第155話 通学路
数日後、朝。
「レオナ! 早くしてくれ」
「ごめーん、待ち遠しかった?」
「いや、待ちくたびれたんだけど……」
社宅の玄関前に集まった俺と同級生の三人。毎日恒例になりつつある集団登校ははっきり言って照れくさい。レオナ、花蓮、一ノ瀬の三人は競うように制服のスカートを短くしていてちょっとした事でパンツが見えるくらいだ。
「三人とも、そんなんで寒くないのか?」
「寒いけどいいのっ!」
長細い生足が眩しいレオナは俺の背中に覆いかぶさって朝っばらからじゃれて来る。
「レオナっちもやせ我慢してないでニーソ履けばいいのに」
花蓮が呆れたように腕を組む。
「でも三島の絶対領域も寒そうじゃん! 二人ともストッキング履きなよ」
二人の足を覗き込む一ノ瀬は苦い顔をする。
「嫌だよ、一ノ瀬ちゃんの黒ストッキングだって薄すぎて逆にエロいじゃない」
俺の背中にくっついたままレオナが笑う。
それは言えてる、しかもたまに見えてしまうストッキング越しのパンツがなんともいやらしいのは否定しようがない。
「作はどの足が好き?」
うっ! 何だよその上目遣い。花蓮のツインテールは最近長くなって可愛さを増していて、そういう目で見られるとキュンとして胸の奥か苦しくなってくる。
選べるわけねーだろっ! だってどの足も見てたらドキドキしてくるし……。
「行くぞ!」
俺は駅に向かって歩き出した。
「あーっ! 逃げるなっ!」
一ノ瀬と花蓮が俺の両腕にしがみつき、レオナが背中にくっついて離れない。
「うわっ! 歩けないって!」
いろんな柔らかい感触が全身を包み込み、俺は自分の顔が熱くなるのを自覚する。
「作クン! いってらっしゃい!」
ヤバいっ! 俺は石像のように体を強張らせ、引きつった顔で振り返る。
そこには怖いくらいの笑顔で手を振る千里の姿、しかもよく見ると眉をヒクつかせていいる。
「「「いってきま〜す!」」」
三人はこれ見よがしに俺に抱きついて千里を煽る。
止めてくれ、帰ったら殺されるから……。
「は、離れろって!」
千里の手前、俺は大きな声で纏わりつく三人に言った、というよりは千里にアピールする。
「嫌だっ! 寒いから離れないっ!」
レオナが俺の背中にぺったりとくっ付き、柔らかい二つの膨らみがムニュリと潰れる。
「うわっ!」
なにこの感触! 背中が溶けそうなんだけど。
「どしたの? 作也?」
不思議そうにレオナは俺の顔を横から覗く。
「走っぞ!」
俺は纏わりつく美少女から逃げ、千里の視界からも逃げた。
電車とバスを乗り継ぎ、高校に着くといきなり誰かに背中から体当たりを食らい、俺は地面に転びそうになった。
「な、何だぁ⁉」
「おい作也! 今日も美少女はべらせて登校とは! お前は全校男子の敵だ!」
狼狽する俺の背後で仁王立ちする尚泰、彼の周りで何故か拍手が沸き起こる。
「『何だぁ⁉』じゃねえっだろっ! 毎日毎日見せつけやがって、この野郎っ!」
尚泰は俺をヘッドロックしてこめかみを拳で容赦なくグリグリする。
「いでででっ! 止めろっ!」
「何怒ってるの? 尚君」
レオナが尚泰の背中をタッチして顔を近づける。
可愛い顔が急接近して尚泰は俺の頭を放して顔を赤らめた。
グリーンの瞳に尚泰が写り込み、金色の前髪がサラサラ風に揺れているハーフ美少女、彼女に見つめられれば男なら誰でも魂を奪われるだろう。
「ん? どうしたの? おーい、尚君!」
レオナは彼の目の前で手のひらをパタパタさせて首を傾げた。
俺は放心する尚泰から離れ、レオナの綺麗なうなじと揺れるポニーテールを無意識に眺める。
はっ! っと我に返った尚泰は「うるさいうるさいっ!」っとレオナに叫んだ。
「レオナ! その手には乗らねーからな! どうせお前も作也の嫁だろ!」
「嫁? まぁ、そうだけど……。何? 尚君、作也にヤキモチ焼いてるの?」
うわぁ! 煽るなって! 今の言葉、完全に尚泰刺殺したぞ!
言葉の攻撃によろめく尚泰に俺は抱き着いて耳元で囁いた。
「尚泰、今度モデル紹介すっから落ち着けって! マジもんのモデルだぞっ!」
「ほ、ホントか? だったら今日合わせろ、今日!」
俺の首を両手で絞め、ガクガク揺らす尚泰。お前、そんなガッつくからモテないんだって! 顔が必死過ぎて女の子が引いちゃうだろ?
「今日は無理っ! だけどちゃんとセッティングしてやっからっ!」
「作っ! 先行ってるから」
花蓮が俺と尚泰のやり取りにウンザリしたかのようにスタスタと校舎に向かい、レオナと一ノ瀬もついて行く。
「俺たちも行くぞ!」
さっき迄と打って変わってご機嫌な尚泰。マズッたな、変な約束しちまった……。紹介ったってあの人しかいないよな……。俺は黙っていれば可愛いにわかギャルを思い浮かべ、土下座で尚泰に会うよう彼女に頼み込んでいる自分の姿を想像した。
放課後、俺はスクールバスの行列に一人で並んでいた。
何だこの違和感、俺の周りに鬱陶しい女の子たちが居ないだけでおかしな感じがしてしまう。レオナ、一ノ瀬、花蓮の三人は衣装合わせがあるとかでタクシーを高校に呼び付けて乗り合いで何処かへ行ってしまい、たまにはアパートに戻ろうかと仁科坂に一緒に帰らないかと声を掛けたが彼女も用事があるとかで断られてしまった。
でも、これが本当は普通で最近が異常だっただけだ。
だって俺は今まで女の子と付き合ったことなんてなくて、キスはおろか女の子に触れた事さえ殆どなかったんだ。それが今ではしょっちゅうキスをしまくって危うく体の関係にすらなり掛けてしまったとは……。
社宅に行くのが怖い、こんな事なら尚泰みたくモテない方が心が休まるだろうに。
これは贅沢な悩みか?
ふと、懐かしいワードが頭の中に蘇った。
『美少女は観賞用』、いつしかそれが触れあえる存在になり、手に入れたい、手放したくないという感覚に陥り、俺の心を蝕んでいくようで、体がすり減ってしまった気がしてならない。
誰も傷つけたくない……。
俺の自己中な考えがきっと多くの人を傷つけるのに……。
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