第3話 メイドさんは、はわわ
お手伝いの丹野さんが腰を痛めてからはシフト制になった。代わりに現れたのは孫の美穂である。歳は同い年くらい。性格は極めて奥手である。
そして、最初の言葉が「ご、ご主人様は痛いことを望みませんよね」であった。言葉の意味的にはわたしが美穂に痛い事を望むのかと言っている。
しかし、お前も百合展開しか考えてないのか?それこそ、小一時間、尋問したい気分だ。とにかく、深い事は考えないでおこう。
「わたしは痛い事など望まないし、美穂さんの権利は守る」
わたしは広間の椅子に座り美穂に優しく言うのであった。
「ご主人様は安心できる人で良かったです」
その『ご主人様』とはむずがゆいな、他の呼び方はないのかと思う。
「もねさんと呼んでくれるかな、ついでに熱いコーヒーを一杯もらおう……」
「は、はい、ご、ご……」
あれ?フリーズした。しばらく様子を見ていると。
「ご、ご、ちがう、も、も、もねさん」
おー言えた。わたしは心の中で拍手をする。そんな美穂を見つめていると……。
また、プルプルと震え始めて「ご主人様、見つめたらダメです」と言う。
うむ、スタートに戻るのか……。
仕方がない、祖母の丹野さんもお嬢さまと呼んでいるし、ご主人様で良しとするか。
「それで、コーヒーは?」
「すみません、直ぐにお持ちします」
キッチンに急いで駆け込む美穂であった。それから、小一時間が経った。やはり、百合展開の尋問をしておくべきであった。渋々、キッチンに向かうと。
「あ、あ、ご主人様、コーヒーの豆が見つからなくて。やはり、コーヒーは豆から挽いてでないと」
「インスタントコーヒーしかないぞ」
「なるほど、それで豆が無かったのですね」
「次からは豆を用意しておくよ」
「あ、ありがとうございます」
本当にヤレヤレだ。
その次の日の事である。
沢藤市はターミナル駅を中心に栄えた街である。郊外には大規模なショッピングモールもあり、それなりの都会だ。そして、今日はメイドの美穂と共にコーヒー豆を入手するミッションだ。
最近は携帯でなんでも調べられるから、実に便利だ。目的地はターミナル駅の隣接する大型店だ。
テナントが入るエリアに到着するとコーヒー専門店を探す。
「ご主人様、コーヒー豆の専門店、ありました」
そうか……?
やはり、人前でご主人様は目立つな。メイド喫茶では女性客を『お嬢さま』と呼ぶ事があるらしい。丹野さんの祖母も『お嬢さま』だったしな。
しかし、この場ではお嬢さまでも恥ずかしい。わたしがコーヒー専門店の前で首を傾げていると。
「誰だ?」
突然、後ろから抱きついてくるのはつばきであった。出たか、百合娘!
「もねちゃん、わたしを置いてデートなんて許されないよ」
わたしは後ろから抱きつくつばきから離れて百合展開を一旦停止する。
「流石、九尾だ、わたしの居場所がわかるのか?」
「イヤ、携帯のGPS機能だし」
……。
わたしはこれでもかと思うほどジト目でつばきを見る。
「嫌、止めて、その汚物を見る様な視線は……わたし感じちゃう」
は?この九尾ことつばきはソレなのか?
イヤ……待て……しかし……。
わたしが混乱していると。
「つばき様、ここは公共の場です、Hっな事はダメです」
流石、柿石家のメイドだ、言う事が違う。わたしはうんうんと頷いていると。
「ヤルなら、女子トイレの個室に押し込んでからにしましょう」
ヤー、コーヒー豆を買わないと。わたしは現実逃避をしながら専門店に入るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます