第2話 まずは拠点を作ろうかな

 私はあてもなくジャングルを歩いている……ワケではない。

 

「あとちょっとのはず……」


 道があるわけではないけれど、知識さえあれば行くべき方角はこの生い茂るジャングルの植物たちが教えてくれるのだ。

 

 しばらく歩いた先、木々の向こうにまばゆいばかりの太陽の光が見える。

 

「やっぱり、あった……!」


 ジャングルを抜けた先、そこにあったのは広大で果ての見えない水たまり──海だ。

 

「ジャングルの植物の中に塩気がないと育たない種類のものがあったから、もしかしてと思ったけど……本当にあった……!」


 いままでエルフの里の付近の森から外には一歩も出たことがなかったから、海なんて書物の知識でしか知らなかった。本当に水ばっかなんだなぁ。


「建国するにあたってはこの海を領地に入れるのは必須だね。前に読んだ人間たちの小説の中で出てきた【プライベートビーチ】とやらを作るんだ私は」


 白い砂浜は太陽に照らされてポカポカしている。うーん、この上に寝っ転がったらさぞかし気持ちいいだろうな。そのまま寝れそう。

 

「そうしたいのは山々だけど……まずは当面の活動の拠点を作らなきゃ」


 これも本の知識だけど、ジャングルには危険なモンスターがうじゃうじゃいるらしい。だから夜なんかは特に無防備にそこら辺で寝るわけにもいかないのだ。

 

 というわけで再びジャングルへと戻ってくる。海から離れすぎていない場所の、できるだけ太い木を見つけて、普段から常備していた【植物の種】をポケットから取り出した。


「おいで、ピンキーちゃん」


 森に立ち込めるマナを操ってその種に注入する。そしてそれを地面に蒔くと、ニョキニョキっと植物が生えてまたたく間に私の大きさくらいまで生長した。

 

〔ピギィィィッ〕


「やぁ、ピンキーちゃん」


 これはピンク色の大きな頭を持つ食獣植物しょくじゅうしょくぶつだ。正式名称をピンク・カルバーニ。私は親しみを込めてピンキーちゃんというニックネームで呼んでいる。私が愛用している植物で、両手はツルで両足は根っこ、頭部にあるのは自分と同じ体長くらいの生物なら丸のみにできてしまうほど大きな口だけ。ギザギザ牙がとってもチャーミングだ。


「ピンキーちゃん、ちょっと植物のツタを集めてきてくれない?」


〔ピギッ〕


 ピンキーちゃんはビシッと敬礼すると根っこの足でトテトテと走ってジャングルの中に消えていく。

 

「さて、他にもいろいろと必要だな」


 私はさらに他の種類の植物の種を蒔く。すると今度はいくつものムキムキの手足が生えた豆が現れる。


「ムキムキ大豆くん、君たちは木材を集めてね。枯木を見つけて板に加工してほしい」


〔マメマメッ〕


 ムキムキ大豆くんたちは器用で力持ちなので、物を運んだり作ったりするのが得意だ。


 これで必要な材料はそう時間もかからずに集まるだろう。私はその間に目星をつけた大木の太い枝によじ登って、その周りの葉っぱや小枝をマイ剪定鋏せんていばさみでパチンパチンと切っていく。


「失礼するよ。これから少し場所を借りるからね」


 そうして綺麗になったその太い木の枝に、ピンキーちゃんとムキムキ大豆くんたちが集めてきてくれた材料を使って小さな小屋を作る。ムキムキ大豆くんたちの助けもあって、1時間程度でそれは形になった。


「よしっ! ツリーハウスの完成だ」


 これで一番大事な拠点、夜を過ごす場所は確保できた。

 

「あとは……食べ物かな」


 ということでツリーハウスの下に畑を作ることにした。ムキムキ大豆くんたちがまたもや大活躍。数平方メートルの畑が2つ、すぐに完成した。

 

「それじゃあマナを注入した種を2つ、間を空けて植えて……はい、終わり」


 片方の畑に【ナシ】を植えた。これは水分量が多くほのかに甘い果物だ。私の大好物。元々育ちの早い木ということもあり、マナの力が合わさることで明日には立派に育ち実りをもたらしてくれるだろう。


〔ピギィ?〕


 畑を眺められる位置に根を張って待機していたピンキーちゃんが、なにも植えていないもう片方の畑をツルで指して疑問の声を上げた。

 

「なんでこっちの畑にはなにも植えないのかって? それはね、耕した土にしっかりとマナを溜め込むためさ」


 土には養分の他にマナが染み込むものなのだ。耕したての土はほとんどのマナが空中へと逃げてしまっており、その状態だと植えた種のマナが空っぽの土に奪われてしまう。マナを吸われた種から育った植物は貧弱に育ちやすく、長持ちしない。

 

「だからね、最低限必要な食料を得るためにナシの木をこちらの畑に2本だけ立てて、もう片方の畑は2、3日後にマナが溜まったタイミングで種を植えるんだ」


〔ピギィ~〕


 ピンキーちゃんは納得の様子で頷いた。うんうん、学習意欲があって偉い偉い。


 これはマナの見える私としては基本中の基本であり、だからエルフの里における畑の管理も基本的にはこのような方法でマナを充足させたうえで野菜や果物を育てていた。


「……そういえばシーガルやミルドルドたちは『空きスペースがもったいない! もっと多くの種を植えろ!』ってしつこかったけど、まさか私が居なくなったからってやり方を変えたりしないよね? まあ口を酸っぱくして何度も何度も理由を説明したし、大丈夫かな」


 さて、とりあえず今日はやることも無くなった。日も落ちてきたし寝ることにしよう。

 

「それじゃあピンキーちゃん、畑の見張りはよろしくね」

 

〔ピギッ!〕


 私は木を登ってツリーハウスに入ると、横になって丸くなる。

 

「いやぁ、明日からも毎日がお休みとか最高すぎるね……。これでもかってくらいスローライフを楽しむぞぉ……ぐー」


 久しぶりにいっぱい動いたから、意識が落ちるのはだいぶ早かった。

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