第5話 事件現場に出くわしちゃった

 ギャーギャー、という珍しい鳥の声で目が覚める。うーんと伸びをし、欠伸をした。


「いやぁ、こんなにぐっすり眠ったのは久しぶりかも。昨日は久しぶりに身体を動かしたからかな」


 さて、必要最低限の生活に必要なものは昨日そろえたわけだから、今日はさっそくジャングル探索と行こう。ツリーハウスから畑の前に降りる。


「おっ! ナシの実がちゃんと成っているね」


 畑には立派に育ったナシの木が2本立っており、その枝にはたくさんの実をつけている。


「どれどれ……うん、美味しい!」


 ひと口かじるとみずみずしい甘さが喉を潤した。そこで、そういえば昨日から水を飲んでいないことに気づく。


「すっかり忘れていたけど、川を探した方がいいな……私たちエルフは数日飲まず食わずでも生きていけるけど、万が一って事態は起こるからね」


 というわけでオヤツ用にナシの実をもう1つもぎ取ると、私はもう1度ジャングルの外にある海に出る。

 

「えーっと、川の出口はどこかにないかな……お、あった」


 少し離れた場所だったがすぐに見つけることができた。

 

「それじゃあこの川と私たちのツリーハウスのある場所に水の通り道を作ろうかな。ムキムキ大豆くんたち、よろしくね」


〔マメマメッ!〕


 お願いをすると、ムキムキ大豆くんたちは川の上流に向かって走って行った。

 

 あの子たちは私のマナ操作によって、私の命令に対して最適な動きをするように設定されているから、きっとツリーハウスと川を最短ルートで繋げてくれることだろう。

 

「さて、それじゃあ私は気を取り直してジャングル探索でもしてようかな」


 私はオヤツに持ったナシの実をかじりつつ、森の中を歩く。

 

「うーん、やっぱりおもしろいなぁ」

 

 ジャングルというのは普通の森とは違って、その気候により植物の生命力がものすごいので多種多様な植物が絡まり合って生きている。生存競争も激しいので、植物たちがそれに勝とうとしてしのぎを削る中で新種ができたりもしているようだった。


「研究のし甲斐がいがあるよ、まったく」


 ワクワクする気持ちが止まらない。こんな僻地へきちに飛ばしてくれたことに、追放してくれたシーガルたちにはちょっと感謝の気持ちさえ芽生えているほどだ。


「……ん?」


 そうやって探索を楽しんでいたとき、森の異変に気が付いた。

 

「木々が騒いでマナが乱れてる……なにかあったのかな」


 森の中では動物や植物たちの命の取り合いというものは日常茶飯事だ。だから普通その程度のことでは木々から動揺にも似たマナの乱れは出ないハズ。

 

「つまりは、それなりの異常事態が起こったってことだ」


 触らぬ神には祟りなし、ここは放って置こうと思ったが、待てよ? と考え直す。

 

 だって私はこれからこの地に建国しようとしているのだ。なのにこんな異常なサインが頻繁に現れるようだったら安心できないじゃないか。

 

「メンドクサイけど、様子を見に行ってみるしかないかな……」


 やれやれ、と気乗りはしなかったものの木々から発せられるマナがより乱れている方向へと向かって行く。すると緑ばかりのジャングルの中に茶色い建物の屋根らしきものが見えてきた。

 

「あそこは……村か?」


 その場所だけは木々も茂みもなさそうで、切り拓かれて小屋のような家がいくつも立ち並んでいるようだった。

 

 村に入ってみる。


「ふーん、これはこれは」


 1つ目の小屋の外、そこには大人の人間の男女2人の死体が転がっていた。

 

 男も女も無残に殺されたらしく、血で真っ赤に染まっている。傷から見るに剣のような尖ったもので突き刺されでもしたらしい。


「なんとも物騒だね」


 血の臭いは好きじゃない。私は顔をしかめつつも、他の場所がどうなっているかを確かめるべく、村の中を歩くことにした。


「あっちこっちに死体がある……けど、子供のものは無いな」


 死体がたくさん転がっている小屋の立ち並ぶ場所を抜けて広場のようなところに出る。

 

 そこでは涙で顔をぐしゃぐしゃにしている子供たちが大人の男たちに両手と腰を縄で縛られて、数珠つなぎにされている。以前本で読んだことがあるので知っているが、それはまるで競売所に連れ出される奴隷のような格好だった。

 

「なんだい君たちは?」

 

「あぁ?」


 問いかけると、あくどい顔つきの男たちが私の方を振り向いた。


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