第28話 通学
「アンタ! わざとでしょ! 今日は許さないんだからっ!」
ソファーに仰向けに倒れた俺。その上にレオナが白いショーツ姿で馬乗りになって顔を猫パンチでバシバシと連打してくるので、それを俺は腕で慌てて防御する。
おいっ! 下着丸見えだって! シャツのボタンを三つ程しか留めていないレオナは下から見上げると白いブラがチラチラと見え、俺は思わず目を逸らした。
「ちょ、ちょっと
「作クン……朝からレオナさんと何してるんですか?」
キッチンから近づいて来た千里が冷笑しながら俺に聞いた、彼女の手には包丁が握られていて滅茶苦茶怖い!
「レオナさんにもさっき言いましたよね、下着姿でウロウロしないで下さいって。作クンが居るんですから」
レオナは「ひっ!」と息を詰まらせ、包丁を握った笑顔だが目の笑っていない千里を見て動きを止めた。
「ちょ! 手元手元っ!」
俺の腰に馬乗りになったまま顔を引きつらせたレオナが、千里の包丁を指差して声を上ずらせた。
「あら?」
千里はそう言って、自分の顔の前で手首をクルクルと捻って包丁を眺めると、苦笑いした。
あら? じゃねえよ……マジで怖いから。千里って衝動的な殺人事件を起こしそうな気がする、被害者は勿論俺だろうけど……。
「おはよう、花蓮ちゃん」
レオナがかっちりと制服を着こなして玄関前で手を振った。
花蓮は自転車の横に立ち、元気に挨拶を返すと小さく手を振る。
千里は家の陰から自転車を押して三台の自転車が集合した。
自転車に跨って俺は言った。
「遅いぞレオナ」
「ごめん、ごめん。髪型が納得いかなくて」
「何か変わったのか? さっきと見分けつかないけど……」
「作也! そういうとこだよ!」
レオナは大股を広げ、俺をビシッと指差した。
「な、何がだよ?」
「何がって?」
レオナは大げさにため息を付いて千里と花蓮に聞いた。
「どう思う? この人」
千里は目を閉じて首を横に振り、言った。
「最悪ですね」
「同感」
花蓮も腕組みをして深く頷く。
出た、このアウェー感! ここは真っ赤なプロサッカークラブのスタジアムかよ。脳内で大ブーイングが聞こえる。
俺はレオナに家の鍵を放り投げ、施錠を頼んだ。
空中を漂う鍵を片手でサッとキャッチし、ドアに鍵を掛けたレオナは階段を三段降りて「お待たせ」と駆け寄って来て俺に鍵を手渡した。
美少女三人に取り囲まれ、俺は物凄く居心地が悪くなった。平凡すぎる容姿の自分が此処に居る事の違和感と来たら……。三人の夏服の制服は白くて清潔感があり、しかも肌成分が多くて涼しさを感じさせた。千里、レオナ、花蓮の順にスカート丈が短くなり、それぞれがキャラに合致して似合っている。
レオナは俺の自転車の後ろに跨り、腰に腕を回した。
やっぱり、そうなるよな……。昨日もそうだったけどこれは照れる、男子全員から敵視されかねないぞ、レオナと二人乗りしているだけでも噂になりそうなのに花蓮もいるし、千里ももう俺と行動する事を隠すつもりは無いのか一緒に登校するらしい。
レオナと花蓮は千里と俺の同居を黙っていてくれると言ってくれているが、ひょんなことから発覚しそうなのは感じる。
千里も恐らくそう思っているのだろう、隠しても無駄だと。
良い機会だ、俺も千里も秘密を守るのに疲れただろうし、バレても俺がシェアハウスの管理人だと宣言すればクラスメイトも納得するだろう。
そう、俺は皆の前で千里とイチャつかなければいいだけの事だ。
「じゃ、行きますかーっ!」
レオナが元気良く、俺の後ろで拳を天に突き上げた。
「お前ら、ちょっと待て!」
校門で俺は中年の男性教師に呼び止められた。
げっ! 科学の村上じゃねえか。
千里と花蓮は呼び止められた俺達を遠巻きに見ている。
「なに二人乗りしてる! 禁止されてるのは分かってるな?」
授業同様に通る声で村上は俺に聞いた。
「へっ? そうでしたっけ?」
俺がそのセリフを言い終わるのと同時に、俺とレオナはバインダーで頭を叩かれた。
「痛ーい、何するのよ!」
レオナが不満を露わにした途端、また叩かれる。
「
ギロリと村上を睨み付け、頭を擦るレオナ。
俺の対応は失敗だった、大人相手にとぼけても無駄だ、最初から素直に謝るべきだった。まあ、それは分かっていたんだが……『お前ら』と言われればやっぱり反抗したくなる。
村上は言った。
「今度やったら自転車通学許可証はく奪だからな」
油断した、校門が見える手前でレオナを降ろすべきだった。
俺は「すみません」と心にも無いことを口にした。
村上はいつまでも俺の自転車に跨っていたレオナに言った。
「お前も降りろ!」
レオナはチッ! と舌打ちをして「ウルサイなぁ」と呟いた。
「何だその態度は? お前何組だ? その髪は何だよ、染めてるのか?」
「バカっ、地毛だっての!」
村上はレオナのポニーテールを乱暴に引っ張り、レオナはその手を叩いた。
「何だぁ? お前! 指導室でたっぷり絞ってやる!」
レオナの細い手首を掴んだ村上は、腕を捻り上げる。
「痛いって! バカっ!」
俺は村上に大きな声で言った。
「ちょっと辞めて下さい」
自転車から降りた俺はレオナの腕を掴む村上の腕を掴んだ。
背後で自転車の倒れる音が聞こえ、「ちょっと何やってるのよ!」と花蓮の声が背中に掛かった。
「放せって!」
俺は苛ついてカバンを思いっ切り振り回した。
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