第7話 浴衣姿の眩しさ

 夏の休日の前の事である。


「ご主人様」


 帰宅すると玄関で美穂が待っていた。


「美穂さん、わたしの顔に何か付いていて?」


 その表情は真剣であった。


「な、何事?」

「ご主人様、夏祭りです。この期を逃すと残念な一年になります」


 要は一緒に行きたいたしい。明日は夏祭りであったか……。


「で、場所は何処ですか?」

「稲荷神社です」


 隣に居るのは、その稲荷神社の九尾である。


「つばき、何故、黙っていたの?」

「イヤ、関係ないし」


 御神体であるつばきが関係ないとか、どんな感じの夏祭りなのだ?違った意味で興味がわいた。


「とにかく、夏祭りはダメです」


 つばきが不機嫌そうに言うと。


「しかし、もう、予算を確保してしまいました」

「ここは、美穂さんの勝ちです。夏祭りは行く事に決めました」


 何やら、どうしても行きたい美穂と、後ろ向きなつばきが、わたしの判断に分かりやすく反応する。


「つばきは何でそんなに夏祭りが嫌なの?」

「想像してみて、自分の部屋に団体さんが来て飲食いをするのよ」


 あーそれは嫌だな。


「さて、決まったなら、やる事は一つ、浴衣です」


 近くの大型スーパーで買う事になったのである。


 大型スーパーに着くと早速浴衣コーナーに行く。店員のおばさんを呼んで試着できるか聞く。


「勿論、できます」


 色々着てみたが、わたしは桜の薄紅色が気にいった。つばきは藍色の紫陽花に、美穂はオレンジの向日葵である。


「ところで明日の着付は大丈夫なの?」


 店員さんのサポートがあってなんとか着れたのだ。不安に成るのは当たり前だ。すると、美穂が携帯を片手に店員さんと話している。どうやら、二人で着付サイトを確認しているらい。メイドの美穂にばかり任せておけない。

二人に近づくと。


「丁度いい、モデルが欲しかったのです」


 何やら嫌な予感がしたが、すでに遅しだ。


「パンツはどうしたものか?」


 はぃ?


「ここで脱ぐのは問題かと、それより上のブラの方です」


 何だ、この会話は……。わたしが浴衣を着る頃には目まいが酷くフラフラであった。


「わたしがたこ焼きを食べている時間で何があったのだ?百合の香りがプンプンするのよ」


 つばきを見かけないなと思ったら、フードコートでたこ焼きを食べていたらしい。しかし、鼻がきくな、わたしが百合百合な扱いを受けた事が分かるらしい。


「ま、どうでもいいが」


 わたしの事が心配でないのか?ホント小一時間は尋問したい気分だ。


 ところで、支払いはどうする?


三人分の浴衣にその他色々。かなりの金額である。

「カード一括払いで」

 あの父親の払いか、分かっていたが、気分が悪い。昨日も首を絞められる夢を見た。


 わたしは……。

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