第12話 マナについて話してみた
ジャングルの村を襲ってきた奴隷商を追っ払ってから約1週間が経った。私はいま、村の子供たちといっしょに畑へと入り農作業についてをいろいろと教えているところだ。
「ラナテュールさんっ、こっちのお野菜はもう採っていい?」
「いいぞー。そこからそこまではもういい頃合いだろう」
「ねーラナテュールさん、こっちの果物はー?」
「もぎ取っていいぞー」
けっこうな豊作に、子供たちがキャッキャと騒ぎながら作業する。
「しかし、本当にすごいですね、ラナテュールさん」
ククイが額の汗を拭いながら私の側にやってくる。
「まさか1週間で畑にこんなにも作物が実るなんて……普通、何か月もかけて育てるのに」
「まあね、私ならではの裏技って感じかな」
「裏技……ですか?」
ククイがきょとんとした顔をする。
うーん、この話をしてもどうせ信じてもらえはしないだろうけど……。
「前にも少しだけ話したけど、この世にはね、
「まな?」
「そう。それは植物に宿ってその生長を助けてくれる力なんだ。普通の人やエルフには見えないけれど、私にはそれを見て操る能力がある。その力を上手く使えばね、農作物を素早く成長させることもできるんだよ」
「へぇ~……もしかして、ピンキーちゃんとかムキムキ大豆くんとかも、そのマナって力を使って出しているんですか?」
「そうだよ。元々存在する植物系モンスターではあるんだけど、その種に私を通してマナを注入することで私の命令を聞いてくれるようになるんだ」
マナを見て、そして操るということ。これはかなりの特殊体質らしく、同じ力を持っていたのはエルフの里に残された古い伝説の中の【緑のエルフ】だけだ。
当然、ハーフエルフとして里のエルフから避けられていた私がそれと同じ力を持っているんだと周囲に訴えたところで信じてもらえなかったけど。
「す、すごい……! やっぱりラナテュールさんは女神……このジャングルの女神なんですねっ!」
ククイは暗闇でも発光するんじゃないかというくらいに目を輝かせて私を見つめていた。
「そんな特別な力があるなんて、もう完全に女神確定ですっ!」
「いや、ただのハーフエルフだよ」
「はぁ~どうすればいいんだろう、私……。女神であるラナテュールさんに私の一生をかけてなにを返せば……それってつまり女神様への捧げものになるのかな? 捧げものってなに? 果物? お金? それともまさか……清らかな乙女……?」
「おーい、妄想から帰っておいでー?」
肩を揺さぶると、ククイがハッとした表情で我に返る。
「す、すみません……ちょっと重要な考え事をしていまして……」
「いや、独り言がぜんぶ聞こえてたからさ。ぜんぜん重要ではなかったことは確かだ。それよりも……」
私は思い切って訊いてみることにする。
「私の力のこと、変だとは思わないの?」
「変? なにがですか?」
「マナが見えるとか操れるとかさ、きっといままで聞いたことないでしょ? だから私の言ったことが嘘だとか、そういう風には思わないのかなってさ」
私の問いに、ククイはキョトンとした目をする。
「いいえ? だって他の人には無い特別な力なんですよね? なら聞いたことが無くて当然じゃないですか」
「うん。まあそれはそうなんだけどね」
「仮に、ラナテュールさんの言ったことが真実じゃなかったとしても、私はまったく構いませんよ」
ククイはにっこりとした、まぶしい笑顔を私に向ける。
「だってその力で私たちを助けてくれたことは事実ですから。ラナテュールさんへの感謝の気持ちが薄れることなんて絶対にあり得ませんっ!」
「そう、なんだ……?」
「そうですよ! カッコいいし、とても優しい力です。そしてそれは、ラナテュールさん自身も!」
ククイはぐっと握り拳を作って熱く力説する。
「私たちを危ないところから救ってくれて、そのあともこうやってなにもできない私たちに力を貸してくれています。ラナテュールさんも、ラナテュールさんのその力も、私たちにとってはとてもカッコよくて優しいんです!」
「……ははっ、変なの。そんなこと言われたの初めてだよ。……?」
胸に手を当てた。なんでだか分からないけど、少し胸の内側がジワジワと温かくなっている気がしたから。
…………体調は特別変わりない。気のせいかな?
「ねぇーラナテュールさん! 終わったー!」
「ラナテュールさんこっちの果物もぜんぶ取り終わったー!」
子供たちが泥だらけになりながら私の側へと駆け寄ってくる。畑を見れば確かに綺麗に収穫が済んでいた。
「ラナテュールさん、今日は海に行こー?」
「行こ―よ! いっしょに魚釣ろー?」
子供たちが寄ってたかって私の服の裾を引っ張ってくる。コラコラ、伸びる伸びる。
「こらっ! みんな止めなさい! ラナテュールさんが困ってるでしょーっ?」
「えーっ! ククイだけいっぱい話しててズルいー!」
「ズルーい!」
注意して引き離してくれたククイだけど、今度はククイの元に子供たちが集まってポカポカと叩いてじゃれつき始めた。子供たちってホント体力あるよなー。
それにしても海か……。そういえば何度か足を運んだだけで、実際にそこでなにかをしたことはなかったっけ、私。
「よし、行ってみようか、海」
「えっ、いいんですかっ?」
私の言葉に、なぜか1番パァッと明るい表情になったのはククイだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます