第37話 相席
「相席いいかしらっ!」
ツインテールを大きく揺らし、花蓮が好戦的な態度で俺たちを睨み付ける。
「花蓮! えっ? レオナまで! 二人とも何でここに……」
「何か文句ある? ショッピングしてるだけだけど! それともここ来るのに作の許可いる訳?」
口を尖らせた花蓮が椅子をガッと勢い良く引いて俺の真向かいに座った。
「何かって……付いて来たのかよ!」
レオナも椅子を引いて俺の隣に座り、眉間に皺を寄せる。
「誤解しないでよ、元から私たち今日ココ来る予定だったし! 誰かさんはすっぽかしたけどね!」
「いや、すっぽかしたって言うよりは断ったんだけど……」
正面に座っている花蓮が蓋のされた赤い紙コップにストローを勢いよく突き刺して言った。
「私達を断ってまで千里っちとイチャイチャしたかったって事?」
「してないって!」
「ふーん? あれで作也的にはイチャイチャしてないんだ……だったら本気でイチャつきたい時はどうするんだろ?」
レオナは俺たちに不満をぶつける。
二人に交互に威圧され、少したじろいた俺を千里が援護する。
「ちょと! 私達のどこがイチャ付いてたんですか! お店見て回ってただけですよ!」
花蓮は納得いかない様子で樹脂製の白い椅子の背もたれに深く寄りかかり、腕組みをした。
「その割にはさっきから距離近いんだけど……ベタベタし過ぎじゃない?」
「さっきからって! み、見てたんですか?」
「べ、別に見たくて見てた訳じゃないからっ! たまたま居たからつい……視界に入っただけだし!」
ホントかよ? 別に千里とやましい事はしてないけど、二人にコソコソ監視されていたとしたらちょっと怖いぞ。
「あっ、そうだ!」
レオナはわざとらしい声を上げて俺の足元にに大きな白い雑貨屋のロゴが入った手提げ袋を置き、「作也手ぶらみたいだからコレ持ってよ」と当然のように言った。
俺は怪訝な顔で袋を見つめてため息を付く。
「何なんだよ? このでっかい袋は!」
「ゴミ箱だよ。コレ凄く可愛いんだ、コーヒー屋さんの紙コップ見たいな白いフタ付いててさ」
「こんなでっかいのは最後に買えよ、嵩張るから!」
「えーっ! だって売り切れたら嫌だし……それに一度は荷物持ち了解してくれてたじゃない! ねえ? いいでしょ?」
俺の腕を掴んでレオナは、猫が甘えるようにゴロゴロと喉を鳴らすかの如く体を密着させる。
「ちょっとレオナっち! 作に触り過ぎだからっ!」
花蓮が椅子から尻を浮かせてレオナに警告する。
「ストーカー花蓮ちゃん怖ーい!」
レオナは俺の上半身にこれみよがしに抱きついた。
「誰がストーカーだって?」
花蓮が椅子から立ち上がってレオナに詰め寄る。
いきなり現れた二人に場を乱され、花蓮とレオナは軽い口論を交わす。
千里は眉間に皺を寄せながら、騒ぐ二人を視界に入れずにパクパクと急いでふたつ目の餡まんを食べ終わると、俺の口に餡まんを咥えさせ腕を引っ張って立ち上がらせた。
「作クン、さっき言ってたお店に行きましょう?」
「う? うう……」
俺は饅頭を掴み取り、呼吸を再開する。
「ああ……そうだな、行ってみようか?」
俺たちが席を離れると花蓮が、大きな声を出した。
「ちょっと、どこ行くのよ!」
「花蓮さん、お構いなく。ゆっくり食べてて下さい」
千里が作り笑いを浮かべて花蓮に見せつけるように俺と腕を組んで歩き出す。
「早く食べなさいよ!」
「えーっ⁉」
背後で花蓮がレオナをまくしたてる声が響いた。
グイグイと俺と組んだ腕を引っぱって無言で歩く千里、口を少し尖らせ早足で歩く姿が何となく可愛らしく俺はいつまでも見ていたくなったが流石に歩きにくくて声を掛けた。
「ちょっと千里! 落ち着いて!」
「私は充分落ち着いています!」
いや、落ち着いてないだろ、顔がプンスカしてるじゃないか。
俺は彼女を落ち着かせるためにその場に立ち止まった。
「どうしたんです?」
引っ張られるような格好になった千里が首を傾げて俺の顔を不思議そうに眺めた。
「千里、今日は俺……君ととことん付き合うって決めてるから、だからその……」
「作クンを独占できるのは今日だけってことですか?」
真っ直ぐな瞳で俺を試すように見つめる千里、それを否定できない俺は固まって返す言葉が浮かばない。
千里はクスッと笑い、「冗談です」と目を細めた。
「作クンはモテモテだから、これからは予約が必要ですね?」
「そんな訳無いだろ?」
「ありますよ、自覚無しですか? 困った人ですね。そんな人には次回予約をもう入れちゃおうかな……?」
頬を赤く染め俺をじっと眺める千里。人混みの中で彼女の大きな瞳が俺を離さない。
「千里……」
俺は回りの音が聞こえなくなった、二人で見つめ合い混雑する通路の真ん中で障害物と化した時間の止まった二人。
その時、いきなり背中に体当たりされた俺は現実に戻された。
「何こんな所で良い雰囲気出してんのよっ!」
花蓮が俺の襟を掴み歯をギリギリとさせて威嚇した。
「ついて来るなよ!」
「アンタたちが私の行きたい所に先回りしてんのよっ!」
「んな訳無いだろ、どういう理屈だよ!」
小さい体でグイグイと俺を揺する花蓮。ヤキモチも大概にしとけよ! とは言えない。そんな事を言ったら最後、背負い投げでもされかねない勢いだ。
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