追放ハーフエルフは南の島でスローライフ~魔術の使えぬ無能だとエルフの里を追放されましたが実は天才植物使いです。追放先のジャングルで建国したら、移住希望者が多すぎて困ってます~
第38話 一方その頃エルフの里では~その11~
第38話 一方その頃エルフの里では~その11~
「……それ以上動くな、アウロラ。ラナテュールだけは絶対に呼ばせんぞ……!」
ミルドルドが背後から私の首元にナイフが当てる。
「ミルドルド、これはなんの真似です?」
「黙っていろ。それとシーガル、お前もそれ以上余計なことを言うな。口を開けば殺す」
ミルドルドが魔術を展開し始めた。
「この部屋に居る者、すべてが魔術の射程範囲だ。全員動くんじゃない」
「……あなたはなにがしたいんです? この里が滅ぶか否かの瀬戸際なんですよ? とち狂いましたか?」
「黙っていろといったはずだ! この里が滅ぶだぁ? ひひっ、ならそういう運命だったというだけの話だろう。もう、ありのままの結果を受け入れればそれでいいじゃないか……」
引きつったような笑い声で、ミルドルドは続ける。
「おいアウロラ。お前はこの里になにかあるたびにラナテュールがどうのマナがどうのと、俺にくどくどと説教まがいな能書きをたれやがって……! 今回もラナテュールが戻ってくればなんとかなるとでも? ハッ! できないね! できないはずなんだ! アイツがなにかをできるワケがないんだ!」
錯乱したように「できない、できない、できるはずがない!」とミルドルドは繰り返す。
「ミ、ミルドルド筆頭守護者……ひとまず落ち着てはどうかね?」
でっぷりと太った1人の幹部が恐る恐る立ち上がる。
「ラナテュールのことだが、たとえなにもできずとも、呼ぶだけ呼んでみればいいだけではないか。その方がこのままなにも手を打たないよりかはよっぽど建設的な……」
「黙れぇッ!」
ミルドルドの矢のような魔術が飛び、自分に意見したその幹部の頭を貫いた。
「なっ……ミ、ミルドルドくんっ! 君はなんてことを……!」
「黙れシーガルッ! いつまでも俺の上役ヅラをするんじゃねぇッ! 自分じゃなにも頭を働かせないクセに俺にばかり責任を押し付けようとしやがって……! 知ってるぞ、畑管理改革の失敗とモンスター来襲の責任を俺だけになすりつけて、次の議会で俺を筆頭守護者から降ろす準備をしていたらしいじゃないか……この裏切者めっ!」
「い、いやそれは違う! 複雑な事情があったのだ……そっ、それにそんなことはいまここで話すべきことじゃ……」
「うるさいうるさいっ! 黙れ! 俺は……もうこんな里どうでもいいのさッ! 誰も俺の有能さに気が付かず、あげくラナテュールなんて無能に頼ろうとする里なんてこのまま滅んでしまえばいいッ! とにかく、ラナテュールは絶対に呼ばせはしないッ!」
異常なまでに目を血走らせるミルドルドの狂気じみた言葉に、この部屋に張り詰めた雰囲気が満ちる──が、しかし。
「フフっ」
「……アウロラ、お前、いま笑ったか……?」
「ああ、これは失礼しました」
ミルドルドのこのめちゃくちゃな発言を聞いていたらつい、噴き出してしまった。
「ミルドルド、結局あなたは怖いんですね?」
「なにを言っている……?」
「分かっていないのですか? あなたは怖がっているのですよ。自分で自分のことを信じられなくなることをね。だってラーナがここにやってきて、いとも簡単にこの事態を解決してしまったなら──」
「黙れアウロラっ! それ以上なにか言ってみろ、殺すぞっ!」
「──それはラーナが有能であり、あなたが無能であると証明することになりますから」
「~~~ッ‼ 死ねぇいッ!」
私の首元に当てられたナイフがスパッ! と私の首を切り裂いた。だけど、
「気は済みましたか?」
「な……っ⁉」
私の首からは一滴たりとも血は流れない。
「少し寝ていなさい、ミルドルド」
「──がぁッ⁉」
振り向きざまに放った火属性の魔術・ファイヤーボールはミルドルドへと直撃し、その身体を後ろの壁へと叩きつけた。そしてミルドルドは床に倒れ伏し、動かなくなる。気絶したようだ。
「誰か、そこの大馬鹿者を縛り上げておいてください。そしてシーガル里長」
「……ハッ! はいっ⁉」
「もう一度聞きます。ラーナの追放先を教えなさい」
「こ、ここから南に5,000キロメートルほど離れた場所にあるワイハー島のジャングルへと追放した……だがしかし、いまからそこに行って、こちらへと戻る転送術式を準備するのは時間がかかるぞ……?」
「問題ありません。転送先の詳細な座標情報を調べて私に教えてください。あとは私がどうにかします」
「わ、分かった……!」
私はそれからすぐさま意識を外の世界へと集中させる。すると、私が里の外に向けて放った4羽の鷹の存在を感じ取れるようになる。
「確かこのエルフの里から南側を捜索しているのはファルコよね……」
私はファルコへと意識を同調させ、ワイハー島へと向かうように指示を送る。
「よかった……。かなり近い位置まで飛んでくれていたのね」
ファルコに感謝の念を送りつつ、
「──【聖獣降霊・ヒシンスザク】。よろしく頼むわよ……!」
音速を超える速さで空を飛ぶ聖獣をその身に
「はぁ、しかし……無駄に痛かったわ」
首元を抑えつつ、ボヤく。私は聖女。癒しの魔術を大の得意とするエルフだ。
「首を切られた瞬間に繋げるくらい簡単なこととはいえ……痛いものは痛いのよ? この大馬鹿が」
幹部たちに寄ってたかって縛り上げられたミルドルドの身体を軽く蹴飛ばして、私は議事堂の外に出た。
ふむ。思った通り、すでに大量のモンスターが農業エリアを抜けてこの里の中央にまでやってきてしまっている。
イノシシのオオゼキ、オオカミのアリアケとタソガレ、そしてクマのカムイたちも集まってきていて、モンスターたちの議事堂への侵入を頑張って防いでくれていた。
「【聖獣降霊・オオクチノマカミ】、【聖獣降霊・ナルカゼホロウ】、【聖獣降霊・ゴウセツカムイ】」
オオゼキ以外の3頭の仲間たちにも聖獣を降ろす。これでそれぞれが聖獣に匹敵するだけの力を得た。
「3時間……まあそれくらいなら私たちだけでもなんとかなるでしょう。みんな、ラーナが来てくれるまでの辛抱ですっ! この里を守りますよっ!」
きっと他から見たら絶体絶命の防衛線。しかし、この先にラーナとの再会が待っているかと思うと、私の心には希望以外のものはなにもなかった。
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