第38話 合流

「何やってるの花蓮ちゃん? みんなが見てるけど……」

 後から駆けつけて来たレオナが、俺の襟を掴んで揺さぶっている花蓮に声を掛けた。

「えっ?」

 花蓮はアウトレットモールの通路のど真ん中で一般客から要らない注目を浴びていた事に気付き、一気に顔を真っ赤に染めて俺から手を離した。

 ふぅ! と肩を下げて大きくため息を付いた千里が「もう、みんなで回りましょう?」と諦めた様子で腰に手を当てた。

「千里ちゃん、分かってるぅ!」

 レオナが千里の首に腕を回して大げさに抱きしめる。

「はいこれ!」

 千里から離れたレオナは、また俺にでっかい袋を差し出す。

「はいはい……分かったよ」

 俺は仕方なく袋を受け取り、約束通り荷物持ちになった。

「ねえ、作! 私あれ見たいんだけど」

 花蓮が指さした先にある水着帝国の看板。

 うわっ! 思いっ切り女子向けの店じゃないか……入りたくない。

「三人で見て来いよ、俺はちょっと休んでるから」

 俺の気持ちなど知らずにレオナが手を引っ張る。

「えーっ? 男子目線で意見聞きたいし」

「そうだよ、作も来なさいって」

 花蓮も俺の手を掴んで体重を掛けて俺を店に引き寄せる。

 美少女二人に両手を引っ張られる幸せな奴はどんな顔だよと言わんばかりに通り過ぎる男性客たちが俺をチラチラと眺め、皆腑に落ちないような表情をした気がして恥ずかしくなった俺は、悪目立ちしないように諦めて水着屋の入り口をくぐった。

 カラフルな大量の水着が俺たちを出迎え、三人は俺を囲んで一斉に同じことを聞いた。

「作「也「クンはどんな水着が好きなの?」」」

 声が揃って三人はクスクスと笑った。

「え? そ、そんなの知るかよ!」

 俺は誰とも視線を合わせずに天井を見て頬を痒くも無いのに掻いた。

「「「ビキニ」か」なんだ」

 三人はまた声を揃え各自納得の表情を浮かべる。

「ビキニだなんて言って無いだろ?」

 レオナは言った。

「男が水着の好みを言わないときはビキニ好きだからね」

 三人は頷く。

 何だよそれ、どこのまとめサイトの嘘情報鵜呑みにしてんだよ! 男のフェチズムが多岐にわたることを知らないのか?

 三人は店内をグルグルと回り、水着のハンガーを手にとっては体にあてがって俺に見せた。俺の意見なんていいから早くこの店から出してくれ。

 暫くそんな状況が続き、俺は彼女たちのビキニ姿を想像して顔が熱くなる。

 花蓮はとっかえひっかえハンガーを取り出して独り言のように呟いた。

「うーん、今日は試着するつもりで来て無いから、また今度かな?」

 試着? それは絶対に付き合わないからな!

「そろそろ次行こうぜ」

 俺は店を出るように花蓮を促す。

「そうね……みんな行こっか?」

 花蓮がそう言うと千里とレオナも水着を元に戻し、ぞろぞろと店の前に出た。

 助かった、やっぱりこういう店は苦手だ、男が店内にいること自体場違いに思えてならないから。

「ねえねえ、今度みんなでプールに行かない?」

 レオナがはしゃいで言った。

「いいね、行こ行こ!」

 花蓮が楽しそうに飛び跳ねながら同意するのを俺は少し離れつつ見守る。レオナの言ったに俺が含まれないように距離を取りながら。

 そんな俺の気持ちなど知るよしも無く花蓮は俺に聞いた。

「作は水着持ってるの?」

「さあな」

 俺は興味がないアピールをする。

「さあなって何よ! あるの? 無いの?」

 花蓮がグイグイと俺に詰め寄る。

「あ、あります……一応……」

「じゃ、決まりね。今度みんなでプール!」

「いや、俺は遠慮しとくよ」

「ダメ! 虫よけとして来て貰うから! 男居ないとナンパがウザいし」

「ははは……」

 断りたい俺は笑って誤魔化した。

「いつにしよっか?」

 ヤバい、日程を決められる。俺は咄嗟に適当に通路の奥を指差して「あれ何だよ!」と話を逸らさせた。

「クレープ屋さんですね、有難う御座います作クン」

 千里は俺にご馳走される前提で先に礼をする。

 レオナも目を輝かせながら「食べたーい!」と言って俺の腕に掴まった。

 彼女たちはクレープ屋さんに引き寄せられるように自然に歩みを進め、俺を手招きした。



「2100円です」

 笑顔の女性店員に支払いを促される、別に俺が支払うとは言っていないのに全員の分を奢るのは当然と店員すら言っているようで俺の顔を見て言い切った。

 さすが美少女……奢られ慣れている、誰も自分が払うとは思っていないようだ。

 俺のスマホをレジのセンサーにかざし電子マネーの支払い音が響いた、その音を聞いて背後でテーブルを囲む美少女たちから「頂きまーす」と背中に声がかかった。

 俺は店員からソフトクリームを受け取り、派手なクレープを可愛く食べている三人のテーブルに向かった。

 三人は満足そうにクレープを食べていた、透明な四角いスプーンでお互いの味を確かめながら。

 俺がソフトクリームを一口食べるとレオナが俺のソフトをスプーンですくって食べた。

「あ、これも美味しい!」

「どれどれ?」

 花蓮も俺のソフトクリームをスプーンで削った。

 千里はチラッと俺と一瞬目を合わせたが、何も言わずにクレープを食べている。

「千里も味見する?」

 俺は彼女にソフトクリームを差し出した。

「いいですか……?」

 千里は恥ずかしそうにスプーンでアイスをすくい口へと運んだ。

「作クン、お返しにどうぞ」

 クレープを俺の口の前に差し出した千里は上目遣いでかじりなさいと無言で訴えるので俺は一口クレープを味見した。

「あっ、旨っ!」

 俺と千里のやり取りを眺めていた花蓮も俺にクレープを味見しろと勢いよく差し出す。

 結局俺は三人のクレープをかじり、間接キスをした。

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