シーン2-1:ミドルフェイスと言う名のいう名の邂逅
一見普通のインテリジェントビルに見える、UGNの某市支部。いつもの輝橙焔ならば、到着してすぐに建物の中へと入るというのに、彼は未だにビルの前で目を閉じている。はたから見れば、お仕事体験に来た高校生が高層ビルに臆しているようにも見える。もちろんそう言うことではない。
焔は切り替えていたのだ。後ろ髪を引っ張る[日常]としばしの別れを告げ、任務に集中するために。あわよくば一日で終わらせたいなんて甘ったれた考えも本当は捨てないといけないのだが、その根幹にあるのはは一刻も早く[日常]に帰還するため。七生との約束を守るためだった。
――俺は、UGNチルドレンだ。
――任務は務めねえと。
――UGNの[嫌]な部分は、今は気にすんな。
「ホムラ?」
瞑想中に声をかけられ、思わず肩を硬らせて振り返る。聞き覚えのある呑気な声に、すぐに安堵した。
鷹峰ゆるり。以前とある事件で共闘したイリーガルの少女だ。どう見ても人間にしか見えないが、人ならざる存在――レネゲイドビーイングらしい。
「今の反応、ネコみたいだね、ホムラ」
「……おまえ、何でもかんでもネコに例えりゃいいって訳でもないぞ」
ゆるりの独特のペースに焔は調子を狂わされてしまう。けっして仲が悪いわけではなく、いわゆる漫才で言うところのツッコミとボケのようなものだ。
しかし、イリーガルである彼女がここにいると言うことは――と焔は思案を巡らせ、彼女に問う。
「お前も呼び出されたのか?」
「そう。ホムラもおしごと?」
「ああ、ったくこんな時間から招集なんて何だってんだ」
「わからない……ごめん」
しゅんとする焔は、あー、と目を一瞬逸らしたのち、ゆるりの頭を撫でた。
「お前が謝ることはないって。全部UGNが悪いからな」
「そうなの? でも、こまってた」
「あぁ、拒否権ないから腹立つ」
それは本音だった。いっそのことシフト制にしてくれたらいいのに。いや、それでも急に仕事は入れられるものだし、そう言うわけにはいかないのもわかっているのだが。
一通り愚痴はこぼせたので、いざ支部の建物内へと入ろうとすると、背後からバイクのエンジン音が聞こえてきた。
「悪い、このビルの駐輪場知らないか?」
ヘルメットのシールドごしに、うっすらと少年の顔が見える。
――知ってるか。
――んーん。
焔とゆるりは目配せして、見たことのない同世代の少年の正体を探った。声の調子から悪人の感じはしない。それはハヌマーンでなくともわかる。このビルに用があると言うことは、彼も[こちら側]なのだろうか。
「こっちだ」
とりあえず見取り図で確認した駐輪場に誘導することにした。
「……二人とも、このビルに用があった風だったな。ってことは、おまえらも[こっち側]なのか」
意外にも話を切り出してきたのは、バイクを手で押して歩む少年の方からだった。
同い年だと思っていたがどこか大人びていて、それでいて絡みやすい。
それにしても、そのような質問をしてくると言う意味。つまり──そう言うことなのだろう。
「こっち側ってことは、お前も同じか?」
「ああ」
愛車を停めて、少年はヘルメットを外す。その下からは、やはり焔たちと同じくらいの歳であろう黒髪の男前が現れた。
「狩谷叢太だ。イリーガルやってる」
イリーガルの割には場慣れしていそうな雰囲気を醸し出しているな、と。焔はなんとなくそんな印象を受けた。
「イリーガルか。俺は輝橙焔。チルドレンだ」
「わたしは鷹峰ゆるり。すきなものはネコ……イリーガルだよ」
「橙輝焔に鷹峰ゆるりか、よろしくな」
「ん、よろしく」
焔はさし伸ばされた叢太の手を、自然に受け取った。握られた手の上に、ゆるりがぽんと手を置く。
「よろしく、ソウタ」
妙な握手のやり方に、焔は「相変わらずマイペースなやつだな」と呆れていたが、叢太は「そんじゃ、支部に入るか」と特に気にしている様子はなかった。
気さくな叢太とマイペースだが面識のあるゆるり。このチームならやっていけそうだ……とは思いつつも。
──はあ…軽めの任務だといいな。
足の重さを、焔は感じていた。
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場面は変わり、焔たちが入ったUGN支部ビル会議室。
支部長である門守羊子は、日本支部支部長の霧谷雄吾からの連絡をモニター越しに受けていた。
「今日の正午未明、都内にあるUGN支部の一つが何者かの襲撃を受け壊滅しました」
内容が物騒な話であるが、あくまで必要事項のみが伝えられていく。
「残念ながら壊滅した支部から生存者は確認されていません。犯人の情報一切も現状不明のままです。ただ、件の支部の端末を通し、都内のUGN支部の情報が一部抜き取られた痕跡が発見されています」
凶悪なテロ行為──しかし、その目的がUGNの情報であるのならば、ここまで
派手なことをするものだろうか。否、なぜそうしたかよりも──と門守は霧谷の話に集中する。
「これより、都内のUGN支部に非常警戒態勢を敷くことを勧告します。更に襲撃発生の近隣である三つの支部に、この事件の調査及び解決の指令を発令します」
三つの支部。これには門守の支部も含まれていた。
「各支部は連携し、この事件の解決に臨んで頂きたい。状況から、犯人はかなり強力なオーヴァードである事は間違いないでしょう。これがFHによるものなのか、それともそれ以外の要因によるものか。どちらにせよ十二分に注意し警戒、調査に当たって下さい」
霧谷からの通信が終わると、タイミングよく会議室のノックの音が響いた。
「門守支部長、チルドレンのフランベルジュ、イリーガルのブルーメモリーとワイルドファングが支部に到着しました」
「分かったわ。エージェント達と共に会議室へ呼んでちょうだい
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「失礼します」
焔たちが案内された部屋は、まさに企業の会議室といった大部屋だった。
「よく来てくれたわね」
部屋の奥から、緑がかった紺の巻き毛が美しい、誰もが目を引く美人が迎えてくれた。仕事ができる女、という表現が初対面でもわかる。おそらく、ここの支部長なのだろう。
「緊急の事態ゆえ、改めてチルドレンである輝橙焔君には協力の指令を、イリーガルの二人には支援の要請をさせてもらいます」
「妖精?」
「お願いって事さ」
ゆるりの頭の中の猫のフェアリーを、一瞬で嚙み砕いて説明しなおす叢太。
「先ずは事態の説明をさせてもらってもいいかしら」
「あぁ、お願いします」
焔をはじめ、三人は一斉に頷いた。
三人の顔を確認したのちに、門守は、先の霧谷からの連絡事項を、わかりやすくかつ簡潔に説明する。
「……以上です、今後、我々は他二つの支部と連携し、事件解決の為の情報収集、調査を開始します。先の事件の概要から犯人は都内のUGNの情報の一部を入手している事は間違いありません。恐らく遭遇した際の戦闘は避けられないでしょう。その際はくれぐれも単独行動には出ないよう留意しておいてください」
「壊滅でしかも生存者が確認されてない…か。おまけに情報を抜き取って何かしようとしている…急いだほうがよさそうだな、状況は分かった。」
焔が情報をのみこんでいると、ゆるりが浮かない顔を浮かべていた。
「……いっぱい、しんじゃったんだね」
「そうだな……」
二人が苦い顔を見せていると、叢太が二人の肩を叩いた。
「支部一つを壊滅させる程だ。気合をを入れてかからねぇとな」
叢太の言葉に、二人の中で決意のようなものがみなぎる。
「……命がなくなるのは、悲しいことだよ。つづけるつもりならとめないと」
「あぁ、そうだな」
三人の少年少女の意欲を確認したのか、門守は頷いた。
「そうね。その為に私達が動くのよ。鷹峰さん、狩谷君、そして輝橙君。よろしく頼むわね」
「わかった」
「必ずぶちのめしてきます」
片手のこぶしを片手の手のひらで受け止める焔。その様子に、叢太は少し目を開く。
「なかなか過激な奴だな。お前。けど、嫌いじゃないぜ。オレは」
「そりゃどうも」
「……くれぐれも慎重に、ね。二人供」
二人の男子高校生のやりとりに、門守はたしなめの言葉をかける。
「へーい」
「りょうかーい」
溜息をつきつつ頼もしさを感じていたが、門守は気持ちを切り替えていく。
「……ともかく、先ずは少しでも情報を集めましょうか」
三人は了解の意志を示すべく、頷いた。
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