第23話 引っ越し
「作っ!」
玄関で花蓮が俺を大きな声で呼ぶ。
俺は居間から廊下に出て段ボール箱を花蓮から受け取り、二階に運んだ。
花蓮は俺の後に続き小さい段ボールを抱えスタスタと二階に上がりそれを床に置くと、親父の部屋に入ってレオナの指示で親父の要らない荷物を廊下に出し始めた。
ドタバタと廊下を行ったり来たりして不用品を物置と化したもう一部屋に押し込め親父の部屋をレオナの部屋にする。
「後はこのままでいいや」
レオナは部屋にあった机やベッドをそのまま使うと言ってくれたので片付けは思いのほか早く済み、持ち込んだ荷物の荷解きを始める。
俺も雑用と力仕事を任せられ、部屋の模様替えを手伝っていた。
レオナはクローゼットの扉を開け放って荷物を整理し始め、俺に声を掛けた。
「作也、その段ボール開けて」
「コレか?」
俺は床に放置された笑った口が印刷されている再利用の大きな段ボール箱を開け、中身を確認して直ぐに閉じた。箱の中には乱雑に服が入っていたが下着がごちゃ混ぜになっていて男が触っていい物では無かったからだ。
「レオナ……これは自分でやってくれないか?」
俺はベッドに腰かけて荷物を整理しているレオナの前に段ボール箱を滑らせて、荷解きを任せた。
箱を開いたレオナは俺の顔を見てニヤついて言った。
「作也のエッチ! 私のブラ見たでしょ」
「見たっていうか、見えたっていうか……って、酷い詰め方じゃないか! 服がしわしわになってるぞ」
「えー? だってメンドかったし」
作業を終えた花蓮が戻って来てドアの枠にもたれながらレオナに聞いた。
「レオナっち、後は何したらいい?」
「うーん、もう大丈夫かな? ありがとう花蓮ちゃん、晩御飯まで休んでて」
「オッケー、じゃ作の部屋見せて?」
「は? 何でだよ!」
「いいでしょ? 私が片付けてあげるから」
「いや、いいっていいって!」
「いいって、オッケーって事だよね!」
花蓮は廊下に出て俺の部屋のドアを開けた。
「あーっ! ダメだって!」
俺はレオナの部屋を飛び出して花蓮の後を追った。
「何だ、綺麗じゃない……つまんないなぁ」
「か、花蓮。俺の部屋なんか面白く無いから居間に行けよ」
「いや、十分面白いよ。男子の部屋なんて何年ぶりだろ? 作の匂いするし」
「だ、だから」
花蓮は俺のベッドにドカッと座り、部屋を見渡している。
俺は物凄く恥ずかしい気持ちになってしまい顔が熱くなって来た、こんなの全裸で外にいるよりも恥ずかしいぞ。
「作、何照れてんのよ、さっきから目泳いでるし……昔は良く部屋に入れてくれたじゃない」
「そ、そりゃ準備も無しにいきなり女子に部屋見られたら恥ずかしいだろ、もし俺が今すぐ花蓮の家に押しかけて部屋見せろって言ったら見せてくれるのかよ?」
「それは、ムリっ!」
花蓮はベッドの上で笑いながら胸の前で腕をクロスさせた。
「ちわーす! 隣のレオナでーす!」
レオナも部屋に入って来て俺の部屋を見渡した。
制服を着がえ、派手なグラフィックの印刷されたTシャツにデニムの短パン姿で長い足を惜しげも無く晒し、俺の机のキャスター付きの椅子に背もたれを前にして跨ったレオナは椅子を回転させた。
「何か疲れた! そうだ!」
レオナはそう言って椅子から立ち上がり、廊下に顔を出して居間に向かって叫んだ。
「管理人さーん、喉乾いちゃった! 何か飲み物あるー?」
「バ、バカッ! 何言ってんだよ! 俺が持って来るって!」
俺は焦って階段を駆け下り、居間に入って晩御飯の支度をしている千里に言った。
「ごめん千里、気にしないでくれ……俺がやるから」
「気にしてませんよ」
千里はキッチンで振り返って俺に微笑んだ。
目が笑って無い、って包丁が固いかぼちゃに突き刺さってるじゃないか! どんなパワーだよ……。
「飲み物ですか? それなら戸棚に消毒液がありますからどうぞ」
「はははは」
俺は乾いた笑い声を上げた、千里の発言が冗談なのか本気なのか分からない。
「二階は随分楽しそうですね、早く戻ってあげた方がいいんじゃないですか?」
これはマズい、千里はご機嫌斜めどころじゃない倒壊寸前だ。
俺は千里の後ろをそっと通り過ぎて冷蔵庫からウーロン茶を出し、グラスを戸棚から出して逃げるように二階に向かおうとした。
だけど……千里の横顔が悲しそうで、俺は彼女の横に並んで耳元で囁いた。
「色々とゴメン……この埋め合わせは必ずするから」
ピクンと体を反応させた千里は少し黙っていたが、口元を上に上げ、「はいっ、また作クンと何処かにお出かけしたいです」と言って調理を再開した。
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