第30話 取引する価値もないね

 全部合計で2000ペニー? 青果が合計で150個もあるのに? 笑わせてくれるな。


 私、これでもちゃんと市場の青果物の値段はチェックしていたんだ。だいたい1個当たり200ベニーというところで、大安売りでも100ベニー。

 

「君たち商人の性質は良く知ってるつもりだよ? 前にいた里で100年以上関わってきたからね。最初に少ない金額を叩きつけてくるっていうのは常套じょうとう手段の1つでもあるんだろうさ。だが、これは叩き値にしてもヒド過ぎるだろう」


「ははっ。そうかもな。だがこの金額じゃないとウチは買わないぜ?」


「1個当たり10ペニーちょっとなんて、それは廃棄直前の値段だよ」


「あのなぁ、俺たち商会は人を見て買うかどうかを判断するんだ。取引実績のない相手の商品は信用できない、だからタダ同然で買い取らせてもらう、そこでお前たちの品物が良かったら少しずつ買取金額を上げていく、それが俺たちのやり方だ」


「村自体とはずっと付き合いがあったそうじゃないか」


「だがお前たちとは初めてさ」


 商会の男はそれから私たちを見下すように見て、


他所よそに行きたいなら勝手にしな。だが誰も俺たち以上の値段じゃ買ってくれねーさ。だいいち、お前たちみたいな汚らしい恰好をしたガキ相手に商売をする人間なんてそうそういないんだよ、立場を考えろや」


「……あっそう」


 私はククイとシエスタの背中を押すと引き車に乗るようにうながした。


「おい、売らねーのかよ? そのまま1銭も稼がずにノコノコと村に帰るつもりか?」


「売らないよ。君のところではね」


「ははっ! ガキだな、ハーフエルフ! いろいろ図星を突かれて怒ったかっ?」


「いいや、君個人が気に入らないのと品物を売らないっていうのは別のことさ。私は見る目の無い商人とは付き合うつもりは無いんだ」


「……見る目が無いだと?」


「うん。見る人間が見れば私たちの育てた野菜と果物の価値に気づくはずだからね。君はちょっと取引相手としては失格だよ」


 それだけ言い残すと、私はサボくんにまた走ってもらう。後ろから「テメーらのゴミみたいな青果、誰も買わねーからな! 覚えておけよ!」なんて声がかかるけどまるっきり無視する。


「……売れませんでしたね」


 ククイもシエスタも、気を落としたように下を向いていた。


「落ち込むことないよ。あの商人がちょっとダメなヤツだっただけさ。でも1つだけ正しいことも言ってたけどね」


「正しいこと……?」


「【信用】だよ。取引に一番大事なものだ。それがいまの私たちには無いって、それだけはちょっと図星だったかな。まあそれを差し引いてもさっきのヤツは私たちの足元を見過ぎていた。あの態度はダメだね。私たちとの将来的な取引の視野が欠けていたから、やっぱり商人としては三流もいいトコだ」


 さて、これからどうするかな……。

 

 信用の無い私たちが他の商会に手あたり次第行ったところで、また買い叩かれるのは目に見えている。


 考えながらぐるぐると町を回っていると、とあるドームのような場所に人の賑わいを発見した。


「さぁ、エントリー締め切りまであと10分だよー! 優勝賞金100万ペニー、武器も魔法もなんでもありの総合闘技祭【バトルド・コロッセウム】、エントリーするならいまだよぉ~!」


 声を張っている男を含め、複数の人間たちがチラシを配っている。


「サボくん、止まって」


 私は引き車から降りると、そのチラシの1枚をもらった。


『武器・魔法OK! 参加資格:死んでも文句を言わないヤツ 優勝報酬:100万ペニー、他』


 ほーん。なるほどね。


「ねぇ、そこの君。これって私でも参加できるの? 人じゃなくてハーフエルフだけど」


「ええもちろん! 大歓迎ですよぉ! 死ぬ覚悟さえできているなら問題ありません!」


「そう。ありがとう」


「──ラナテュールさん。どうしたんですか、急に引き車を降りたりして」


 ククイとシエスタも、引き車を降りて私の元にやってきた。私は2人にチラシを見せる。


「え……? まさか……」


「うん。ちょっと出てくるね?」


「えぇ~っ⁉」


 すごく驚かれたけど、まあとりあえず、総合闘技祭バトルド・コロッセウムとかいうイベントに出ることになりました。

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