第83話 気晴らし
「花蓮さんに会ってたんですよね? 何で秘密にするんですか!」
「いやぁ……」
「誤魔化さないで下さい!」
俺は何故か正座をしていた、別にしろと言われた訳では無いのだが千里の圧に負けて無意識のうちに……。
「作也が花蓮ちゃんと逢瀬を重ねていたとはね」
レオナがウシシと笑う。
「さっきから否定も肯定もしないなんて決定的じゃ無いですかっ! もういいです、明日花蓮さんに聞きますから!」
足音に怒りを滲ませ、千里は部屋を出て行った。
翌朝、玄関前に集まったいつものメンバー。俺が自転車に跨って顔を上げるとたまたま花蓮と目が合い、二人はビクッとして顔をボンッ! と湯気が出るぐらい一気に赤らめる。
「これは何かあったね、初めてしちゃった次の日みたい!」
俺たちの様子を見ていたレオナが喜ぶと、即座に花蓮が過剰に否定する。
「バ、バカじゃないの! 下らないこと言わないでよっ!」
俺の隣で物凄い視線を送る気配がする。俺は平常心を保とうとペダルに足を掛けたが体がガクガクと軋んでまともに動かない。
「い、行こうか……うわーっ!」
気が付けば間近で睨んでいた千里の姿に驚き、俺はペダルから足を滑らせアスファルトに自転車ごと無様に転倒してしまった。
「物凄い動揺ですね? どうしたんですか? 作クン!」
制服姿の千里が腕を組み、俺を冷酷な目で見下ろす。
「藍沢、大丈夫?」
一ノ瀬が手を差し出す。
地面に寝転がる俺を見下ろす女子全員のスカートの中が見えてる!
これを逆手に取らない訳にはいかない! これは話を逸らす千載一遇のチャンス。
俺はぶっきらぼうにスカートの中を指差した。
「お前ら、全員パンツ見えてるぞ」と言った矢先、胸に靴がのしかかる。
「出たなヘンタイっ!」
レオナが俺を踏みつけ、それに習うように全員が俺を踏みつける。
「痛ててててっー‼ だからパンツ見えてるって!」
色とりどりの下着を隠そうともせず、俺を攻撃する四人。
「まだ言いますかっ! ホントに作クンにはがっかりです!」
千里は汚い物を見るような目で俺を踏む踵に力を籠める。
制服が足跡だらけになった俺はよろよろと立ち上がり、埃を手で払う。
「花蓮さん、昨日作クンと会ってたんですよね?」
俺の話を逸らす作戦は千里には通じなかった、ただ踏まれただけとは……。
「はいはい、会ってたけど! べ、別にやましいことして無いし!」
花蓮は焦ったのか直ぐに自転車を走らせた。
「そうですか」
千里はそれっきり黙った、だけど事あるごとに俺に一日中ジト目を浴びせて来た。
それは当然だろう、好きだと言った女の子に黙って花蓮に会ってたんだから……言い訳は出来ない。
これは明らかに判断ミスだ、何も秘密にすることは無かったんだ。俺だってまさか花蓮があんなに迫って来るとは思ってもみなかったし、隠したことが疑惑を生み、俺の信用も下げた。
これは明らかに浮気だ、振られても文句は言えない……。
「うわー、暗っ! 出たな、うじうじ星人!」
放課後、自転車の後ろでレオナが俺のわき腹をくすぐった。
だけど俺は気分が重く、無反応で受け流す。
「藍沢、大丈夫?」
一ノ瀬が俺の隣で自転車を走らせながら顔を覗き込む。
「これは作也の自爆根暗モードだから復活には時間かかるかもね」
レオナの言う通り、自爆だ。千里は一日中怒り、花蓮は俺を避けた。今、三人だけで帰っているのが全てを物語っている。
信号待ちをしている時レオナが言った。
「なんかつまんないなぁ……家に帰ったら千里ちゃん怖いし。そうだ作也、3人で遊びに行こうよ!」
「嫌だよ、面倒くせえから」
俺は顔をしかめる。
「私も行きたい、最近藍沢とデートしてないし」
一ノ瀬が自転車から身を乗り出し、話に食いついて来る。
「行かねえって!」
「そんなこと言わないでさ、ねぇ……いいでしょ?」
レオナは俺の背中にベッタリと体を寄せる。うわっ! 胸の感触がヤバいっ! 柔らかくて温かくて……。お前……わざとやってるだろ!
「ねえ藍沢、私ココ行きたいんだけど」
一ノ瀬がスマホを俺に見せる。
「インドアサバゲランド・ジャベリン? エアガンで遊ぶのか?」
「面白そう! 行こうよ作也!」
レオナは指を銃の形にして俺を撃つ。
「そんな事言ったってエアガン持って無いだろ?」
一ノ瀬は人差し指を立てチッチッチと指を振り、分かってないなぁと言う仕草をする。
「貸してくれるから大丈夫だよ!」
「じゃぁ、決ーまりーっ!」
レオナはまた俺に抱き着いた。
急遽繁華街に移動した俺たちは年内で閉店すると言うショッピングセンターの最上階に居た。
テナントが撤退して寂しいビル、空きスペースを逆手に取ったサバゲ場には平日にも係わらず20人くらいの軍服姿のオジサンたちが集まって撃ち合いをしていた。
レジの向こうの網で仕切られた戦闘エリアにパンパンといい音が響く。
「うわ、凄っ!」
レオナが目を見開いている。
「結構大きな音するんだね?」
一ノ瀬が呟く。
「あれはCO2ガスガンの音です、レンタルもありますよ」
受付の中年男性スタッフが笑顔でレンタル装備の部屋へ俺たちを案内する。
「これがCO2、使ってみます?」
レオナがハンドガンを受け取る。
「うわっ、重っ!」
「撃ってみますか?」
「いいの?」
シューティングレンジに案内された俺たちはエアガンの操作法をレクチャーされる、マガジンに弾を籠め、ガンに装填してスライドを引き、安全装置を解除する。
フェイスガードを被ったレオナが的を狙う、背中を丸め眼前で銃を構える滑稽な姿に俺は苦笑いする。スタッフがレオナの姿勢を正し、狙いの定め方を教え、レオナがコクリと頷く。
トリガーに指を掛け、引き絞るレオナの緊張がこちらにも伝わって来る。
「怖っ……」
パンッ! といい音がして白い球が飛び出して10メートルほど先の紙の的に命中する。
「上手いです!」
スタッフが褒め、レオナは連続で的を撃つ。
「気持ちいいーっ!」
レオナはピョンピョンと飛び跳ねる。
「早く人撃ちたい!」
おいおい、そのセリフはヤバいだろ。
レオナの言葉に、そこにいた一同は笑い声を上げた。
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