第29話 町に行ってみよう

 サボテンライダーのサボくんに引き車を引っ張ってもらって町へと向かう。乗っているのは私とククイ、そして村の6歳の少女・シエスタの3人だ。ちなみに野菜や果物もたんまりと載せている。

 

「いっぱい売れるといいですね」


「売れるよ。だって美味しく育ったからね」


 ククイは心配そうだったが私は一向に心配してない。だってエルフの里で育てていたときはかなりの高値で売れていたし、今回もきっとそうなるはずだ。


「そういえばリノンちゃん、私たちの出発直前までボヤいてましたよ。私も行きたかった、って」


「リノンは強いからお留守番してもらわないとね。最近ただでさえ物騒だったから、いざというときに子供たちを守ってもらわないと」


 リノンはククイと同じくらいの年齢とはいえ、竜人種ドラゴニュートだ。素の力でも男の大人くらい余裕で圧倒できる。そんなリノンが居てくれるなら私も安心して外に出れるというものだ。国民は大事にしないといけないからね。


「ひろぉーいっ!」


 ジャングルを抜けて街道に出ると、シエスタがはしゃいだ。

 

 リノンの代わりに今回シエスタを同行させたのは、子供服のサイズを測るため。5歳~7歳くらいの子が多いので1人くらい着心地を試せる子を連れて行こうという考えだ。


「しかし本当に広いね。しかも荒野。ジャングルとはびっくりするくらい対照的だ」


「砂ばかりですね……こんな景色はじめて見ました……」


 目新しい景色を楽しみつつ、街道沿いに進むと町の入り口が見えた。特に警備などはいないようで、サボくんに引っ張ってもらうがままに町へと入る。


「「「おお~」」」


  町の名前はカウエハイというらしい。初めての町に、私たち3人はキョロキョロとしてしまう。


 へぇ、いろんなお店があるんだなぁ……。なにをやってるのか分からないところもあったりして、興味をそそるものがとても多い。


「で、まずは農作物を売らなきゃいけないわけだけど……」


「そうですね。確か両親はいつもダルマル商会というところと取引をしていたかと思います」


「じゃあそこに行ってみようか」

 

 私は適当な町の人間に道を訊いて、それをサボくんに教える。


〔サボサボッ!〕


 サボくんの返事に、こちらを遠目に眺めていた町の人たちが飛び上がるようにして驚いた。

 

 ああ、そういえばさっきからちょっと注目を集めているなとは思ったけど、サボくんが目立つからか。確かに珍しい……というか馬や牛じゃなくてサボテンに引き車を任せているのなんて私くらいなものだろうし。

 

 そんな奇抜な私たちは注目を引き連れつつ、ダルマル商会へと到着。建物に入る。


「あの、青果物せいかぶつ──野菜と果物を売りたいんだけど」


「はいよ、らっしゃい……ってエルフ?」


 商会内にいた男が、驚いたように目を見開く。


「なんでこの島にエルフが?」


「いやエルフじゃないよ。ハーフエルフだよ」

 

「……あー、まあどうでもいいさそれは。で、そのハーフエルフが持ってきた農作物を俺たちに買えと? どこから持ってきたものかも分からん野菜と果物を? 冗談だろ?」


「あ、待ってください!」


 そこで私の前にずいっとククイが出てくる。


「農作物自体は私たちの住むジャングルの村で採れたものです。以前は私の両親たちがこちらの商会で買い取ってもらっていたかと思います」


「ジャングルの村……? ああ、あそこか。で、今回その大人たちがいないのはなんでだ?」


「……先日、奴隷商たちに襲われてみんな死んでしまいました。なので、今回その代わりにこのラナテュールさんに付き添ってもらっているんです」


「ほぅ……」


 商会の男はしかし、それで同情するでもなくニヤリと笑う。


「とりあえずまずは品物を見せてもらおうか」


「……」


 なんとなく好きになれないタイプの人間だったが、言う通りに品物を見せることにした。表の引き車まで商会の男を案内する。


「野菜と果物が数種類ずつ、合計150個、傷みはない……これくらいの買取価格でどうだ?」


 男がペンを走らせた紙を見せてくる。金額が書かれていた。2000ペニーという走り書き。


「……ねえ、私たちが物価も知らない【カモ】だとでも思っていないか?」

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