第125話 尋問
「花蓮ちゃん、冷蔵庫にケーキあるよ?」
「えっ? ホントだ! 美味しそう……って、これ手作りだよね?」
「それは仁科坂がくれたんだ、食っていいぞ!」
俺は部屋から廊下を覗き、冷蔵庫を覗く二人に伝えた。
レオナは冷蔵庫から皿を取り出し、「凄っ! 仁科坂ちゃんの胃袋戦法、スキル高っ! これはウカウカしてられませんねぇ?」と笑う。
「ウカウカしてらんないのはレオナっちでしょうがっ!」
花蓮はレオナから皿を受け取ってケーキを切り分け、紅茶を淹れて部屋に運んで来たので、俺は段ボールテーブルを部屋の真ん中に置く。
「まだテーブル買ってないの? その段ボール貧乏くさいんだけど!」
花蓮は眉をひそめる。
「くさいんじゃなくて貧乏なんだよ!」
布団に腰を降ろした俺にレオナが四つん這いで近づきニコニコと笑う。
「じゃあさ、私が買ってあげるよ。食べたら買いに行こ?」
「いいって、こないだも奢って貰ったのに……」
「作也は私に依存すればいいんだよ、お金は出してあげるから」
ぐっ! 俺、レオナについてくかな……?
「コラッ! お金で釣るな、お金で! 作もなにグラっと来てんのよ!」
げっ! バレてる! 俺に言い寄る女の子がレオナだけなら、とっくに俺は彼女に依存するダメ男になっていただろう。
「美味しい……」
フォークを咥えた花蓮がポツリと言った。
確かに仁科坂のケーキは美味かった、見た目も綺麗で売り物だと言っても誰も疑わないくらいに。
「作は委員長のことどう思ってるの?」
花蓮は俺の顔をジッと見つめて黙った、レオナも俺に注目していて返す言葉に詰まる。
「え? そうだな……何やってもレベルは高いかな? ホント優等生って感じ……」
「そうじゃなくて……好きなの?」
始めから恋愛感情について聞かれていたのは分かっていたが、話を逸らしても無駄だった。俺自身仁科坂との関係をどうとらえていいのかは分からず、昨日キスされるまでは親切で優しい人って認識で、可愛いなとは思っていたがキスされたり、裸になろうとするとは思ってもみなかった。
真顔の花蓮は真剣な顔でこちらを見つめていて適当にあしらうって訳にはいかなそうで……俺は観念して唾を飲み込んでから口を開いた。
「可愛いとは思うけど、恋愛の好きとはちょっと違って……友達の中では好きかなっって……」
俺の言葉を聞いた二人は目くばせしてからジト目を返して来た。
大きくため息を付いて見せた花蓮は床を膝で歩いて俺に迫り、尖った口を開いて不満をぶつけた。
「そうやって濁して濁して濁して……自分が五つ股かけてんの自覚してる?」
目の前に迫った花蓮から俺は顔を逸らし、直視出来ないでいる。
「うっ! それは……。しかも五つ股って大袈裟な……皆とは軽く遊んでるだけだろ?」
「へぇー? 女子と二人きりで会ってキスしておいて軽く遊んでるだけって、作はそう認識してるんだ?」
「逆だって! 軽く遊んでたら皆にキスされたんだ!」
「軽い訳無いでしょ! 今日こそはって、作を待ち構えてずっとドキドキしながら機会を伺ってるのに!」
「遊んだらキスされたって言うなら今しちゃおうか?」
レオナも四つん這いになって俺に接近して来た。
「ちょ、お前ら……なに訳の分からん事を……」
俺は警戒してジリジリと後ずさり、気が付けば美少女二人に壁に追い詰められていた。
二人とも顔を赤くし、目を閉じて俺の唇に接近して来る。ちょっと待てっ! これはどう見てもおかしいだろ!
咄嗟に俺は二人の肩を触ってキスを受ける素振りを見せ、体を沈めて二人の間をすり抜ける。
「作……」
「うわっ! 花蓮ちゃん⁉」
二人は頭をぶつけて焦っている。
「あっぶな、レオナっちとキスするとこだった!」
「私は花蓮ちゃんとならしてもいいかな? 可愛いし」
「えっ? レオナっちってどっちもイケるの?」
「分かんない……でも、やっぱ可愛いからキスさせろーっ!」
レオナは花蓮を床に押し倒し、覆いかぶさった。
「うわーっ! な、なに? 本気? 本気なの⁉ 嘘だよね?」
俺の部屋でキャーキャー女の子たちの叫び声が響いた。お、おい……あんま変な声出すなって! 警察呼ばれっから!
「そんな怒んなくてもいいのに……」
レオナは四つん這いになったまま言った。
胸に手を当てて狼狽した花蓮は壁に張り付いてレオナを睨んでいる。
「だってアンタ、冗談ぽくなかったし!」
「こんなの普通だよ、可愛い女の子って友達にして色々したいでしょ?」
「ないっ! もしかしてレオナっち、毎日加奈子触ってるのもそういうこと?」
「うん、一ノ瀬ちゃんも可愛いし。しかも嫌がってないから」
そうか? 毎日抵抗してるように見えるけど……。
「アンタがレズっ気あるなんて知らなかった」
「大袈裟だなぁ、ちょっとからかっただけだよ……」
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