第82話 疑惑
ヤバい! 俺、今日飯当番なのに……。
花蓮の家を飛び出し街灯に照らされながら自転車を走らせ、急いで家に戻り玄関ドアを開けると、物音に気付いたのかレオナが居間から廊下に出てた。
「千里ちゃん、作也が帰って来たよ」
レオナが背後に向かって大声を出すと、こちらに向かって来る足音が居間から聞こえる。
「作クン、どこに行ってたんですか? 何度も連絡したのに既読にならないし」
エプロンを腰に巻きながら千里が現れて俺に苦言を呈す。
「えっ? ごめん、気が付かなくて……」
「作クンがご飯の支度をするのか分からなかったので晩御飯は少し遅くなりますから」
「ホントごめん……」
「作也はどーせ花蓮ちゃんとデートしてたんでしょ?」
廊下に上がった俺の前で、レオナは手を後ろに組んで俺の顔を覗き込む。
ド直球の質問に俺は思わずレオナから目を逸らしてしまった。
「ふふーん、分かりやすっ!」
千里は厳しい視線を俺に向けたが何も言わずに居間に戻って調理を再開した。
怒らないのかよ? 逆に怖いんだけど……千里……。
晩ごはんはカレーだった、俺が食材を調達してこなかったので千里は肉の代わりに冷蔵庫に在庫していたウインナーをありったけ投入し何とか形あるものにしてくれていた。
「ねぇねぇ? 藍沢、どこ行ってたのさ?」
一ノ瀬がウインナーを頬張りながら言い、千里がチラリと俺を見る。
何この緊張感……いきなり静まり返った食卓にスプーンの音だけが響き、俺を囲む女子が回答を待つ。
ここで何を言っても疑われる……この場合は……。
「か、関係ねーだろ」
「何で隠すのさ! 藍沢、絶対エッチなとこ行ったでしょ?」
何でそうなるんだよ……わ、話題を変えるんだ……。
「そう言えば夏休みに一ノ瀬が見せてくれたアニメも結構エッチだったよな?」
「えっ? あ、あれはエッチとは違うし! 純愛だよ純愛!」
みるみる顔を赤らめた一ノ瀬は大きな声で反論した。
「純愛であんなことするかよ?」
「しなかったじゃん! しそうになったけど!」
しそうになった……? 今日の俺と花蓮じゃないかよ。
「だいたい何で藍沢はそんなに盛りついてるのさ、こんなに女子に囲まれてるのに!」
「だ、だからそんなんじゃ無いって!」
遅い食事が終わり、それぞれがまったりと過ごしていた9時過ぎ、俺は部屋でぐったりと椅子に座り机に突っ伏していた。
花蓮があの時吐き気をもよおさなければ俺たちは……。
そんなことを考えてもしょうがないのは分かっているけど俺はされるがままに受け入れていたのだろうか? それとも逃げ出したのだろうか? そのどちらだったとしても結果は悪い方向に向かっていただろう。
だから、花蓮の具合が悪くなったのは俺には都合が良かったんだ。
千里に好きだと言った気持ち……それと同じくらい大事にしたい花蓮、俺は最悪なクソ野郎だ。
俺が無限ループのように同じことを考えていた時、部屋のドアが開いた。
「藍沢、ゲームやろうよ!」
部屋にいきなり入って来た一ノ瀬、ダボっとしたワンピースのナイトウエアが可愛らしい、丈が短く細い足をむき出しにしてベッドに座り白い携帯ゲーム機を俺に差し出す。
一ノ瀬が伸ばした腕に視線を向けると、彼女の脇がナイトウエアから覗きピンクのブラが見えた。
俺は見てはいけない物を見た気がして目を泳がせた。なんか一ノ瀬って可愛いけどエロとは程遠い感じがするからな、痩せっぽっちで言動も仕草も子供っぽくて……余りにも無防備過ぎて時たま見せる女の姿に俺はドギマギが止まらない。
俺が困惑の目を向けていると彼女は「やろうよ!」と腕を揺すった。
「あ、ああ……」
俺がゲーム機を受け取ると、前かがみになっていた一ノ瀬がベッドに座り直し、足を組み替える。また無防備に下着を見せそうになった彼女の姿と花蓮の姿が重なり、俺は唾を飲む。
「あーっ! もう一回やろうよ!」
一ノ瀬が仰向けでベッドに寝転びながら頬を膨らます。
「もういいだろ? 12時超えてるし……」
「嫌だ、勝ち逃げなんて許さない!」
大きな声を上げた一ノ瀬はベッドの上で駄々っ子のように手足をジタバタさせる。
ふとゲーム機から彼女に視線を移すと、一ノ瀬は暴れすぎてピンクのパンツを全開で見せていた。
「ちょ! おま……」
俺が顔を赤くしてパンツを指差した時、部屋のドアが開いた。
「何やってるんですか? こんな夜中に!」
千里がドアから顔を出して部屋を覗き込んだ途端、パンツ姿の一ノ瀬と俺を交互に見つめ怒りの眼差しを俺に向ける。
「いや! 違うっ!」
「何がです? 一ノ瀬さんもそんな破廉恥行為で作クンを誘惑してどういうつもりですか?」
「は? 何? 破廉恥って……」
パンツ丸出しに気が付いた一ノ瀬はベッドの上で跳ねるように下着を隠した。
「なになに? 面白そうだね?」
レオナが現場を乱しに現れる。
げっ! 最悪な展開だ! 煽り屋が来やがった。
狭い部屋に美少女三人が集まり、お風呂上がりの石鹸の香りが部屋に漂う。
だけどこれは喜べない状況。
「作クンってホントにエッチですよね! どうせ放課後だって花蓮さんに会ってたんでしょ? 白状して下さいっ!」
千里がパジャマ姿でズカズカと俺に近寄り、吊り上げた目で眼前に迫る。
「い、いや……だから……俺は……」
学習塾を背にのけ反った俺、もちろん逃げ場は無い。
「いいぞーっ! もっとやれー!」
千里の後ろから嬉しそうな顔を出したレオナが手を突き上げる。
これは終わった……深夜の説教が始まる……。
俺は絶望に打ちひしがれた。
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