第113話 憂鬱
ヤバいヤバいヤバいっ! どうしたらっ? いつも通りパニックを起こした俺の脳内、女の子の対応力に関しては底スペック過ぎる回路が煙を上げ、頭が痛くなる。
何でこうも千里の時に限って無理ゲーみたいな展開になるんだ? お、落ち着け! 今までだって千里とは和解してきたじゃないか……。
謝って甘いものを……いや、そんなんじゃ駄目だ、だいたい謝罪を受け入れてくれる雰囲気じゃないだろ?
放置か? ……それは花蓮なら成功率は高いけど、千里なら逆効果。無視したとか、蔑ろにされたとか思われて心を閉ざす。
と、取り敢えず電話だ、ダメ元で謝って……。
部屋に携帯を拾いに行くとバイト先の店長からの着信が。
「ヤッバっ! バイト! もう5時回ってんじゃねぇか!」
俺は部屋を飛び出して直ぐのバイト先にダッシュした。
翌朝、スマホの目覚ましを止めた俺はすぐさま着信とSNSの履歴を確認した。
千里は俺を完全に無視している、SNSは既読にすらなっていない、これってもしかしてブロックされてるのか? 今までされたことが無いからブロックされるとどのような状態になるのかは分からないけど。
昨日千里にかなりのメッセージを送ったから通知にはメッセージの数が表示されているはずだ。
まだ、朝早いけど掛けてみるか……俺への怒りも少しは落ち着いてるかも知れないし。
俺は千里に電話をしてみたが繋がらない。きっとこれは直接交渉しか解決策は無いだろう、取り敢えずバイトが休みの日に千里の家に行くか……。
「はぁ……マジで落ち込む……」
思わず口に出た言葉、俺は朝の教室で自分の机に突っ伏していた。
「藍沢君、大丈夫?」
仁科坂が俺の背中をそっと触り、優しい声を掛けてくる。
「どうしたの? 仁科坂さん」
一ノ瀬の声も聞こえ、俺はムクリと顔を上げるとレオナと花蓮も近づいて来て俺の机を取り囲む。
「藍沢君、朝からずっとこんな感じで……」
仁科坂が困惑したような顔で俺を見下ろす。
「あーこれ? このいじけ助けてオーラ出すときは……ねぇ作っ! 千里っちにキレられたんでょ?」
ニヤニヤしながら花蓮が正解を言い当てる。クソッ! 図星じゃねぇか……さすが幼馴染。
「うっ、うるせーよ!」
俺は花蓮から顔を逸らす。
「やっばり」
「何も言ってないだろ?」
花蓮の言葉に過剰に反応してしまった俺は彼女を疎ましく睨んだ。
嬉しそうに俺の机にぶら下がるように屈んたレオナは「作也がフラれたなら……今日、私とカラオケ行こうよ!」と声を弾ませる。
「ちょっと! 何、抜け駆けしようとしてんのよっ!」
花蓮はレオナの後ろ襟を掴み警告する。
「ズルい、私も行きたいっ!」
一ノ瀬は子供のように何度も飛び跳ね、絶対について行くと態度で示す。
「あの……」
仁科坂が苦笑いで小さく手を上げ、続けた。
「私も行っていいですか?」
「はぁ? 何でアンタが来んのよっ!」
花蓮があからさまに不快感を示す。
「えーっ? いいじゃん別に! 行こうよ、仁科坂さん」
助け舟を出した一ノ瀬に花蓮は声を低くして言った。
「加奈子! アンタどっちの味方なのよ」
「私は藍沢の味方だよ。だって藍沢、女の子大好きだから大勢いたほうが喜ぶもん!」
机から身を起こした俺は周囲を取り囲む美少女たちに勝手に予定を組まれそうになり、慌てて腕を振り回す。
「ちょっと待て! 俺は行くなんて一言も言ってないからな!」
「駅ビルのカラオケ屋さんでいい?」
スマホを素早くタップして、花蓮が「4時に予約取ったから」と皆に告げた。
レオナは少し驚いた顔で「えっ? 間に合うかなぁ……今日はマッハで帰らないとね?」と皆と視線を交わした。
「あのな……俺はパスだから……」
俺の言葉に花蓮は声を大きくしてまくし立てる。
「はぁ? 何、今更言ってんのよっ! キャンセル料かかるじゃない! 作っ! 払えんの?」
頭上から威圧する花蓮、可愛い顔だけど何故か俺は体を縮めてしまう。しかも不良に絡まれたみたいに目を逸らす始末。
「えっ……いや……」
長年幼馴染に圧倒され続けた後遺症なのか反論できない自分がもどかしい。
「じゃ、決定ね?」
花蓮は浮かれて廊下に向かう。
「キャンセル料なんて掛かったっけ?」
レオナが花蓮の背中に声をかけて追いかける。
一ノ瀬はニコニコしながら「ふふっ、藍沢とデート出来る……」と嬉しさを噛み締めているみたいだ。
その隣に佇む仁科坂に俺は声を掛けた。
「仁科坂、いいのか? 花蓮いるのに……」
カラオケからは逃げられそうにない、しかも不仲な花蓮と仁科坂が一緒だなんて……。俺は放課後のイベントに一抹の不安を感じた。
「三島さんはいますけど……」
仁科坂は苦笑いしながら俺の耳元で囁いた。
「大丈夫、だって藍沢君は私の味方でしょ?」
暖かい息が耳にかかり、体がビクリと反応する。仁科坂は俺と視線を合わせるとウインクして、逃げるように教室を後にした。
あいつ、可愛いな……と思った途端に頬に痛みを感じた。
一ノ瀬が俺の顔を睨みつけ、頬をつまんで声を荒げた。
「藍沢のエッチ! デレデレしすぎ! 仁科坂さんの巨乳ばっか見てさ!」
クラスメイトから要らない注目を浴びた俺は、一ノ瀬では無く、クラスメイトに向かって声を張る。
「見てない、見てないからな! 何言ってるんだよ一ノ瀬さん!」
「藍沢! 何そのわざとらしい態度。逆効果だと思うよ?」
腰に両手を当てた一ノ瀬はやれやれと言った表情で教室を見渡す。
「やだっ……藍沢ってやらしいんだ」
「キモ」
クラスメイトの女どもから有り難いお言葉を頂いた俺は居ても立っても居られなくなり、教室から逃走した。
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