第39話 でっかい鳥がきたよ
カウエハイでのバトルド・コロッセウムを終え、服を買って帰ってきてから数日。子供たちはみんないっそう元気になっていた。
……リノン以外。
「私も町へ行きたかったです……」
「ごめんね? でも安心してよ。次はリノンにも町に行ってもらうからさ」
「ほ、本当ですかっ?」
「うん。これからは定期的に町に行って野菜と果物を売ろうと思ってるからね。私と1回交代で町に行くことにしよう」
これなら不平等な思いもしないよね? そう思っての提案だったんだけど。
「……はぁ。そういうことじゃないんですよぉ……ラナテュール様……」
「え? 違うの?」
よく分からないけどリノンは落ち込んでいるようだった。なんでだろう。町に行きたかったんじゃなかったの?
「ラナねぇちゃん!」
「どうしたの、ティーガ。上を見ながら走ってたら転ぶよ?」
「空! 空になんかいるよっ!」
私とリノンが話しているところに、村の少年ティーガが真上を指さしながら駆けて来て、あ、やっぱり転んだ。
「ほら、言わんこっちゃない」
「ラナねぇちゃん、空にっ、鳥みたいのがっ!」
「空だもの。鳥くらいいるさ。で、大丈夫?」
「だ、大丈夫……それよりも鳥! でっかいんだよぉっ!」
ジャングルだもの。デカい鳥くらいいるさと思いながら空を見上げる。
〔キィィィッ!〕
「デカいな……」
思った以上にデカかった。遠目から見るにきっと私の2倍くらいの体長があるし、あとなんかオレンジ色に光り輝いている。
「あれ、しかもなんかこっちに来るよ……?」
〔キィーっ!〕
「いかがしましょうか、ラナテュール様」
「とりあえずリノンは子供たちを家の中にひと固まりで避難させてくれる?」
「かしこまりましたっ!」
リノンによってみんなが1つの家に入っていく中で、私はなんだかあの鳥に見覚えがあるような気がしていた。
「どっかで会ったことがあるような……うーん、エルフの里の近くにあんな大きな鳥いたっけなぁ……?」
私が考えているうちに、その鳥はぐるぐると私たちの国の上空をぐるぐると回りながら次第に高度を落としてくる。そしてファサーっと、その巨体からは考えられないほど静かに私の前へと着地した。
「えーっと……?」
〔──ラーナ、ラーナなのねっ?〕
「しゃ、しゃべったっ?」
〔私よ、アウロラよっ! ラーナ、ようやく見つけたわ……!〕
「アウロラ……? ホントだ、アウロラの声だ……」
その鳥から聞こえてくるのは紛れもない、エルフの里で私の味方をしてくれていたエルフ、アウロラのものだった。
「あぁ、そっか! そういえばこの鳥にどこかで見覚えがあると思ったら……」
〔うん。私の力で鷹のファルコに聖獣を憑依させたのよ〕
「あー、なるほどね。懐かしいなぁ。そういえば1回だけこの聖獣に乗せてもらって、上空まで飛び上がったことがあったっけ。すごく寒かったんだよね」
〔そうね……〕
なぜかそこで、アウロラの声のトーンが下がった。
「アウロラ? どうかした?」
〔……ラーナ、ごめんなさい。本当に〕
「え?」
〔あなたが里から追放されるのを止められなかったこと、私はいまでも後悔しているわ〕
「ああ、別にいいよ。なんだかんだでこっちで上手くやってるしね。それにどうせアウロラの知らないところでシーガルたちが動いていたんだろう? 君の責任じゃないさ」
〔……そう言ってもらえると、少しは心が軽くなるわ──クッ⁉〕
わずかに、苦し気な声がもれて聞こえた。
「アウロラ? いまなにしてるの?」
〔実は……〕
そこでアウロラから聞いたのは、私の忠告を聞かずに暴走したシーガルやミルドルドたちによってめちゃくちゃにされてしまったエルフの里の現状だった。彼らはバレラの木も引っこ抜き、そのせいでいままさにモンスターたちの大侵攻を受けているという。
先頭に立って戦っているのはアウロラだけで、他の戦えるエルフたちは全員死亡、ミルドルドに至ってはこの場面で里を裏切り縛り上げられているとか。
「それはなんとも、ひどい話だね……」
〔本当に、私がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったのに……〕
1つ深いため息を吐くとアウロラは言葉を続ける。
〔こんなことを頼むのは虫が良すぎるって分かってる。けれどもう、私たちにはラーナ以外頼れないの。お願い、私たちを助けにこのエルフの里へ戻って来てくれないかしら……?〕
「いいよ。アウロラの頼みなら。君には里にいる間お世話になったからね」
〔……ありがとう、ラーナっ!〕
声に明るさが戻った。よかった。私の知ってるアウロラはいつだって笑顔だったから、暗い声だと調子がくるってしまう。
「でもどうしよっか。いまからファルコに乗って戻るにしてもかなり時間がかかるよね?」
〔大丈夫。ファルコ、円筒をラーナに渡して?〕
アウロラが言うと、ファルコの本体が首を私の前へともたげてくる。スルッとたすき掛けにされていた円筒が現れた。
「これは……?」
〔その中に、転送術式の描かれた紙が1枚入っているわ。ラーナの準備ができたらそれを地面に敷いて、その上に乗って。ファルコに込められた聖獣の魔力を使えば転送魔術を起動できるから、それでエルフの里に戻ってくることができるわ〕
「うん、分かったよ。それじゃあちょっと待っててね」
これはしばらくこの国から離れることになりそうだ、ククイやリノン、子供たちにもちゃんと説明しておかないとと思い、みんなを呼んでかくかくしかじかと説明をする。
「えぇっ? ラナテュールさんの里がっ?」
「それは見過ごせませんね……」
みんな私が向かうことには納得してくれた。
「だからたぶん、しばらく戻ってこれないかもしれないんだ」
「……でも、帰ってきてくれますよね?」
ククイが不安そうに、ボソリと言った。
「私たちのこと、このままじゃなくて……またいっしょにご飯を食べたり、町へ行ったりできますよね……?」
「もちろん。きっと帰ってくるさ。だってここは私の国なんでしょ?」
「……そうですよねっ! ラナテュールさんの国ですから!」
笑顔の戻ったククイの頭を撫でて、さあ出発と意気込んだところで、
「ラナテュール様、今回は私もついて参ります」
今度はリノンが両手でヒシっと私の手を掴んでくる。
「いや、リノンにはこの国を守ってもらわないと……」
「いいえ、むしろ国の長を戦場に1人で送り出すなんてことの方が許容できません。今回は絶対に私もついていきます」
「そうは言っても……」
チラリと子供たちを見れば、みんなリノンの後ろについていた。え? 同意見なの?
「この国は大丈夫ですよラナテュールさん! 私たちでちゃんとしておきますからっ!」
「でも……」
「それにラナテュールさんが遺してくれるピンキーちゃんやムキムキ大豆くん、それにサボくんもいます。安心してくださいっ!」
ウンウンと子供たちが頷いてくる。
「ラナテュール様、守られるのも国の長の務めですよ?」
リノンにさらにダメ押しされて、私は仕方なく頷くことにした。
「分かったよ、それじゃあリノンを連れて行くね? なるべく早く帰るようにするからさ」
「はいっ!」
私とリノンは地面に敷いた転送術式の上に乗る。
「それじゃあ、いってきます」
それを合図とするように術式が紫色に輝いた。そして私とリノンの身体は光に包まれ、ジャングルから消えていった。
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