第128話 手がかり
二時間目が終わった頃、俺は高校に着いた。
教室に入ると花蓮が俺を見つけるなり近寄って来て「どうだった?」と耳元で囁く。
「ダメ、まったく連絡が取れない」
「チッ! 何やってんだあのバカ! 居ないくせに作を翻弄してっ!」
「花蓮、なんか悪いな。千里の事はもう気にしないでくれ」
「はぁ? アンタだけの問題じゃ無いから! こんな終わらせ方は絶対に許さない。これじゃ勝ち逃げみたいじゃない! 要らないから返すって言ってるのと同じだし、だったら最初っから手ぇ出すなって感じ! ホント腹立つ」
腕組みをして指をせわしなく動かしている花蓮は相当イラついているみたいだ。
「いやぁ……そこまで怒らなくても……」
「アンタがだらしないからこうなってんでしょ? 少しは反省しなさいよ!」
花蓮は俺の背中を平手で強く叩いて廊下に出て行った。
痛ってーっ! 最近の俺に対する花蓮の暴力行為はエスカレートしているような……。花蓮と付き合う奴は大変だな? 君も千里に劣らず彼氏を翻弄出来ると思うぞ。
そんな事を思いつつ、一ノ瀬の机の前を通り過ぎる。
「お早う、一ノ瀬」
彼女は自分の席に座ったまま俺を見上げて一瞥し、「お、お早う……」と小さい声で言葉を返す。
彼女とキスをしてから数日は経つけど、まだあの事を気にしてるのか? どうも最近一ノ瀬の表情が硬いのが気になる。
「おーい!」
尚泰と立話をしていたレオナが俺に気付いて顔の横で小さく手を振って呼んだ。
二人の傍に行くと、レオナに土曜日の続きを聞かれたので俺は事の顛末を告げた。
「そっかー、駄目だったかぁ」
レオナはニマニマと含み笑いを浮かべて続けた。
「それなら私がそろそろ作也の本妻になってやるか」
苦笑いを浮かべる俺の横で尚泰が「はあ?」と大きな声を上げる。
「おいっ、作也っ! なんでお前ばっかり! レオナちゃんは俺に寄越せって!」
「尚君。私、作也が好きなんだもん」
大きな口が閉まらないほど驚いた尚泰が俺の首を絞める。
「
レオナか腰を折り曲げてケタケタと笑い、目じりの涙を指でぬぐう。
いや、笑ってる場合じゃねぇって! 尚泰の目、本気だから。
教室で騒ぐ俺たちを一ノ瀬が眺めている。俺は気になって彼女と視線を合わせると、一ノ瀬は慌てた様子で背筋を伸ばして前を向く。
何か変だな、一ノ瀬の態度……。
「おい、一ノ瀬!」
俺が呼んだ途端に彼女は席から立ち上がり、逃げるように廊下に走り去った。
「待てって!」
後を追って教室を出た時、俺は誰かにぶつかりそうになって息が止まりそうななる。
「あ、藍沢君⁉」
出会い頭に仁科坂とぶつかりそうになって、彼女が目を大きく開いて驚きの声を上げた。
「よ、よお……」
俺は彼女に至近距離で手を上げて挨拶を交わす。
仁科坂の顔が真っ赤になり、俺もつられて顔が熱くなる。ベッドの中での出来事がよみがえり、言葉が出ない。
「どうしたの? 詩織」
彼女の後ろに居た仁科坂の友人が俺達の顔を交互にマジマジと眺め、ははーんと一人納得の笑みを浮かべているかの如く小さく噴き出した。
「何? もしかして詩織、藍沢と付き合ってんの?」
ギクリと明らかに変な動きをした仁科坂は手を振り乱して否定する。
「そ、そんな訳無いじゃない!」
「はいはい、ごちそうさま。後でその話、詳しく聞かせてね?」
「違うからっ!」
仁科坂は過剰反応したかのように声を張る。
「しかし藍沢とは……何でこんな冴えない男がいいの?」
仁科坂の友人は俺を上から下まで眺めて首を傾げ、続けた。
「でも藍沢ってモテるよね? しかも可愛い子ばっかり落としてるし……何か秘密でもあんの?」
俺の胸をツンツンと突き、不思議そうに彼女は笑う。
「もういいでしょ?」
頬を膨らませた仁科坂は友人の背中を押して、俺から彼女を遠ざけた。
一ノ瀬を見失った俺は仕方なく自分の席に戻り、尚泰の彼女が出来ない愚痴を次の授業が始まるまでの間、聞いてやった。
昼休み、登校時にコンビニで調達したパンをかじっていつものように尚泰とバカ話をする。いつもなら一ノ瀬も俺たちの騒ぎが気になってこっちに来るのに今日は来ない。一ノ瀬は完全に俺を避けている、だが、その理由がわからない。
何だろ? 怒ってるのかな? さすがに何日も前のキスを引きずって恥ずかしがっているようには見えない。気になるけど……近づいたら逃げるしな……もう少し様子を見るか。
放課後、駐輪場。
今日は一緒に帰る人がいない、仁科坂は生徒会関連の手伝いがあるとかで居残りだそうだ。
まさか、仁科坂まで俺を避けてるとか無いよな?
まぁ、今日、仁科坂と一緒に帰ったとして、会話が弾む気はしないが……何か照れくさいし。
一人で自転車を走らせ、高校の敷地内から車道に出て数分、背後から俺を呼ぶ小さな声が聞こえたような気がして振り向くと、一ノ瀬が自転車で追走してきていた。
「あれ? 一ノ瀬、どうしたんだよ?」
俺は自転車の速度を落として彼女と併走して声をかけた。
「あ、藍沢? 見田園さんの事で話があるんだ」
一ノ瀬の口から意外なワードが飛び出して、俺は思わず自転車を止めた。
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