第6話 忠告を聞かないなら皆殺しもしょうがないよね?

 私の方へと顔を向けた男たち、その誰もが血に飢えた野盗のように粗暴な顔をしている。

 

「なんだテメェ。この村の生き残り……いや、チゲェッ! コイツ、エルフだ……ッ!」


 男たちが私への警戒レベルを一気に上げて剣を構えた。

 

 なんだなんだ? やる気なのだろうか。まあ私としても攻撃を仕掛けられたなら自分の身を守るためにやり返さざるを得ないわけだけれど。

 

 しかし、「待て」という低い声が広場に響く。


「ソイツはエルフじゃねぇよ……珍しいがハーフエルフってヤツだ」


 男たちの中心で腕を余裕そうに組んでいたいかつい顔をしたスキンヘッドがフンっ、と鼻を鳴らした。


「ハーフエルフってやつは普通のエルフに比べて魔力が極端に少ないからなぁ、まず魔術は使えねぇ。言わば無能のエルフってことだ。警戒することはねぇよ」


「へぇ、詳しいんだね」


「へへへ……。お前のお仲間を商品にしたこともあるからなぁ」


 商品、ね。もしかしてコイツらは奴隷商かな。それでこのスキンヘッドがこの男たちの親玉ってわけか。


「それで、ハーフエルフが俺たちの前に現れてなんの用だ? まさかガキどもを助けにでもきたのか? 俺たちがエルフに似た外見のお前を見て、魔術怖さに逃げていくとでも思っていたならアテが外れたな」


「いや別に。森が騒がしかったからね、なにが起こっているのかと思って様子を見に来ただけだよ」


「……は? それだけか?」


「まあね」


 私は人間同士のゴタゴタに巻き込まれるつもりはない。原因も分かったことだし、このまま立ち去ってもぜんぜん良かったのだけれど、しかし。


「そうかい。そりゃあありがとうな。わざわざ俺たちの商品になるために出向いてくれてよ」


 ザッ、と。奴隷商たちが剣を構えて私を囲む。

 

「え? なにこれ?」


「決まってんだろ。お前を捕まえて高値で売るのさ」


 スキンヘッドの奴隷商が、ククク、とこらえ切れない笑いをこぼす。


「今日はなんて幸運な日だろうな、女神が俺に微笑んでるとしか思えねぇ。ハーフエルフは変態貴族に高値で売れるからなぁ。ガキ100人分以上の金になるのさ」


 ははぁ、私を捕まえると来たか。なんという欲深さだろう。呆れて果ててしまう。

 

「まったく、本当に人間っていう種族は愚かだね」


「あぁ?」


「食べられもしなければ育ちもしない、本質的にはまったく無価値な金なんて物のために、他者をおとしいれて殺しもする。あまつさえ、自分の命すらもないがしろにしてしまうんだ」


「……はぁ? 言ってる意味がよく分からねぇなぁ。だが、少なくとも愚かなのは俺たちじゃなくてお前だったみたいだってのは分かるぜ? 魔術も使えねぇ半人半妖の出来損ないが俺たちの前にノコノコ現れちまったんだからよぅ!」


 スキンヘッドが仲間へと指示を飛ばす。それに従ってジリジリとこちらに剣を突きつけながら寄ってくる奴隷商たち。いまから手に入れた金でなにをしようかと考えているのだろう、彼らの表情はニヤニヤとまりない。


「はぁ……」


 私、いちおう忠告はしたよ? 子どもたちに加えて私にまで手を出そうという行為は【自分の命をないがしろにする】ものだって。それを聞いてなお、私に手を出そうというのであれば、それはつまり命が要らないということだよね。

 

 私はマナを強く込めた植物の種を地面にく。


「おいで、ピンキーちゃんたち」


〔〔〔ピギィィィイッ‼〕〕〕


 一瞬にして、私の周囲に私の身体の2倍の体長はあるピンキーちゃんたちが出現した。


「なっ⁉」


 驚きに身を固める奴隷商たち。でもその混乱も一瞬のものだ。

 

「ピンキーちゃん、大人の男たちはぜんぶ食べていいよ」


 直後、私を囲んでいた奴隷商たちの身体が地上から消えた。

 

 というよりかは、とてつもない早業でピンキーちゃんたちが男たちを丸飲みにしただけなのだけど。ほら、ボトボトと、その口に入りきらなかった男たちの手足が噛みちぎられて落ちてくる。

 

「食べ残しはダメだからね、ピンキーちゃん。大地への感謝を忘れずに」


〔〔〔ピギィッ〕〕〕


 うん、偉い偉い。ピンキーちゃんたちはツルを使って、落ちた手足もちゃんと拾って口に入れる。ペッ、と剣だけは口から吐き出した。


「な、な、なぁっ……⁉」


 奴隷商たちの親玉、スキンヘッドの男は引きつった顔でその様子を見ていることしかできないようだった。まあ、仲間のほとんどがいまの一瞬で死んでしまったわけだから呆然とする気持ちも分かるけどね。


「後悔先に立たず、ってやつだよ」


〔ピギィ……〕


 ピンキーちゃんたちが残りの奴隷商たちにも迫っていく。


「く、来るなぁッ‼」


 スキンヘッドがピンキーちゃんに剣を振るおうとするけれど、その腕をツルに掴まれた。メキョッ! という音が響く。


「ぐっぎゃぁぁぁあああッ!」


 そして悲鳴とともに剣を取り落とした。その腕からは大量の血が流れている。おそらく握りつぶされたのだろう。丸腰になったスキンヘッドの正面で、アーンとピンキーちゃんの大きな口が開かれた。


「やっ、やめ……! やめろ、やめてくれっ! 助けてくれっ!」


 スキンヘッドが私へと、汗と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を向けてくる。


「悪かったぁッ! 俺が悪かったからッ! 金なら払うッ! だから頼む、いや頼みますッ! お願いだから助けてくださいッ!」


「そんなこと言われてもね。ピンキーちゃんが食べたがってるから、ダメ」


「うそだろぉぉぉっ⁉」


 パクリ。悲鳴を最後にして、スキンヘッドもまた丸飲みにされた。

 

〔ピギィッ!〕


 トテトテとピンキーちゃんが戻ってくる。

 

 おーヨシヨシ、偉い偉い。私はピンキーちゃんの頭を撫で回しつつ、野太い悲鳴が聞こえるそのお腹に向けて声をかける。

 

「安心しなよ奴隷商。いま君の全身を溶かしているピンキーちゃんの消化液は強力だ。5分もすればぜんぶ溶けるから、遠からずその苦痛は終わるよ」


『熱い熱い熱い熱い痛い痛い痛い痛いぃぃぃいいいっ!』


 ピンキーちゃんのお腹の中から聞こえるのは悲鳴だけ。もしかしたら激痛のせいで私の声が聞こえてないかも。まあ別にいいけどさ。

 

 そのうち、スキンヘッド以外の残りの奴隷商を追っていたピンキーちゃんたちもまた私の元へ戻ってきた。

 

「みんなお疲れさま。美味しかったかい? ……ってあれ?」


〔ピギィ……〕


 ピンキーちゃんのうちの1体がなんだかとても悲しそうにしている。

 

「そう、君は取り逃がして食べれなかったんだ。それは残念だったね」


 どうやら奴隷商のうちの1人は逃げおおせてしまったらしい。追おうかどうか一瞬迷ったけど、まあいっかと放置を決める。


「とりあえず一件落着ってことで。あとはそうだな……」

 

 縄で縛られている子供たちを見ると、みんなビクリと肩を跳ね上げる。そして、ブルブルと震え出した。

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