第27話 ログハウスを手に入れた

 ジャングルにやってきて約1か月。さすがにそろそろ最初に作ったツリーハウスに戻ってみようとしたところ、「私もいっしょに行きます」とククイもリノンもついてきて、3人で向かうことになった。

 

「あれ、おかしいな。ここだったと思うんだけど」


 歩くこと約20分。1か月ぶりに戻ってきた場所にツリーハウスは無い。代わりとばかりに目の前には、なんだか豪華なログハウスらしき建物が建っていた。

 

 え? こんなところにログハウスなんてあったっけ?


「ねぇ、ククイ。この辺ってククイたち以外に人が住んでいたりするの?」


「いえ……聞いたことはないですね」


 ククイもまた首を傾げる。どうやらこのログハウスに見覚えはないようだ。


「しかし、ラナテュール様の言うツリーハウスなども見当たりませんね」


「そうなんだよね……おかしいな。あの大木の枝の上に作ったはずなんだけどな……」


「つまり、誰かがラナテュール様のご住居を破壊したと……? 不届き者ですね。命令をいただければ私が始末してきましょう」


「いやいや、そんなことはしなくていいよ。もしかしたら私が場所を間違えてるだけかもしれないし、辺りを調べてみようか」


 リノンの物騒な提案を却下し、私たちはログハウスの正面側へと回ることに。そうしてツリーハウスを作ったはずの辺りに差し掛かったとき、


「あっ」


「どうしました、ラナテュールさん?」


「……畑だ」


 ある大木の下には畑があり、その片方ではいまもナシの木が立派に生えていた。実のりもあるままだ。ということはつまり、


「やっぱり場所は間違ってなかった。この木の上にツリーハウスがあったはずなんだ……でもなんでそれが無くなって、代わりにこんな立派なログハウスが?」


 すべて木製でできたそのログハウスは新築同然でバルコニーもついていて、バカンスの宿泊先としてはぴったりの外観だ。ちょっと中に入ってみたいかも? なんて思っていると、突然、ギィっとそのログハウスのドアが開く。

 

〔ピギっ?〕


「えっ、ピンキーちゃん?」


 中からでてきたのはなんと、ピンキーちゃん。


〔マメマメっ?〕


 その後からムキムキ大豆くんたちが続いて出てきた。


「どうして君たちがログハウスに……?」


 首を傾げていると、ピンキーちゃんとムキムキ大豆くんたちが私にトテトテと駆け寄ってくる。そしてピンキーちゃんはペチンペチンと私をはたき、ムキムキ大豆くんたちはなんかゲシゲシとスネを蹴ってくる。


「えっ、ちょっ痛い痛い。地味に痛いよ。やめてやめて」


〔ピギィ~~~っ!〕


 ピンキーちゃんもムキムキ大豆くんたちも、どうやら怒っているらしかった。よし、話を聞いてみよう。


「えっと、なになに? 畑の留守番をさせられて、それから1か月間も音沙汰が無いなんてヒドいって? ……確かにヒドいねそれは。誰だそんなことしたヤツは」


 ペチンペチン、ゲシゲシッ。

 

「痛い痛い。ごめんなさい私です。お願いだから叩くのも蹴るのもやめて?」


 本当にごめんね? ちゃんと謝ったら許してくれました。


〔マメマメっ!〕


「ほほーん」


 ムキムキ大豆くんたちがこの1か月にあったことを説明してくれる。


「私がここに帰ってこない理由が生活環境にあるんじゃないかって君たちは思ったんだね? それで快適に暮らせるようなログハウスを作って待ってくれていたと……。ベッドもテーブルも作って水道も完備していると……。すごいな君たち」


 ピンキーちゃんとムキムキ大豆くんたちをナデナデして労わる。まさかそんな技術がこの子たちにあるなんて思わなかったな。どんなものかとログハウスの中を覗かせてもらう。


「おお~」


 なんとも綺麗な家だった。前にエルフの里で暮らしていたときの家とほとんど同じ家具もそろっていて、壁などの位置もだいたい同じ。これは暮らしやすそう……っていうか。


「むしろこれ、エルフの里にある私の家そのものの間取りだね。あれ? 君たちってもしかして私の記憶の断片でも持ってたりするの?」


〔ピギィっ〕


 持ってるんだって。どうしよう、ここにきてまさかの新発見だ。

 

 しかしここまで元の家を再現されているとなると、まさか……。私がそんなちょっとした不安を覚えていたとき、ククイが私の元に駆けてくる。


「ラナテュールさんっ! 大変ですっ!」


「どうしたのククイ?」


「キッチンが……何者かに破壊されているようですっ! なんかもういろいろと粉々でっ!」


「あー、やっぱりそうなるのかぁ……。大丈夫。それを壊したのは私だから」


「ラナテュールさんがっ⁉ なぜっ?」


 キッチンねぇ……。前の家のキッチンを最後に使ったのはどれくらい前だったかな……。確かシチューを作ろうとしてキッチンごと爆発させて、それっきりだった気がするなぁ。ピンキーちゃんたち、そんな破壊箇所まで忠実にトレースしなくてもよかったのに。


「ラナテュール様っ。2階にはいっぱい部屋があるみたいでした」


 いつの間に上っていたのか、リノンが階段から降りてくる。


「そうなんだ。じゃあいろんな用途に使えそうだね」


 主に植物の種の保管とか室内栽培とか研究室とかもろもろ、部屋がいっぱいあることには越したことがないからね。

 

「よしっ。じゃあこれからはここに住むことにしようかな。せっかくピンキーちゃんたちががんばってくれたことだしね」


「え、えぇっ!」


 ククイがなんだか残念そうな顔になる。そういえば私が村から出ていくって言ったときも泣いてたしなぁ……。


「ククイ、別に村とそんなに距離が離れていないじゃない。それにもうククイは私の国の民なんでしょ? じゃあそんなに寂しがることもないよ」


「は、はい……そうですね」


 ククイはしょぼんとした表情をしつつも、なんとか納得してくれているようだった。一方のリノンは突然私の前に片膝を着くと、


「ラナテュール様、お願いがあるのですが」


「え? うん。なに?」


「このログハウスの1室を私に貸していただくことはできないでしょうか? そこに住むことができれば、きっとなにかとお役に立てるかと思いますので!」


「えっ? ……まあ1室くらいなら別にいいよ」


 私の答えに、よっぽど嬉しかったのかリノンがガッツポーズをする。まあこの広さなら部屋はもう3、4室くらい余ってるだろうし、1つを私の寝室にして、残りを植物用に使えば充分事足りるでしょ、なんて思っていると、


「えぇ~~~っ! ズルいですぅっ!」


 ククイが憤慨したような表情でこっちを見てくる。


「それならラナテュールさんっ! 私にも1室貸してくださいっ! 私もそこで寝泊りをして、ラナテュールさんのお側にいたいですっ!」


「い、いやいや、ダメだよ。そんなことしたら村の子供たちが寂しがるよ?」


 それにもう1室貸してしまったら私の植物研究の場所も少なくなってしまう。


「う、うぅ~~~っ! リノンちゃんだけズルいですよぉ~!」


「ふふんっ♪ 私には帰る場所がないからね、仕方ないもんね♪」


「ぜんぜん仕方ないって顔してないですよリノンちゃんっ!」


 こうして、私(とリノン)の新しい住居が決まったのだった。

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