第13話 海に遊びに来てみたよ

 真っ白な砂浜、そこに打ち寄せる白波。太陽はギンギンに照っていて海は透き通った青色をしている。


「何回見ても美しいね、海っていうのは」


「はい。私たちも毎日のように見ていますが、未だに飽きません。海はとっても素晴らしい場所ですよ」

 

 ククイの言葉に、素直にそうだろうなと思えてしまう。それくらいに目の前の景色は偉大で、とても輝かしかった。

 

 他の子供たちが海に向かって待ちきれないように駆けていく。とても布面積の少ない衣服、【水着】とやらをその身にまとって。

 

「さあ、ラナテュールさん。私たちも行きませんか?」


「ああ、うん」


 ククイに手を取って引かれ、海へと歩き出す。

 

 そんなククイの格好もまた水着。腰の辺りをキュっと絞り、太ももの上くらいの短いたけのワンピース型の衣服だ。肩はほとんど丸だしで、綺麗に日焼けした褐色の肌が見えている。

 

 ちなみに私もそれとまったく同じ格好をしている。というかククイの【おさがり】だ。

 

『去年、胸の辺りがキツくなってしまったので水着を新調していて、古いのが仕舞ってあるんです。たぶんサイズは合うと思うんですけど……』


 そう言われて渡されたこの水着はピッタリだった。むしろ胸部には余裕すらある。なんだろう、非常にモヤモヤとするこの気持ちは。なにかに納得がいかない。

 

 まあそんなどうでもいいこと置いておいて。それにしても、


「ちょっと恥ずかしくないかな、この格好」


「え、そうでしょうか?」


「肩とか太ももとか丸出しじゃないか。エルフは普段あまり肌を出す格好をしないから、ちょっと気になって」


「そうだったんですね。と、とっても可愛らし……お似合いですけれど。もしかして、嫌でしたでしょうか……?」


「いや、別に嫌ってわけじゃないんだけど」


 ただちょっと抵抗があっただけだ。湖などで水浴びするときはそりゃ裸になるけども、でもそういうときは基本1人だし。人に見られるという経験が圧倒的に不足していた。


「恥ずかしがることなんてないと思いますよ。ほら、みんな同じような格好をしているでしょう?」


 ククイの言葉に、もうすでに海に入って遊んでいる子供たちを見る。確かに男の子は短パン1枚という格好で、女の子は私やククイと同じような格好だ。


「まあ、ここではそういうものなのか……。郷に入っては郷に従えって言葉もあるしね」

 

 気にしすぎもよくないのだろう。よし、と。覚悟を決めて海へと踏み出した。まずは浜辺に打ち寄せる波に足をつけてみる。ぱちゃり。

 

「……ひんやりしてる」


「海ですから」


 これだけ暑い気候であり日差しも強いから、私はてっきりもっと温いものかと思っていた。ザブザブザブと海にどんどんと入って行って、それから肩までつかる。

 

 ぺろり。


「ん! しょっぱい!」


「海ですから」


 なるほど、これが海か。海の水がしょっぱいという知識は昔読んだ本などに書かれていたので知ってはいたが、まさかこれほどとは。


 他にも浮力というものに驚いた。湖とはぜんぜん違って身体が浮きやすい。手足で水をかけば顔を濡らさずにスイスイと前に進むじゃないか。


「ふふふ……おもしろいな」


 それからは寄り集まってきた子供たちに水をかけられのでかけ返したり、何人かがかりで持ち上げられて水面に倒されたので砂浜にピンキーちゃんを召喚してそのツルで子供たちを海へ放り投げてやり返したりした。

 

 子供たちがキャッキャと楽しむので私もそれに付き合って、気づけば数十分。海から上がった頃にはもうクタクタだ。


「疲れた……」


「ラナねえちゃん、次は釣りにいこーよー」


「違うのー! ラナねえちゃんは女組だからいっしょに貝掘りなのー!」


 子供たちはまったく疲れた様子もなく、私の手を引っ張ってくる。

 

 しかしなんだ? ラナねえちゃん? 姉ちゃん? そういえば海で遊んでいる最中に子供たちからの呼ばれ方が一気に変わっていた。

 

「私は君たちの姉じゃないぞ?」


「そんなの知ってるよ。でもねえちゃんなのー!」


「……? ワケが分からないけど?」


 へばって座り込んでいる私の横へとククイがやってきて、クスリと笑った。

 

「ごめんなさい、みんなラナテュールさんに甘えているんですよ。とっても優しいから」


「……優しくした覚えなんてないけどなぁ」


「優しいですよ、充分に。本当にラナテュールさんがお姉ちゃんだったらなぁ……。でもそんなの無理だし、じゃあいっそ……」


「え?」


 私が訊き返すとククイは立ち上がって、少し赤らんだ顔ではにかんだ。


「いいえ、なんでもないです! それよりも行きましょうラナテュールさん。お夕ご飯用のお魚を釣らないと!」


 急かされるまま、私は立ち上がって木で作ったらしい釣り竿を振り回す少年たちの元へと行く。結局私たちはその日をほとんど丸一日、海で過ごしたのだった。

 

 そして翌日。

 

「シクシクシクシクシク……」


「ラ、ラナテュールさん……」


「うぅ……痛いよぅ……ヒリヒリするよぅ……」


「ラナテュールさん、肌弱いんですね……」


「うぅ……シクシクシクシクシク……」


 元々色白だった私は、顔や肩、足までが真っ赤に日焼けして大いに苦しんだのであった。

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