第99話 約束?

 高校に着いた俺たちは駐輪場に自転車を並べて停めた。

 今日は雲一つない快晴、秋が訪れ空が高く感じる、最近は過ごしやすい気温になりそろそろ夏服もおしまいかと少し寂しくなる。

 自転車を降り、鍵を掛けて立ち上がると俺の背中に聞き慣れた甲高い声が掛かる。

「ちょっと作っ! アンタ今度は仁科坂さんにチョッカイ出してんの?」

 振り向くと鞄を肩に担いだ花蓮が睨み付けていた。

「かっ、花蓮! 違うって! いいんちょとはたまたま道で会ったから一緒なだけで……」

「ふーん? たまたまねぇ……。仁科坂さん、もしかして藍沢のこと好きなの? そんなに偶然って続くかなぁ? もしかして待ち伏せしてたりして!」

 顎を少し上げ、好戦的に笑う花蓮。お前、怖いって!

 仁科坂は半歩下がり、鞄の持ち手をキュッと握りしめ上ずらせた声を返す。

「そ、そんな、待ち伏せなんて……だいたい三島さんには関係無いでしょ?」

 一瞬眉をピクリとさせた花蓮は仁科坂を小馬鹿にするように鼻で笑った。

「そいつ、誰にでも優しくするから気を付けた方がいいよ」

「三島さんって藍沢君のこと好きなの? 随分と絡んで来るけど」

 仁科坂は花蓮の言動に苛ついたのか少し低い声で反撃する。

「バ、バカなこと言わないでよ! 誰がそんな奴!」

 花蓮は仁科坂を睨みつけると逃げるように早足でその場を立ち去った。

 ふぅと小さくため息を付いた仁科坂は大きな胸を撫で下ろして俺をチラリと見た。

「三島さん、口喧嘩強そうだからちょっと苦手かな……」

「大丈夫だよ仁科坂さん、三島の態度がデカいのは生まれつきだから悪気は無いと思うよ」

 なんのフォローにもなっていないが一ノ瀬は仁科坂に笑い掛け、場を和ませた。



 休み時間、俺は教室前の廊下の壁に寄りかかり一ノ瀬が送ってくれた千里のセーラー服姿の画像に顔を緩め、スマホの画面を指で拡大する。

「かっわいいなぁー! 最近千里ちゃんに会ったの?」

 気が付けばレオナが俺の横でスマホを覗き込んでいた。

「げっ! 勝手に視んなよ!」

 俺は咄嗟にスマホの電源を消して制服のポケットに仕舞った。

「今日の朝、一ノ瀬が撮ったんだ。俺んちの前で」

「朝? あんな遠いのに?」

 俺はギクリとしてしまった、二人を部屋に泊めた事を感づかれる。

「いいなぁ、私も藍沢ん家に遊びに行きたい! 今日の帰り行っていい?」

「ダメだよ、今日からバイトだから」

「じゃ、明日は?」

「明日もバイト!」

「じゃ、明後日は?」

 レオナは俺に食いつくように眼前に迫ってグイグイと遊びたいオーラを俺に向ける。

「俺ん家なんか来ても何も無いから面白く無いって!」

「だって見たいんだもん!」

 グリーンの瞳を俺に向け、オーケーと言うまで離れない圧力を感じる。

「わ、分かったって……」

 俺は至近距離のレオナの可愛い顔に耐えられなくなり、彼女から顔を背けた。

「やったあ! じゃ、土曜日行くからね!」

 レオナは廊下でピョンピョンと跳ね、ポニーテールを揺らして教室に戻って行った。



 そして土曜日、ボロアパート。

「ホントに来るのかよ? あいつ……」

 もう12時前、レオナは自分で『午前中に行くから』と前日俺に告げたのにも関わらず現れない。

 いや、まだ確かに午前中……朝の9時くらいから準備していた俺は痺れを切らしていた。

 まさか忘れてるとか無いよな? いや、レオナならあり得る。スマホを手に取りSNSのアイコンをタップしてレオナからメッセージが無いか確認する焦れた俺。

『今日、遊びに来るんじゃなかったっけ?』

 レオナにメッセージを送り付けた俺は床にスマホをぶん投げてクッションを枕代わりに寝に入る。

 ピコンとスマホが音を立ててメッセージを受信したことを伝え、俺は跳ねるようにスマホに飛びついた。

『めんどいから行くの辞めた』

「はぁ⁉ 何言ってんだよバカ女っ!」

 苛ついた俺は思わず一人で声を荒げ、大きなため息を付いた。

 腹減った、何か食うか……。

 俺はおもむろに立ち上がり廊下に出て冷蔵庫を覗く。

 その時、部屋の呼び鈴が鳴り、俺は太い魚肉ソーセージを咥えながらドアを開けた。

 ドアの向こうには誰も居ない。なんだぁ? いたずらか? マジで苛つく、全部レオナのせいだ。

 ドアを閉めようとした時、「じゃーんっ! レオナちゃん参上っ!」と彼女はドアの影から叫んで現れ、俺はびっくりして腰を抜かし、廊下に転びそうになる。

 レオナはキャップを斜めに被ってピンクのタンクトップに派手な肩が見えそうな白地の緩いシャツを羽織り、かなり短いチェックの柄のスカート姿で玄関内に侵入し、唖然としてソーセージを咥えている俺を見てケタケタと笑う。

「貰いっ!」

 レオナは俺の咥えている太いピンク色のソーセージの逆側を大きくかじった。

 レオナの可愛い顔が5センチの距離に迫り、俺の体がビクリと反応し、彼女は嬉しそうに口をモグモグとさせている。

「ここが作也の部屋かぁ? なんか臭いっ! 何だろこの匂い、男の子の匂いかな?」

「わ、悪かったな! 嫌なら帰ってもいいんだぞ!」

「まーたまた、そんな強がって!」

 レオナは勝手に廊下に上がり込み、室内をキョロキョロと物色し始める。

 部屋に入ったレオナは「なんも無いねぇ?」と部屋を見渡す。

 俺はレオナを後ろから追い、余計なことをしないか不安になりながら近づいた。

 すっげースカート短いな……いつもの短パンより足は見えないが隠れている分余計にエロい。

「何して遊ぼっか?」

 クルッと振り向いたレオナのスカートが広がり、一瞬綺麗な紫のパンツが見え、俺はドキッとして天井を眺める。

「遊ぶって言ってもここには何も無いし出掛けるか?」

「うーん、取り敢えずお腹空いたからピザでも取る?」

 レオナはスマホをいじり始めた。

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