第24話 事情聴取

「ねえ、千里ちゃんはいつからここに住んでるの?」

 レオナは俺の部屋でウーロン茶のグラスを受け取って聞いた。

「半月前からだよ」

「へぇー? それから今までずっと二人きりだったの?」

 レオナの質問に、花蓮は興味津々の様子で体を前のめりにさせている。答え辛い……横目でそんな彼女を意識しつつ俺は口を開いた。

「そうだよ、千里と俺は親の都合で一緒に住むことになったんだ」

 レオナはウーロン茶を喉を鳴らして半分程度飲み、椅子に座るとグリーンの瞳で俺を眺めた。

「ふーん? 若い男女が二人きりかぁ、ドキドキした?」

「そりゃ、人並みには……なんせ超美少女だし」

 俺は床に敷いてある芝生風の丸いラグに腰を降ろし、グラスを小さな折りたたみ脚のテーブルの上に置いた。

「変な気起こさなかった? 抱き締めたくなったり」

 レオナは椅子から身を乗り出し、金髪のポニーテールを揺らして俺と千里の関係を探るように聞いた。

「起こさないね、千里は観賞用だから」

 花蓮がベッドの上で大きな目を見開いて言った。

「何それ?」

「いや、なんだ……その……あんまりにも美人過ぎるとオブジェというか、映画のワンシーンみたいで眺めてるだけで良くなるんだ」

 まあ、それだけでは無いけどな。千里は俺にイチャイチャして来たけど、それは可愛らしいものだった。言うなれば小学生の妹にお兄ちゃん大好きと言われてる見たいな……甘いけどエロくは無く、また、そういった隙は一つも見せなかった。

 まさに清楚な女の子、それが千里だ。

 レオナは言った。

「作也って意外と紳士なんだね。何か男子ってさ、何かいつもエッチなこと考えてそうだけど」

 いや、俺だってそれは否定できないぞ、それが男って生物だ。今だって目の前と隣に学年三大美少女と言える二人がいて、なぜか俺に親しく話し掛けてくる。全身から可愛いオーラが出ている彼女達にエロい視線は向けられない、だから俺は彼女達の目を見て話してるんだ、じゃないと絶対足や胸に視線が行ってしまうし、それを感じ取られたくない。

「でもさー、作って紳士って感じじゃ無くて怖じ気づいてるだけじゃ無い?」

 花蓮は膝に頬杖を付いてあさっての方向を眺め、口を尖らせ気味にして意気地なしと暗に俺に言っているようだ、カラオケの個室でのキスも俺は硬直していただけで、されるがままだったからな。

「と、兎に角、俺と千里は別に――」

「別に? なに?」

 花蓮がベッドから身を乗り出し、俺に顔を近づける。

 ち、近いって! 俺は仰け反って床に手を着いた。

「目、泳いでるけど……」

 花蓮は目が据わってるけどな……。

「はは、そうか……? 気のせいだろ? あっ! そうだ! 俺、千里手伝わないと!」

 俺は床から立ち上がり、逃亡を図る。

「まだ話終わって無いでしょ? ちょっ……作っ! 逃げるなーっ!」

 花蓮の大きな声を背中で浴びながら俺は部屋から飛び出して階段を掛け降りる。

 居間に飛び込んだ俺にキョトンと視線を向けた千里、調理の時にいつも髪を後ろで纏めているのが可愛くて何時までも観ていたくなる。

 黙って見惚れている俺に、千里は食卓に食器を並べながら言った。

「もう少し待って貰えますか? ご飯がまだ炊けていないので……」

「いや、いいんだ。それより何か手伝おうか?」

「そうですか? じゃあ……」

 千里は自分の唇に人指し指を軽く当て天井を眺めた。



 サラダを作った俺はボウルから小皿にそれを盛り付けると、玄関ドアが開く音が居間に響き、花蓮とレオナの話し声が聴こえた。

 ガサガサと音を立てながら廊下から二人が接近する気配……帰って来たか。

 大きなレジ袋を手に提げた二人が居間に入って来るとローテーブルの上に大きなレジ袋二つと白い紙箱を置いた。

 「二次会セット買って来たよ」

 花蓮はそう言うとソファーに腰を下ろし、うーんと声を上げて背伸びをした。

 レオナは食卓の上に並べられた彩りの良い沢山のおかずに指を広げて両手を合わせ歓喜の声を上げた。

「凄いよ! 超豪華じゃない? これから毎日こんなの食べれるの?」

 千里は少し困ったような顔でレオナに言った。

「今日は歓迎会も兼ねてますから……だけど明日からは質素に行きますからね」

「えーっ? それなら少し明日にとっとく?」

 クスクスと口を押さえて笑った千里は「心配しなくても大丈夫ですよ、工夫はしますから」と言って戸棚を開け、グラスを取り出した。

「じゃあ、そろそろ始めましょうか?」

 千里の呼びかけに花蓮がソファーから立ち上がり、食卓の椅子を引いて言った。

「すっご! 千里っち料理スキル高くない?」

「そうですか? 一応一人暮らしが長かったから慣れてはいますけど……」

 四人掛けの食卓テーブル、いつもは使われることがない椅子が埋まる。

 俺は呟いた。

「椅子が足りて良かったな」

 母さんが死んでから使われることの無かった椅子たちが役目を果たし喜んでいるようで俺は一人微笑んだ。

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