第156話 社宅に一人
学校帰り、いつも通りスーパーに立ち寄って献立を考える、最近の俺のルーティーン。
それに水を差す悪女からの連絡。
『あ? 藍沢く〜ん? 今日なんだけど晩御飯つくらなくてもいいから! 皆の衣装合わせたあと、ミーティングして親睦会することになったの』
「はぁ……分かりました……」
『そーゆー事だからよろしくっ!』
プツリと電話が切れて俺は思わず「何が『よろしく!』だよ」と呟いてしまった。
何なんだよ、もっと早く教えてくれれば良かったのに……と言ったところで杉岡美智子は変わらない。だけど、どのみち朝飯の支度と掃除はしないと駄目か、なら案外邪魔が入らなくていいかもな? 今日は掃除デーとするか……。
みんな何時頃帰って来るんだろ? 小腹が空いたとか言われたら面倒だぞ? 女子高生は成長盛り、俺の家でもモリモリ食ってたしな……。甘い物でも用意しておこう。
俺は幾つかの食材を買い込んで社宅に向かった。
晩飯は作らなくていい、俺は買って来た食材を冷蔵庫に仕舞って掃除道具を物置に取りに行く。
さあ、始めるか。社宅の三階に上がり廊下の一番端からモップを掛け、階段に踊り場そして階下へと移動して行く。
一階に降り立ちいつも掃除している食堂を素通りして玄関を箒で掃く。
玄関は外気でひんやりしているが上半身を動かし続けている俺の体は熱いくらいだ。郵便受けにたまっていた広告の束を取り出してリサイクルゴミに纏める。
モップを物置に片付け、ふと俺は風呂場の前で立ち止まった。
たまには掃除するか……。一応社宅内は俺が掃除しなければならないのだが、ここだけは男子禁制な気がして掃除は彼女たちにまかせっきりだ。
今日は誰も居ないし入ってもいいよな?
俺は恐る恐る脱衣所のドアを開けた。
「なにこれ? 汚ねぇっ!」
脱衣所は6畳間くらいのスペースで壁には大きな鏡が三枚張られ、カウンターテーブルに丸椅子が三つ置かれていた。
カウンターには化粧品がぐちゃぐちゃに置かれ、液体が乾いた跡が天版にこびりついている。背後には大きめのロッカーが幾つかあり、ドアが半開きになっていてバスタオルが掛けられていた。
朝も結構風呂場に出入りするモデルがいるとは思っていたが此処で化粧をしていたのか? 奇麗どころが集まった秘密の花園と俺は勝手に想像を膨らませていたが、実際は絶句するほど乱雑で汚い。
風呂はどうなってんだろ? ちょっと怖い、俺はカビでドロドロの風呂場を想像してしまい身震いした。
脱衣所と風呂場を仕切る樹脂扉を開けると中は意外と清潔だった。安心した、千里や花蓮も入っているのに汚かったらさすがに幻滅してしまうところだ。
湯船は広く二人はゆったり浸かれそうで、シャワーも二つ付いている。
「それじゃあ、やりますか」
俺は独り言をいいながら腕まくりをして風呂場の掃除を始めた。
10分ほどで風呂の掃除は終わったが、問題は脱衣所だ。乱雑とした化粧品は幾つかの塊に分けられているような気がする、これは個人個人で分けてあるのだろうか? 下手にいじって文句を言われたら嫌だな……カウンターは拭くだけ拭いて化粧品は混ぜないでおこう。
俺はキッチンに布巾を取りに行き、戻るとカウンターと鏡を拭き上げ、続けて床に掃除機をかける。
ロッカーを片付けていると中に透けた下着が落ちていた、これってあげはのじゃないか? 俺はその下着がどう見ても使用済みな気がして腰を屈めて暫し眺め、人差し指と親指で警戒しながらつまんだ。
やっぱり、使用済みじゃねーか! 頼むってあげは!
「あーだりぃ……」
脱衣所のドアが開き、頭を掻きながらラベンダー色のキャミソールにショートパンツ姿のあげはが中に入って来て、下着をつまんでいる俺と目が合った。
「い、いや、違うんです!」
あげははニヤァと笑って俺に近づくと、摘まんでいた下着を奪う。
「作ちゃん! 犯罪はダメだよ?」
「そーじです! 掃除っ!」
俺は立ち上がって反論する。
「千里がヤラせてくれないから溜まってんの? なら私が伝えてあげよっか?」
「いいですっ! 余計なことしないで下さい! だいたい何なんですか、この汚さは!」
「勝手に触んないでよ作ちゃん! 並べてあったんだから。いじったらわかんなくなっちゃうでしょ?」
あげはは鏡の前に立ち、化粧水のボトルを手に取り、キャップを開ける。
「並べてあった? 転がってただけでしょうがっ!」
「うるさいなぁ……お母さんかっ!」
振り向いた彼女は前屈みになって俺の鼻先を指で突いた。
「早く出てって! 女の子には見られたくない準備があるんだから!」
「ちょっと待って下さい、まだ掃除の途中なんです! もう少しで終わるからあげはさんこそ外に出て下さい」
「ふーん?」
ふてぶてしい態度のあげははキャミソールの裾を両手でたくし上げ着替える素振りを見せる。
ブラを着けていない彼女の下乳が僅かに見え、俺は赤面して後ろを向いた。
「ちょ! 何やってんですか!」
「これでも出て行かないつもり? ほれほれ?」
あげはの生温かいキャミソールが俺の頭に被せられ、良い香りが漂った。
え? 脱いだのか? 今、どういう状況だよ!
「わ、分かりましたってっ!」
俺は慌ててあげはに背を向けたまま掃除機を抱えて脱衣所を飛び出し、閉まりかけのドアの隙間からキャミソールを後ろ手に投げ込んだ。
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