第74話 対抗心

 スカート物凄く短いんですけど……。

 千里の制服姿に俺はドキッとして息が止まった。花蓮と変わらない程のミニスカ姿、彼女もまたイメチェンで対抗して来たのか? 清楚系なのに黒いニーハイストッキングを履き綺麗な足を見せつける、ちょーっとエロくないですか? 千里さん……。

「何? どうしたのその恰好?」

 レオナが洗面所から顔を出し、マジマジと千里の絶対領域を眺める。

「な、夏ですからね……」

「え? もう直ぐ秋なのに今更?」

「と、とにかく今年の夏は暑いですからっ!」

 ソファーにドカッと腰を降ろした千里のスカートがふわりと舞い、白い下着が一瞬目に入った俺はドギマギしながらも彼女の足に見惚れてしまった。千里はレオナを無視するように腕組みをして顔を背け、話は終わりとばかりにローテーブルからタブレットを手に取り眺める。

「藍沢、ごはん冷えちゃうよ?」

 一ノ瀬は俺に忠告して隣の椅子に座り、ホットサンドをかじる様子を見つめて微笑んだ。


 玄関前に集まったレオナと一ノ瀬と花蓮、そこに千里が俺の傍に自転車を押してきて跨った。

「千里っち。今、パンツ見えたよ」

 花蓮がカメラのレンズを構える仕草で千里を茶化す。

「え? そ、そうですか?」

「見田園さん、さっきから下着見せまくってるけど大丈夫?」

 一ノ瀬が苦笑いで言った。

「見せまくってるって……ホントですか?」

 千里は大きな目を更に見開く。

 レオナは苦笑して千里に忠告する。

「ホントだよ、さっきから何度も。千里ちゃん、あんまり慣れない事しない方が良いんじゃない? 作也の気を引きたい気持ちは分かるけど……」

「そ、そんなんじゃありませんっ!」

 千里は焦って腰で折り返したスカートを調整して5センチほど丈を戻した。



「藍沢ぁ、どうしよう……」

 高校の駐輪場に着いた一ノ瀬は俺の背後でシャツをつまんで隠れるように身を寄せた。

「諦めろ。教室いくぞ、一ノ瀬! 心配しなくても誰も大して見てないって!」

「そ、そうかな?」

 玄関に向かって歩き出した俺たちに生徒たちが注目する。誰も見てないなんて嘘だよ、学園三大美少女に謎の生徒と化した一ノ瀬まで加わって、しかも千里は足をドバっと出している、こんな映像なら男子はおろか女子だってガン見するだろ。

 教室に向かう途中、あちこちから声が聞こえて来た。

「誰? あの髪の短い娘、転校生? 可愛いな」

「見田園さん見て! 足綺麗……」

「藍沢って何であんなにモテるんだよ? 意味分かんねえな」

 一ノ瀬は俺の背中に隠れてオドオドしている。教室の前に着くと俺は彼女に先に中に入るように促した。

 ゴクリと唾を飲む音が聞こえ、一ノ瀬の緊張感が俺にも伝わる。

 行け! 俺は心の中で彼女の背中を押した。

「お、おはよう!」

 一ノ瀬が教室に足を踏み入れると先に来ていたクラスメイトたちが静まり返って誰もが怪訝な顔をした。

「は? もしかして一ノ瀬さん⁉」

「嘘だろ……かわいい」

 悲鳴のような歓声が教室に響き渡り、クラスメイトが一ノ瀬の周りを取り囲む。

「どうしたの? 一ノ瀬さん! すっごく可愛いよ!」

「なになに? 見えないって!」

「え? マジで可愛いんだけど! ホントに一ノ瀬かよ?」

 クラスメイトの圧に一ノ瀬はたじろぎフリーズしかけている。

「あ、あの……私……」

「大丈夫ですか? 一ノ瀬さん」

 千里も教室に入って一ノ瀬に声を掛けると、更に歓声が上がる。

「見ろっ! 見田園さんのスカート短っ!」

「うわ! エロいんだけど」

 ウチの教室の騒ぎに他のクラスの生徒が教室を覗き、それを見た生徒が「何だ?」と群がって廊下に人が溢れ出した。

「どうした? 何やってる?」

 げっ! 科学の村上じゃねえか、これはヤバいぞ。

 俺は村上の前に立ちはだかり、「大した事じゃありません」と教室の入り口を塞ぐ。

「いいからどけ!」

 村上は俺に大きな声で言い放つとお決まりのようにバインダーで頭を叩いた。

「痛ってー!」

 頭を擦っている俺を押しのけ村上が教室に足を踏み入れると千里の後姿を眺め、彼女の頭もバインダーで叩き、言い放った。

「お前みたいな優等生は校内の見本にならなきゃいかんのに服装が乱れすぎだろ! 今すぐ直せ!」

「そんなの関係無いじゃないですか!」

 明らかに苛ついた千里は頭を手で押さえ、村上を睨み付ける。

「校則違反だ、早く直せ!」

 不満げな千里は腰で折り返していたスカートの丈を元に戻した。

「いいかお前ら! 二年生も折り返しの時期だ! 色気づいている暇があったら大学受験に向けて勉強しろ! そんな事だとライバルに後れを取るぞ! 分かったか?」

 シンとした教室を満足そうに見渡す村上に千里はわざとらしく大きなため息を付いて見せた。

「何だ? 不満か?」

「はい! 不満です。スカート丈と大学受験は関係ありません、実際私は学年一位ですから問題無いじゃないですか?」

「何? 何だその反抗的な態度は?」

 レオナも千里に加勢する。

「先生がバカみたいな事言うから反論してるんだよ、服装と成績は関係ないし。私だって学年10位だけどスカート短いから!」

「お前も直せ! 違反は違反だ!」

「違反はしてるけど成績とは関係ないって言ってんの!」

「ちょ、止め――」

 俺が割って入ると背後から担任教師が現れて「どうしましたか? 村上先生」と慌てた様子で聞いた。

「このバカ共の服装が乱れているので注意を……」

「ご指導ありがとうございます、後は私が言っておきますので」

 少し間を置いて村上が言った。

「それでは後のこと、宜しくお願いします」

 村上は千里を睨んでから教室を後にした。

「それじゃ、席に着いて!」

 担任は教壇に上がり、席に着いた生徒全員に忠告した。

「最近スカートの丈が短いのは気になっていたところだ、つい最近も通学路で変質者が出ているし、そういう犯罪者を無駄に刺激しないためにも服装には十分気を付けるように、以上だ。それでは――」

 ウチの担任はまともで良かった、言い方ひとつでこうも人を説得出来るとは……俺も見習いたい所だ。

 俺はまだ口を尖らせている千里の横顔をそっと眺めた。

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