第84話 サバゲ

 基本ルールを教わった俺たちは早速オジサンたちに混じってゲームを始める。

 俺たちは黄色チーム、ゲームは殲滅戦、相手の赤チームを一人残らず倒した方の勝ちだ。

 同じチームになったオジサンたちが嬉しそうに俺たちに話しかけて来る、一ノ瀬は興味深そうにオジサンたちに装備を質問し、彼らは色々な物を見せてくれた。

 ブザーが鳴り、俺たちは戦闘を開始する。一ノ瀬はすさささと走り出しドラム缶の裏に身を隠して辺りを伺っている。レオナは慎重にオジサンの後に続き中腰で簡素な合板で囲われた物陰からハンドガンを構えた。

 俺が遮蔽物から前方を覗くと直ぐそばの鉄パイプにキンッ! と弾が当たる。

「うわっ! 危ね!」

 俺は咄嗟に身を翻し、屈んで身を隠す。

 どっから撃って来た? これってもう位置バレてるだろ!

 レオナが前方でパンパンと銃を撃ち始める、軍服姿の中で異彩を放つミニスカ制服女子高生。

 屈んだ俺からはレオナのスカートの中が見えそうで集中できない、彼女は撃っては身を隠しを繰り返し、その都度スカートがひらひらと舞う。

「藍沢、あそこ!」

 ドラム缶の後ろで一ノ瀬が片膝を付いて前方を指差す。

 一ノ瀬は俺に敵の位置を教え、自分からは狙えないから俺に撃てと小声で指示する。だけど……お前、パンツ丸見えなんだけど……。

 ピンクと白の縞パンを見せながら俺に向かって方向を指し示している一ノ瀬に俺はスカートが捲れていると身振りで教えるが、彼女には伝わらない。

 その時俺のフェイスマスクにビシッ! とBB弾が当たった。

「ヒ、ヒットぉ!」

 情けない声を上げ、俺は両手を上げて早々に戦闘エリアから退場して出口へ向かう。

「えっ? 藍沢、早いよぉ、もう終わりなの?」

 一ノ瀬の表情はフェイスマスクで見えないがきっと口を尖らせているに違いない。

「は? 作也、もう出ちゃうの?」

 レオナもつまらなそうに俺に言う。

 戦闘エリアから出た俺はネットの外からゲームを観戦する、キャーキャーと彼女たちの楽しそうな悲鳴が聞こえ、エアガンの音が炸裂してはヒットコールが聞こえ、数名がネットの外に出て来る。

「あの子たち上手いよな」

 オジサンたちがレオナと一ノ瀬の立ち回りに感心している。

「ホントに初めてかよ? センスあるな」

 オジサンたちはイヤラシイ目で彼女たちを見ていない、俺は急に自分が恥ずかしくなってしまった。


 ワンゲーム目が終わり、黄色チームは勝利し、二人は最後まで生き残っていた。外に出て来たレオナはフェイスマスクを外し、満足そうな表情を浮かべて俺に話し掛ける。

「作也早いよ。何、速攻やられてる訳?」

「いやぁ……悪り、次は頑張るから」

 レオナはマガジンを抜き、弾を籠め始める。

 一ノ瀬もレオナの真似をして弾を入れる。

「藍沢は弾籠めないの?」

「実は一発も撃って無いんだ、直ぐにやられたから……」

「ダサ」

 一ノ瀬がニヤニヤして俺を眺めたかと思うとウインクして言った。

「藍沢! 次、私について来なよ」

「いや、作也は私と組んだ方がいいよ」

 レオナが俺に拳を突き付ける。

「何でさ、川崎さんは突っ込んでるだけでしょ?」

「一ノ瀬ちゃんはコソコソし過ぎなんだって!」

 サバゲの立ち回りにも性格が表れている、取り敢えず二人の立ち回りを見せてもらうか。

 次のゲームが始まり、スタート地点が敵と入れ替わった俺たちは辺りを警戒する。

 オジサンたちが先陣を切り、打ち合いの後、ヒットコールが聞こえた。戦線が上がり俺は前に移動すると敵が他の仲間を狙って打ち合っている。

 チャンスだ、俺はハンドガンを構えてトリガーを引いた。

「ヒットー!」

 俺の弾が敵に当たり、レオナが物陰で「ナイスキル! 作也」と親指を立てる。

 レオナも前に飛び出しガンを連射して敵を倒す。

 一ノ瀬はコソコソと動いて敵の後ろを取り難なくBB弾を当てた。

 段々と戦闘エリアの人数が減っていき、お互い様子見の膠着状態に入る。

 散発的なエアガンの発射音が響くが敵は視認出来ない。

 焦れたのかレオナが果敢に前方に突っ込み、姿が見えなくなりパンパンと音が響く。

「痛ーい! ヒットォ!」

 レオナの声が聞こえ、彼女は退場した。

 残ったのは数名、敵の気配を探り銃を構えた時、俺と一ノ瀬は倒された。

 ゲームは俺たちの負け、でも結構最後までやれた。

 ネットの外に出た俺と一ノ瀬はレオナの傍に行く。

「痛ーい、腫れてるよ。見て見て、ここ赤くなってるし」

 レオナはスカートをまくって内腿の弾が当たって赤くなったところを俺に見せる。

 股下10センチの所を俺に見せるレオナは蚊に刺された跡のような小さな赤い点を指差し、手で揉んだ。

 俺はレオナがスカートをまくった事にドキッとしてしまい、目を逸らしたがチラチラとまた見てしまう、足の付け根の筋がうっすらと見えてエロい。

 その後、一時間ほどサバゲを堪能した俺たちはなんとなくそのまま全員で家の近くのスーパーまで晩飯の買い出しに向かった、昨日ホントは俺が飯当番、だから今日はちゃんと作らないと。

 今日のメニューはどうしよう……千里の好きなグラタンでも作ろうか……。

 俺は食材を揃え、レジに向かう途中にレオナと一ノ瀬がアイスを籠に放り込む。

 精算を済ませ、店の外に出ると女子二人はアイスを咥えて自転車に乗った。

「はい、作也」

 レオナが自転車の後ろから俺に食いかけのアイスを差し出す。

 ハンドルを握っていた俺はレオナにアイスを食べさせて貰い、それを見た一ノ瀬も自転車を走らせながら手を伸ばして俺にアイスを食べさせる。

 家に着いた俺たちが居間に入ると千里が食卓で一人、クッキーをかじっていた。

「お帰りなさい」

 千里はポツリと言ってティーカップに口をつける。

「貰いーっ!」

 レオナが嬉しそうに千里のお茶菓子をつまんだ。

「千里ちゃん。今ね、皆でサバイバルゲームしてきたんだ! 面白かったから今度一緒に行こうよ!」

「えっ? 皆でって……作クンは何でいつも私をのけ者にするんですか!」

「い、いや……のけ者って……そんなんじゃ無いよ、たまたま行ってみただけで……」

 千里は下唇を噛み、勢いよく立ち上がった。

 ヤバい、怒られる!

 俺が身構えた時、千里の目から大粒の涙がテーブルにポタポタと落ちた。

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