第100話 レオナの気持ち
「ピザ屋ならこの近くにあるから持ち帰りで注文してくれ。俺、取って来てやるから」
「オッケー!」
レオナは一人でブツブツ言いながら食べたい味を決め、「決定っ!」とスマホをタップし、高いテンションで飛び跳ねる。
「今日は混んでないみたい、すぐ出来るって!」
「んじゃ、行って来るよ、ちょっと待ってろ」
玄関前で俺を見送るレオナは顔の横で手を振り笑う。
「作也、行ってらっしゃーい!」
可愛らしい声を背中に浴びながら俺は自転車を押し、車道に出ると彼女は俺を見つめて大きく手を振る。
まるで新婚さんのような見送りに俺は気恥ずかしさを覚えつつも可愛いレオナに手を振り返す。
ドバっと長い足を惜しげも無く晒し、金髪ポニーテールを揺らす彼女はハッキリ言って可愛くて、そんな彼女が未だにフリーなのが謎だ。
不思議だな……レオナってウチの高校でも相当レベルの高い美少女なのにコクられたとか手紙貰ったとかそういう浮ついた話が一切ない。
やっぱアレか? 外国人に見えるから誰も近づかないのか? でもウチの高校の生徒ならレオナは日本人だって知ってるしモテない意味が分からない。ゲーセンで遊んだ時だって皆レオナに注目して多くのギャラリーを集めてたし……。
何だろ? キャラが軽すぎるのか? レオナが居ると楽しいけど、それと引き換えにトラブルも増えたような……そこか? そこなのか? 俺はピザ屋に着くまでの道のりをずっとレオナのことを考えて自転車を走らせた。
赤い看板のピザ屋に着き、レオナが俺に送ったお持ち帰りのバーコードのスクショを店員に見せると、店員は直にピザの四角い箱を積みサラダとドリンクやらの小箱も付け加える。
は? どんだけ頼んでんだよレオナは……。
とても二人分とは思えない量に俺は若干引きつつ料金を支払い、外に出ると自転車の籠に小物を入れ、籠の上に蓋をするようにピザの紙箱を押えて片手運転で走り出す。
箱が結構熱い、焼き立てのピザを目の前にすると俄然腹が減って来た。早く帰ってレオナと食いたい!
俺はペダルを漕ぐ足に力を籠めた。
アパートに着き、俺は玄関にカギを差し込みドアを開けた。
「取って来たぞーっ」
部屋に居るであろうレオナを呼んだが反応は無い、何だ? あんなに張り切ってたのに……。
小走りで出迎えてくれると予想していただけに、レオナの無反応っぷりに肩透かしを食らう。
俺はピザの箱が斜めにならないように気を付けて部屋に運ぶとレオナは部屋のど真ん中でクッションを枕に寝ていた。
はぁ? 昼寝かよっ! 寝んの早すぎだって! 俺が出掛けてから何分も経ってないぞ、あんなにテンション高かったのに良くこんな短時間で寝れるな。
床にピザの箱を置いた俺はスヤスヤと眠るレオナを起こそうか少し迷った。
膝を折り曲げ、横向きで胎児のような姿で眠るレオナは可愛くてずっと見ていたい気分になって来る。
でも折角のピザが冷えるし……、俺はレオナに声を掛けた。
「なあ、レオナ! ピザ買って来たぞ!」
「ううーん……」
レオナは眉をヒクつかせ俺に背を向けるように寝返りを打つが起きない。
「レオナってば!」
まったく反応しない彼女に俺はどうしたらいいか分からなくなる。
ふと視線を動かすとレオナのミニスカから紫色の下着が思いっ切り見えていて俺は顔を赤らめつつも数秒間目が離せなくなった。
胸の中のドキドキの感情が変な方向に暴走しそうで俺はブンブンと首を振って、彼女の肩を揺すった。
「ふぁ……?」
半目状態のレオナはまだ自分の状況が呑み込めないみたいで数秒間固まっていたが「ピザッ!」と叫んで飛び起きた。
俺のちょっとエッチに傾いた感情は今の彼女の反応で消え去り、一人で爆笑してしまい、レオナに面白く無さそうな視線を向けられる。
「レオナ、ピザが冷えちまうぞ、って頼み過ぎだろ? 店に取りに行ったらびっくりしたぞ!」
「だってメニュー見てたらいっぱい食べたくなっちゃったんだもん、テイクアウトなら安いからついついオーダーが増えちゃった!」
子供のようにレオナは笑い、彼女は床にペタン座りになって紙箱を開ける。
「おおーっ! 豪勢だねぇ!」
ニマニマと笑顔を見せるレオナは床に並べられた食べきれそうにない色とりどりな食べ物に歓声をあげ、一人拍手する。
「いただきまーす! うーん、どれから行こうかな?」
体を揺らし、伸ばした手を定められないレオナはお尻を浮かして「これだぁ!」とピザに手を伸ばし、同じピザに手を伸ばした俺の手とぶつかった。
目が合った二人はお互いが手を引っ込め、再び違うピザに手を伸ばして再び手がぶつかった。
「ちょっと! 私が食べたいやつなのにっ!」
ギロリと俺を睨んだレオナは「もしかしてワザとやってない? 私の手、触りたいからって」と俺の顔を疑いの眼差しで覗き込む。
「ん、んな訳あるかよっ!」
「藍沢って私のこと好きでしょ?」
「……好きだけど」
「えっ……?」
キョトンとしたレオナはお尻を床に降ろした。
「面白い女子だから」
俺の言葉に彼女の眉がヒクリと動く。
「可愛い女子だからじゃなくて?」
頬を膨らませたレオナは俺に聞き返す。
「そりゃ可愛いだろ? 自分でも自覚してるんじゃないか? かなりの美少女だって」
「……なんか腹立つ、その言い方!」
俺を睨みつけ、明らかに声色が変わった彼女は続けた。
「私がどれだけこの顔にコンプレックスあるか知ってる?」
「知ってるよ、レオナがハーフを意識してることくらい」
「分かってないよ! 歩けばジロジロ見られて話し掛ければ引かれて……好きな人にもコクったら拒否られて……皆は可愛いとか羨ましいとか言うけど全然いい事なんて無いんだからっ!」
段々声が大きくなったレオナは少し涙ぐんでいる。
「それでもレオナはレオナだよ」
「何よそれっ!」
大きく開けたレオナの口に俺はピザを咥えさせた。
「美味し……」
「ごめんなレオナ、気に触る言い方して……」
「作也……」
「全部ひっくるめて俺はレオナが好きだよ」
「なにそれ? 口説いてるつもり? 千里ちゃんに言いつけてやるから!」
レオナはクスリと笑った後、ジッと俺を見つめ続けた。
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