第29話 停学
「停学って……あんまりじゃ無いですか! 村上先生が先に川崎さんの髪を引っ張ったんですよ! しかも地毛の金髪を染めてるって……彼女はハーフです、そんな事も知らないでよく教師やってますね!」
指導室で俺は村上と教頭に抗議した。
罪名は校内暴力行為だそうだ。
俺が振り回したカバンは打ち所が悪く、村上の顔面に硬い部分がヒットして先生はよろけて地面に尻もちをついた。
偶然の事故、だけど高校内に俺を弁護してくれる人はいない。
密室裁判で決まった一週間の停学、それが俺への処分だ。
俺はその判断に異議を唱えたが高校では控訴出来ない。いっその事、リアルな法廷で争えば処分の短縮や、取り消しが認められるかも知れないが、手続きをしている間に俺の刑期は終わる。逆に先生が傷害で俺を訴えるという泥試合になるかも知れない。
俺がどこぞのお坊ちゃんでプライドが高ければ訴訟になっただろうけど、そこまで暇じゃないんで一週間の休暇を満喫させてもらう事にした。
実際にシェアハウスの管理人しかやる事が無い俺はそれでも結構忙しい。掃除、買出し、飯に修繕も……どれから手を付けたらいいか分からないくらいだ。
取り敢えず買出しに行くか……俺は小さく折り畳んだエコバッグをジーンズの尻ポケットに押し込み家を出た。
あっ! 自転車が……レオナに取られたんだった、自転車通学の許可も貰って無いくせに……。まあ、許可と言っても許可ステッカーを自転車に貼れば公認されてるも同じ、ましてやチェックなどされない。俺の自転車を乗る分にはまずバレないからな。
自転車が無いと分かると俄然出かける気がしない。スーパーまで徒歩は辛い、歩いて10分以上掛かるし荷物も重い。
「辞め辞め」
俺は玄関ドアの前で独り言を呟いて家に戻った。
先に洗濯するか……脱衣場兼洗面所の端に置いてある洗濯機、その横に洗濯籠二つと段ボール箱一つが置いてある。洗濯は基本個人の物だけを洗う、そのため、一人一つの籠が用意されている。レオナの籠はまだ買って無いから取り敢えず段ボール箱を使っている。
その箱からはみ出している使用済み下着……レオナって雑な奴だな、千里の籠は上から布が掛けられていて中身は見えない、それくらいの配慮はして欲しいところだ。
はみ出した下着に喜ぶ俺ではない、逆に残念だ、美少女なだけに。
美少女に過度な期待をしてはいけない、それは重々承知している、別にアイドルでも無いし只の人だ。だか、世間は彼女たちに高水準の所作を求めてしまうし、出来なければ期待ハズレのレッテルを貼られるだろう。
そう思うと美少女に産まれるのもストレスが溜まりそうだ。
俺は自分の洗濯物を洗濯機に放り込み、洗剤を入れて蓋を閉め、作動ボタンを押した。
次は掃除機掛けるか……。
掃除機をかけるのは個人の部屋以外の家全体、一般的な建売住宅よりは広い我が家を一人で掃除するのは骨が折れる、一人で暮らしていた頃は偶に居間と自分の部屋だけを掃除していたが、流石に何人もの人間が家を動き回るとホコリがたまる。
掃除機がけも当番制にするか……結構手間だし……。
広い家に文句をいう贅沢者……マイホームが夢の家庭に怒られそうだなと思いつつ、俺は掃除機のコードを伸ばしてプラグを壁に挿した。
15分ほど腕を前後しながら掃除機を掛け、一階から階段、二階と掃除を終えると体か少し暑くなった。
もう疲れた、大した事はしていないのだが……。俺はヤカンをコンロに乗せ火をつけ、冷蔵庫からコーヒー豆を出してミルでガリガリと挽き、休憩とばかりにソファーに腰掛けてコーヒーブレイクとした。
ドタバタとうるさい音が聴こえ、俺は目を覚ました、ソファーの上でウトウトしてたら寝てたみたいだ。
居間のドアが開き、二人が帰ってきた。
「あーっ、寝てる! いーなぁ」
レオナが俺の傍に来てしゃがみ、上半身を起こした俺を羨ましそうに眺めた。
千里も後から居間に入って来て言った。
「作クン? 一週間のんびりしたいかも知れませんが処分は3日に減刑されましたので……」
「えっ? どうして……?」
「私が学校と話を付けてきましたので。村上先生のレオナさんに対する暴力動画を公開して世間に是非を問うと脅迫……いえ、提案した所、村上先生も非を認め、やり過ぎたとレオナさんに謝罪しました」
脅迫って……千里ならやりかねない。でも、そんな事をしたら今後学校からマークされるのは必至だ。
千里はカバンからクリアファイルに挟まれたA4サイズの書類を俺に手渡した。
「停学期間変更通知書? なんなんだ? この無理やり作った感満載の書類は……。ホントだ、処分期間は3日とする……? 千里……あの時、動画撮ってたんだ?」
「いえ、撮ってませんよ。ただほのめかしただけで向こうが勝手に焦って勝手に減刑しただけです」
レオナが俺の腕を揺すり、「良かったね、作也」と微笑む。
「ああ、助かったよ。千里、本当にありがとう」
俺はソファーから立ち上がって千里に頭を下げた。
「私、着替えて来るかな」
立ち上がって猫が伸びをするように体を伸ばしたレオナは、居間を出て行く。
千里はそんなレオナの動きを目で追うように眺め、階段を上る彼女の足音に耳をそばだて、キョロキョロしたかと思うといきなり俺の胸に顔を埋めた。
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