第2話 悪夢は現実に……

 これは半年後の未来の事である。わたしは父親である柿石司をナイフで刺していた。


 返り血が高校の制服を濡らす。


 つばきは呆然とその光景を見ていた。


「つばき、一緒に逃げよう」


 わたしは血だらけの制服を脱ぎ。着替ええる。


 その時間ですらつばきは立ったままである。必要最低限の物を持っていけば良いのよ。


 つばきの手を取る。なされるままのつはきとわたしは玄関から出て駅に向かう。


「もね、何処に行くの?」

「東京よ」


 わたしは駅に着くと新幹線の切符を買う。


「丹野さんが現場に気づく前に列車に乗りましょう」


 丹野さんとは柿石家のお手伝いさんである。つい最近に代変わりをしたのであった。


 新幹線に乗り込むとドっと疲れが出てうとうととする。


———……。


 また、浅い夢?慣れないベッドの上から降りると窓に近づく。


 違う、半年後の未来だ。これから起きる現実だ。


 朝、目覚めると、知らない天井が見えた。いいえ、家出するまでこの部屋に住んでいた。


 そして、半年後……。


 イヤ、忘れよう。父親には感情など湧かない。


「もね、ちゃん、起きた?」


 つばきが部屋に入ってくる。そして、ベッドにダイブである。わたしはとっさに避けるが、危険な行為に呆れるのであった。


「危ないでしょ」

「だって……」


 わたしはベッドから出ると布団に丸まり物欲しげに眺めている。それは小動物のようであった。


 さて、この百合娘はどうしてくれよう。このままでは、わたしがウケになってしまう。


「お嬢さま、朝ご飯の支度が整いました」


 そこに入ってきたのはお手伝いさんの丹野さんだ。丹野さんは腰を痛めてから孫の美穂と時々変わっている。今朝は老婆の丹野さんのシフトか。


「おや、つばき様もここにおいですか」

「ふふふふ……」


 不敵な笑みを浮かべるつばきは余裕であった。


 それから、広間で朝食を食べるわたし達だけであった。父親は朝方まで仕事をしていて、この時間になって仮眠を取るらしい。昔と何も変わらない父親の姿は無関心に例えられた。


「丹野さん、コーヒーを一杯もらおうかしら」

「はい」


 丹野さんが席を外すとつばきが微笑む。その瞬間、体が動かなくなる。


「九尾の妖術よ、これでもねはわたしのモノよ」


 つばきは音もなく、わたしに近づいてくる。そっと、くちびる同士が触れる瞬間に父親が広間に入ってくる。


「あら、残念」


 つばきはわたしから離れて妖術を解く。広間に入ってきた父親は丹野さんを探している。


 丹野さんがコーヒーを持ってくると。


 父親は濃い緑茶を注文する。朝ご飯も食べずに仕事か……。


 そんな事はどうでもいい。今日から沢藤学園に転校だ。わたしは朝食を食べ終わると自室に戻る。ハンガーにかけられたブレザーの制服を着るとスクールバックを手に持ち部屋を出ると、そこには制服姿のつばきが立っていた。


「一緒に登校だね」


 はいはい、と軽く返事をしてつばきと一緒に自宅を出発する。


「しかし、つばきは嬉しそうね」

「もねちゃんと一緒だからね」

「わたしのどこがいいの?」

「子供の頃からうちの神社に来てくれたよね。小さな頃は男の子みたいだったよ」


 そうか……九尾は歳をとらないのか。


 考えてみれば中学生で家出とか無謀なまねをしたものだ。


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