追放ハーフエルフは南の島でスローライフ~魔術の使えぬ無能だとエルフの里を追放されましたが実は天才植物使いです。追放先のジャングルで建国したら、移住希望者が多すぎて困ってます~
第26話 一方その頃エルフの里では~その8~
第26話 一方その頃エルフの里では~その8~
モンスターの襲来があったその日の夜。里長であるシーガルとその側近の幹部たちを集めた緊急会議が行われた。
そこに私──アウロラも呼ばれたわけだけど。
「はぁ……」
会議の行われている部屋に入ってさっそく、思わず大きなため息が出てしまった。
飛び交う意見は里の外周警備を増やそうだとか、後任の
「なんて無駄なことを……」
ボソリと言った私のひと言に、騒がしく会議を行っていたエルフの幹部たちがギロリとにらみつけるようなまなざしを私へと向けてくる。
「聖女殿、なにやらいま『無駄』などという単語が聞こえた気がしたのですが……? 聞き間違いですかなぁ……?」
幹部の1人がイヤミったらしく言ってくる。
「この状況をご理解いただけていますかねぇ? 我々の里に強力なモンスターが攻め入ってきたのですぞ? それも何百年ぶりに! その事の重大さに気づいておられませんかっ?」
「もちろん、状況は理解はしていますし事の大きさにも気づいていますよ」
「でしたらなぜ無駄などと仰る? 里が攻められたのであれば防衛策を練るのは当然のことではありませんかっ!」
そうだそうだと会議に参加しているすべてのエルフたちから非難の声が集まってくる。ああ、うっとうしいことこの上ないわね。
そんな中、シーガルが「まあ落ち着こうではないか」と場を収める。
「今回の一件で里の危機を救ったのがこの聖女アウロラ殿なのはここにいる全員が承知している通りだろう。あの筆頭守護者ミルドルドさえ惜しくも勝てなかった強大なモンスターを倒したのだからな」
いやいや、惜しくも勝てなかったって……笑っちゃうわ。まったく歯が立っていなかった様子だったけどね、ミルドルドは。
ちなみに彼は戦闘において
「さて、そんな聖女殿にもこの里の今後の防衛策について意見を聞きたいと思ったからこの会議に呼んだのだ。どうだろう、聖女殿。なにか考えは?」
「意見……私の率直な意見を申し上げてよろしいのですか、里長」
訊ねると、シーガルは首を縦にした。そう、それなら言わせてもらうとしよう。
「即刻、ラナテュールを追放先からエルフの里へと呼び戻すべきです」
私が意見を言うやいなや、議場はざわざわと騒がしくなる。気にせず、私は先を続ける。
「いいですか、私があなたたちの付け焼き刃な防衛策を無駄だと言ったのは、これがラナテュールを呼び戻すことさえできればすべて解決できる問題だからです」
「こ、根拠はあるのかね?」
「これまでラナテュールが筆頭守護者に就任してからの200年間で起こらなかったことが、いまになって立て続けに起こっている。それが根拠にはなりませんか?」
「う、うむ……。しかしそれは……聖女殿、本当にマナとやらが存在するとでも? 伝説上の代物だぞ?」
シーガルが未だ疑わし気な表情で問いかけてくる。本当に頭の固いジジイだこと。
「ラナテュールはこれまで真実以外を口にしていませんよ。いい加減にエルフの里の現状を認めましょう? 農作物も、里の防御も、もう取り返しがつかなくなる1歩手前までやってきてしまっています。すべてラナテュールが追放された後に、です」
「むぅ……しかしな……」
シーガルが周りに目を向けると、幹部たちが顔を見合わせて苦笑する。
「いまさら戻って来られると、いろいろ厄介ですな」
「ラナテュールの求心力がいま農業従事者の間で広がっていると聞きますからなぁ」
「うむ。ようやく幹部クラスを里長派閥で固めることができたというのに、また前里長派閥に力が戻ってしまう恐れが……」
エルフの里がこんな危機的状況にあってもなお、幹部たちが心配しているのは内政。ラナテュールが戻ってくることによって自分たちの地位が揺らぐのではないかということだった。
「……分かりました。あなたたちの考えはよく分かりましたとも」
私は乱暴に椅子を引いて立つと、そのまま出口へと向かう。
「せ、聖女殿っ? どこに行こうというのだ、まだ会議は──」
「これ以上あなた方と話すことなどなにもありませんっ! そんなに自分の地位が惜しいと言うのなら、その地位を大切に胸に抱いたままモンスターに喰い殺されたらいいっ!」
そう言い残すと私は部屋に戻り、いざというときのために用意しておいた3本の円筒を持って里の端にある森へと急いだ。もはやこの里に信用できる者など誰もいない。この里は完全に腐りきっている。
「私が甘かったわ……自分たちが危機的状況に陥れば、いつかラナテュールがこの里に必要不可欠な存在であったと気づき、そして追放先から呼び戻す手段を考え始めてくれるだろうって希望を持ってしまった」
でも違った。いまのエルフの里の幹部たちはエルフの里の危機よりもなによりも自分たちの地位の方が大切なのだ。まったくもってその身を削るつもりもない。
「こうなったらもう、頼れるのは自分の力だけ……」
森に着き、私は指笛を吹いて呼ぶ。
「おいでっ! グラム、エスカ、ファルコ!」
すると、風のような速さで3羽の鷹が姿を現した。
「あなたたち、お願い。カイトに頼んだことと同じことを頼まれてくれるかしら? ラーナを探して。そしてこれを渡してちょうだい」
3羽の鷹の首に円筒をかける。
「この中にはね、簡易転送術式の魔法陣が書かれた紙が入っているの。なるべく水には濡らさないようにね」
〔グワッ〕
「あなたたちはそれぞれ西、東、そして南を探してちょうだい。カイトはいま北側を捜してくれているみたいだから。よろしくね?」
〔グワッ!〕
了承の返事を残すと、3羽が空高く飛び上がっていく。私はそれを見送って、以前に旅立たせたカイトの様子を把握するために再び意識を同調させる。
すると、カイトの目を通じて見える雪景色。そこは間違いなく北の大陸だった。しかしカイトはこれまでエルフらしき姿を1度も発見はできていないようだった。
「……ふぅ。ラーナを目の敵にしていたシーガルとミルドルドのことだから、エルフが過ごせそうにない環境へと強制転送させるものだと思っていたけれど……北ではないのかもね」
そうなると、あとはエルフがほとんど住み着かない南が濃厚かもしれない。
「このままじゃ本当に里が滅んでしまうわ。ラーナ、お願いだから早く帰って来て……」
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