第81話 決意
「邪魔? 何だよそれ……?」
「だって作、モテモテだから中々二人きりになれないし……。でも、今日は正真正銘二人きりだから! 親も帰り遅いし」
え……? マジで今二人しか居ないのかよ? こないだの体育用具室の事が頭をよぎり、俺は急に緊張して唾を飲み込んだ。
花蓮は俺を試すようにこちらを眺め、俺は緊張しているのを悟られないように紅茶に再び口をつける。
「この紅茶、凄くいい香りするな?」
「解る? お父さんのブランデーいっぱい入れてあるから」
「な? 酒かよ!」
どうりで喉の奥が熱い訳だ、食道から胃の中まで焼けるような感覚がする。
「どんだけ入れたんだよ? 何だか体ん中が熱いぞ!」
「うーん、適当にドバドバっと入れちゃった。でも美味しくない?」
マジかよ、何か聞いた途端に酔いが回ってきた感じがするぞ……。
「花蓮、お前……顔赤いぞ? 大丈夫かよ?」
「大した事ないって、私、お酒の味見いつもしてるから馴れてるし」
俺は花蓮にティーカップを返し、お茶菓子を口に突っ込んだ。
「何? 飲まないの? 作って真面目過ぎない?」
花蓮は俺の飲みかけの紅茶を一気に飲み干した。
「ちょっ! お前なあ……」
「へーきへーき」
「そういえばあの写真、懐かしいな」
俺はコルクボードを指さした。
「私は嫌いだよ、その写真」
「じゃあ何で飾ってんだよ?」
「だってあれが私たちの最後のツーショットだよ? あんなの無くない?」
「確かに酷い写真だけど……」
「そんな事より、作……」
花蓮は椅子から立ち上がり、ベッドに座って隣の俺をジッと見つめた。
かなり顔が赤いぞ。こんな所を花蓮の親父さんに見られたらとんでもない事になりそうだ。
「ちょっと待て! 花蓮、酒臭いけどホント大丈夫かよ?」
「私……作に見せたい物があるんだけど!」
口を尖らせた酔っ払いが俺を文句ありげに睨む。
「な、何だよ! からみ酒か? 勘弁してくれよ……」
花蓮はベッドから立ち上がると制服のスカートのファスナーを外し、スッとスカートを床に落とし細い脚とシャツの裾から覗く白い下着を俺に晒した。
「ちょ! おまっ! 何やってんだよ!」
俺の心臓が一気に血液を体中に送り込み、頭がクラクラする。
襟のリボンを解き、白いシャツのボタンを上から外し始める花蓮に俺は思わず顔を手で覆った。
「作、観て……」
花蓮は俺の手を掴んで顔から引き剝がすと、小さな膨らみの白いブラ姿で俺に接近して来た。
「私……作が好き……。ずっと前から……だから、作としたい」
濡れた瞳に俺が写り込むのが分かるくらい花蓮は接近して肩を掴んで来る。
「ち、ちょっと何言ってるか分かんないって!」
俺はベッドの上で尻を滑らせて後ずさるが、直ぐに壁際に追い詰められた。
「とぼけないでよ、ここまで女の子にさせておいて……死ぬほど恥ずかしいのに」
四つん這いの花蓮はブラから覗く浅い胸の谷間の奇麗な曲線を見せつけ、俺に覆いかぶさるように体を寄せる。
「お、お前酔ってるだろ⁉ と、とにかく冷静になれよっ!」
「冷静? 無理だよ……この気持ちは抑えられないから」
花蓮は逃げられない俺に唇を重ね、俺のシャツのボタンを震えた手で外す。
肌が触れ合った。彼女の火照った体が汗ばみ、女の子の良い香りも混じって俺の脳が理性を停止させようと試み、人間の本能をフェロモンが刺激する。
俺は体験もしたことがないくらい心拍数が上がり、彼女の誘惑に抗う。
唇を離した彼女の息から物凄いアルコールの匂いがする。
花蓮は息遣いが荒くなって、虚ろな瞳で空中を眺めて制止した。
「か、花蓮……?」
「うっ! 何か気持ち悪い……吐きそう」
口を手で覆い、肩で息をする花蓮。
「大丈夫か? だいぶ飲んだのか?」
「うん……作に会う前に怖くなってブランテーごくごくラッパ飲みしちゃった……」
「取り敢えず立てるか?」
俺は花蓮に肩を貸し、下着姿のまま彼女をトイレに連れて行った。
「あら? 誰か来てるのかしら? 花蓮! 居るの?」
階段の下から声が響き、俺と花蓮はビクッとして飛び起きた。酒に酔った花蓮を介抱して寝ちまったんだ!
ベッドで寝ていた花蓮とその横で見守っていた俺、お互いの手を握りしめたまま気が付けば夜の7時とは。
「ヤバっ!」
花蓮はベッドから体を起こすと「
ど、どうする? まだ下着姿のままの花蓮、今部屋に踏み込まれたら終わりだ!
「花蓮、取り敢えずパジャマ着て寝てろ! 俺が時間を稼ぐから! 風邪て寝込んでたって事にするからな?」
俺は急いで部屋を出て階段を下りて玄関に向かった。
「あら? 作也君、珍しいわね?」
「お邪魔してました、花蓮が風邪で寝込んじゃって僕が看病を……」
「あら、そうだったの? ありがとうね、花蓮が迷惑かけて」
ガレージのシャッター音が聞こえ、玄関に彼女の父さんが現れて俺を嬉しそうに眺めた。
「おっ! 作也! 来てくれたのか? 花蓮がいつも作也の話ばっかりするから会いたいと思っていたところだぞ!」
俺は父さんに背中をバシバシと叩かれ、手荒い歓迎を受ける。
「作也! 花蓮とどこまで行った?」
「えっ? 何がですか?」
「とぼけてんじゃねーよ! キスしたのか? おい! どうなんだ?」
俺をヘッドロックして父さんは腹をパンチして来た。
俺はさっきキスじゃ済まない状況に陥ったことを思い出し、顔が引きつるのを何とか悟られないように平静を装う。
「あなた、何バカなこと言ってるの! 作也君が困っているでしょ?」
「俺は作也になら花蓮をやってもいいと思ってる。なあ、どうなんだ?」
「いやぁ……そ、それより」
俺は話題を変える。
「花蓮が頭痛いって寝てるんで僕はもう帰ります。お母さん、後のことよろしくお願いします」
「あら、もう帰っちゃうの? 久々に晩御飯でも食べさせたかったのに」
「今度、花蓮が元気になったらまたお邪魔します」
俺は彼女の両親に頭を下げ、玄関を後にした。
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