第145話 取り囲まれて
「ねえ作! そんなに急いでどこ行くのよ?」
放課後、駐輪場で花蓮が俺を呼び止めた。
「バイト先だよ。千里ん家でご飯作るのが俺の仕事――い、いや、社宅の食堂でメシをだな……」
一気に顔色を変えた花蓮が物凄い不満げに俺の自転車の後ろに跨る。
えっ? 何? 何乗って来てんの花蓮さん…………。
「その話、詳しく聞かせてもらおうかしら?」
声がデカいって! 他の女子に気付かれるだろ。
「何々? 花蓮ちゃんどうしたの?」
金髪美少女が俺の自転車の前タイヤに片足を乗せて立ちはだかる。
げっ! レオナかよっ! 相変わらずお前は無警戒だな、パンツ見えてんぞ!
「レオナ、加奈子! これから作の尋問するから付いて着て!」
花蓮が号令を掛けると、レオナの陰から一ノ瀬も姿を現し、薄笑いを浮かべて飛び跳ねる。
「やった、尋問したいっ! 藍沢! 痛くするけど喜ばないでよ?」
おい! それ、尋問じゃなくて拷問だろ!
「じゃ、どこで痛めつけようか?」
花蓮が二人に平然と言う。
「そぐそこのファミレスでいいんじゃない? 藍沢がきっと奢ってくれるよ」
はあ? 食い盛りの女子が三人もいたら財布が空になるって!
「ずるいずるいっ!」
一ノ瀬がファミレスのボックス席で俺の隣に座れずに立ったまま声を荒げる。
「加奈子がモタモタしてるのが悪いんでしょ?」
花蓮はこれ見よがしに一ノ瀬の目の前で俺の上半身に腕を絡めた。
その隣でレオナは俺に体を預けるようにべったりと寄り添って来る。
「なんか久々だなぁ、最近作也ぜんぜん
レオナは文句ありげに俺の顔を下から覗き込み、物凄く顔を近づけて来た。
まつ毛なげぇ……グリーンの瞳も相変わらず綺麗でレオナに見惚れてしまう俺。
視界がいきなり真っ白になった、手拭きタオル?
「……って、熱っちーっ!」
「作っ! 今、すっごくいやらしい顔してたでしょ! そっちじゃなくてこっち見なさいよ! こっち!」
制服の襟元をギュッと掴んだ花蓮が俺をレオナから引き剥がし、キスできるほどの距離で睨む。
あー疲れる……こうなったら!
俺は花蓮の顔に顔を寄せ、じりじりと迫る。
「な、な……」
花蓮は顔を赤らめて口をワナワナさせながら背中を傾斜させて距離を取る。
「あーダメっ! こ、こんな所で出来る訳ないでしょ?」
俺の頬を手のひらで押す花蓮に「何がだよ?」と、わざとらしく聞く俺。
「えっ? 何って……その、だから……」
ごにょごにょと語尾を濁らし、視線を逸らす花蓮の恥ずかしそうな顔。可愛い……お前、そんな顔出来たっけ? 幼馴染の恥じらいに本気でキスしたくなる感情が込み上げて来る。
「なんか藍沢って最近女慣れしててちょっと引く!」
一ノ瀬が俺の真向いに座って大きなため息を付く。
「あははは」
乾いた笑い声を返す俺に、三人の美少女が不満げな態度を示す。何だこのプレッシャー……居心地が悪い、この空間は俺だけに怒ってるんじゃない、彼女たちは互いに牽制し合い、俺を求めて来る。彼女たちとの個々の距離感は絶妙で深くも浅くも無い、それは俺が調整している訳では無く、もしかしたら彼女たちの闇カルテルによって均衡が保たれているのかも知れない。
「てか、ここに来た意味忘れてない?」
花蓮が本来の目的を思い出し、「千里っちの家で食事作るってどういうこと?」と真顔で俺に聞く。
「それはだな……」
ええい! 何を緊張してんだ俺は! 俺は仕事として管理人を任されているだけじゃないか、別に隠す必要も無いし、やましい事もしていないんだから。
「俺の新しい仕事がオフィスサジタリウスの社宅の管理人で、そこで晩飯と朝飯の用意をすることになってるんだよ」
「へぇー? あそこのモデルになったら作也とまた一緒に暮らせるのか……」
レオナがポツリと言った。
「ちょ! レオナ、アンタ抜け駆けするつもり?」
花蓮が席から立ち上がり、俺を挟んで座るレオナに食って掛かる。
「さあね、どうしようかな?」
「ア、アンタまさか杉岡美智子のこと忘れて無いでしょうね?」
「それを加味しても魅力あるなぁ、社宅暮らし……」
ぐぬぬと花蓮は歯を噛みしめて憎々しくレオナを見つめている。
「そっか、私も社宅に入ればいいのか、お母さんに相談してみよ」
一ノ瀬は手のひらに握りこぶしをポンと当て、一人納得している。
「えっ! 加奈子まで? そんなのズルいよ……」
はぁ? それってヤバくねえか? 社宅に緊張感が溢れるだろ!
「ま、待て、落ち着けみんな。別に俺は千里と暮らしてる訳でも無いし、仕事として飯作ってるだけだから。それに他のモデルも住んでるから、ホントただ働いてるだけだって!」
「「「他のモデルも住んでる⁉」の⁉」って⁉」
三人は声を荒げて立ち上がり、俺を取り囲むように見下ろす。
な、何! そこ怒るとこか? 俺は体を縮めて彼女たちの顔を見上げた。
三人は腕組みをして、『ゴゴゴゴゴ』と闇のオーラを出しているようで、俺は蛇に睨まれたカエルの如く身動き一つ出来なかった。
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