 

 いやしかし、すごいなぁ……。初対面でこんなに仲悪くなれるなんて、むしろ1周回って相性が良いのではなかろうか。


「さて、私は私でニョキニョキと育てますか……」


 エルフの里に漂うマナを集め、それを地面のデザートポプラへと与えていく。やっぱりジャングルのように空気中に際限なくマナがあふれているわけじゃないからか、その生長はどうしてもゆっくりだ。


「元気に丈夫に育つんだぞ~ニョキニョキニョキニョキ……」


 ちなみに植物は声をかけてあげるとスクスク育つらしいという俗説がある。ピンキーちゃんとか意思の疎通のできる植物はそれで喜んでくれるんだけど、デザートポプラは意思を持ってないから効果のほどは分からない。


「まあでもヒマだから話しかけちゃうんだよねー、デザートポプラちゃん。……語感が悪いな。デザポちゃん? ポプちゃん? ポプ美? うーん、しっくりこないなぁ……」


 そうやって1人でウンウンと唸っていた時だった。


「──動くな、ラナテュール」


「……」


 低い男の声が頭上から聞こえる。ピリピリと肌を震わせる感覚からするに、なんかしら殺傷力の高い魔術が私に向けて展開されかけているということが分かった。


「……誰?」


「フッ! 俺の声などとうに忘れていたか、ラナテュール。俺だよ、ミルドルドだ……!」


「あぁ、そういえばそんな声をしていたっけ。それで君、アウロラに聞いたところによれば縛り上げられていたんじゃなかったっけ?」


「あんな物理的な拘束など俺には無意味だ。俺を誰だと思ってる? この里1番の魔術の使い手だぞ……? どいつもこいつも侮りやがって……! まあ、そのおかげでこうして貴様の背後をとれたワケだがなぁ……!」


「それで? なにしに来たの?」


「決まってるだろ……貴様に復讐するためだ!」


「はぁ……? 私に、復讐……?」


 ホントに意味が分からない。私はポカンとするしかなかった。

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