第28話 国造りをはじめよう
さて、新しい住居で暮らし始めて、私がまず取り組んだのは道の整備だ。
なんと、驚くことにククイの村には道というものが存在しなかった。いままで近くの町に行くときはどうしていたのかと訊くと、
「えっと、実は私たち子どもは町に行ったことはないんです……。両親たちは多く採れた農作物を売りに行くことがありましたが、その時はけもの道を通って街道まで出ていたんです」
そういうことらしかった。
でも、さすがにそれは不便だ。今後私も町には行ってみたいと思っているし。
「というわけで近くの町に通じる街道とこの村、この村と私の住居がある場所を道で繋ぐことにしようと思う」
「「「おお~っ!」」」
これにはみんな賛成してくれた。そういうわけで私はムキムキ大豆くんたちを大量に育てて道の整備に取り組ませている。道ができるまでは1週間というところだ。
あとは同時に村の住居の改修工事を行うことにした。
「私たちには水道完備のログハウスを作ったピンキーちゃんとムキムキ大豆くんたちがいるからね。この子たちの指導のもとでお家をリニューアルしちゃおうっ!」
「水道ってなぁに?」
水道という概念が無かった子供たちに、水を汲みに行かなくても済むようになる道具だよと教えてあげたところ、バンザイして喜んでいた。
というわけでいま村では子供たちも一丸となっての家の大規模工事が行われている。指導役のピンキーちゃんは【親方ピンちゃん】と、ムキムキ大豆くんたちは【親方大豆さん】と呼ばれて子供たちに慕われているらしい。いいことだね!
一方の私とリノンはといえば、
「ラ、ラナテュール様ぁ……」
「どうしたのリノン」
「辛いですぅ……」
「そっか。まああとちょっとだからがんばって」
ログハウスの外で、泣き言をもらすリノンとともにちょっとした薬の開発に取り組んでいた。植物好きの私にかかればちょっとした薬品の調合くらいはちょちょいのちょいなのさ。
リノンには採取してきたとある薬草をゴリゴリとすり潰すお仕事をしてもらっているのだが、これがまあかなり臭いがキツくて大変なのだ。
シクシクと、ツーンとした臭いが目に染みるのか涙を流しながらゴリゴリと薬草を潰すリノンの姿を横目に見つつ、私はキッチンにあった鍋にすり潰し終わった薬草を入れて、グツグツと煮立たせている。
「ラナテュール様、ちなみに私たちはいまなんのお薬を作っているのですか?」
「うーんとね、良い薬だよ」
「……効能は?」
「まだナイショ。良い効果だとは言っておくよ」
そんなこんなで1週間。薬も道もしっかりと出来上がる。
私とリノンはさっそくサボテンライダーのサボくんに乗って村へと向かった。
いやぁ、とても快適だ。道が平たんにならされているからガタガタと揺れないし、最短距離で村に向かうことができるので時間の節約にもなる。これまでは歩きでおよそ20分かかった道のりだったが、なんと5分あまりで村に着くことができた。
「やあ。工事が終わったみたいだから来たよ」
「──ラナテュールさぁー--んっ‼」
私が到着したと同時、まるでそれを予知していたかのような素早さでククイが私に飛びついてきた。
「1週間も会えなくて寂しかったですぅ~~~っ!」
「そんな、大げさだな。たかだか1週間じゃないか」
「なにを言ってるんですかっ! 1週間も、ですよっ! 10年にも感じる1週間でした……あぁ……ラナテュールさん、本物のラナテュールさん……スゥ~ハァ~スゥ~ハァ~……いいニオイ……」
「ククイっ! ラナテュール様から離れなさい!」
私の身体に顔を埋めて深呼吸し始めたククイをリノンが力づくで引き離そうとするが、「力強っ……⁉」というリノンの驚きの声。ククイは私にしがみつくようにして一向に離れる気配がない。竜人少女の力をもってしてもククイのしがみつきには勝てないらしい。どうなってるの?
「ククイ~~~っ! は~な~れ~て~!」
「うぅ~~~リノンちゃんやめてください~~~っ! 私は1週間もラナテュールさんに会えていないの~~~っ! だからその分【ラナテュールさん成分】を補給しなきゃいけないんですぅ~~~っ!」
「意味不明だぁ~~~っ! だいたいなんなのラナテュール様成分ってぇ~~~! そんなものはない~~~っ!」
「ずっとラナテュールさんといっしょだったリノンちゃんには分からないんですぅ~~~っ! どんどんと心の中ですり減っていくナニカ……それがラナテュールさん成分、すなわち、マナ! マナの補給なんですぅ~~~っ!」
イヤ、それはマナとチガウ。そうククイに対して心の中でツッコミつつ、私は自分のニオイをチェックしてみる。
うーん、私体臭はあまりキツくないと思っていたんだけど……。こういうのって自分では気づきにくいっていうからなぁ……。そんなククイが嗅ぎたくなるほど特殊なニオイを漂わせていたのだろうか? 今度から身体を拭くときはもうちょっとゴシゴシしよう。
まあそれはともかく、
「2人とも、そろそろ引っ張り合いやめようか。なんか巻き込まれてる私も疲れてきたよ」
私がそう言うと、渋々そうではあったがククイは私から離れてくれる。でもその代わりにむっとした顔でリノンを見た。
「あーあ、いいですねぇリノンちゃんはっ! 1週間ずっとラナテュールさんと2人きりで。私もそんな時間を過ごしてみたいですよ……」
「あ、いや……言うほど良いものではなかった、かも……」
「へ?」
遠い目をして答えるリノンは疲れたように笑っていた。まあ、昨日までずっと薬草をすり潰してもらっていたからね、ホントご苦労様だった。
「──あっ! ラナねぇちゃんたちだぁっ!」
ククイとリノンの騒がしさを聞きつけてか、今度は村の子供たちも駆け寄ってきた。みんな元気そうでなによりだった。
そう、元気そうではあったのだけれど、
「あれ? なんかみんなちょっと……ボロっちくなってない?」
子供たち、ククイもだけど、着ている服がみんなだいぶボロボロになっているように見えた。ところどころほつれたり、ひどいと破れたりしている子もいる。
「あはは……そうなんですよね……」
ククイが照れたように頬をかいた。
「実は畑を耕したり工事をしている間にだいぶ服が傷んでしまって……替えの服も多くないのでそのままになっているんです」
「新しい服は? 買えないの?」
「町に行ったことがないので……」
あ、そっか。そういえばそんな話を聞いていた気がする。確か大人しか町には行ったことがなかったんだっけ。
「じゃあ、せっかく道もできたことだし行ってみようか。町にさ」
そう言うと、ククイの顔がパァ~っと晴れやかになる。
「は、はいっ! 行ってみたいですっ!」
というわけで決まり。私たちは次に町へと行くことになったのだった。
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