第21話 目的地

 放課後、教室で席を立った俺に花蓮が近寄り、「一緒に帰ろ」と誘ってきた。

「ゴメン、花蓮……今日は川崎さんに道案内頼まれたんだ」

「えーっ!」

 面白くなさそうな態度をあからさまに取る花蓮は横目で川崎をチラ見する。

 川崎は花蓮に両手を合わせ、お祈りをするように言った。

「ごっめーん、今日、作也借りるから。んで、あなたは?」

「三島花蓮だよ」

「花蓮ちゃん? あなたって作也の彼氏?」

「えっ? うーん……どうなんだろ?」

 花蓮は俺をジロジロ眺め、何とか言えよとプレッシャーを掛けているようだ。

「花蓮は俺の幼馴染みなんだ」

 俺の言葉に眉をピクッとさせた花蓮、事実を言っただけだが不満そうだ。

「ふ〜ん、そしたら作也はフリーなんだ……だったら貰っちゃおうかな?」

「なっ! ちょっとアンタねぇ、いきなり現れたかと思ったら、さっきから作也作也って何なのよ!」

 川崎に間合いを詰め、ツインテールをぴょこぴょこと揺らし、顔を近づけた花蓮は声を張る。

「なるほど……花蓮ちゃんは作也が好きで、作也はそれ程でもないか……」

 花蓮の威圧的な態度をクールな顔で受け流し、あごに手を当てて川崎は呟いた。

「は? そうなの? 作……」

 花蓮は驚いた様子で俺を眺めている。おい! 口開いてるって。

「と、兎に角そういう事だから。俺、川崎さんと帰るから」

 俺は逃げるように川崎レオナの手を引っ張った。

「ちょっと、なに手ぇ繋いでんのよ! 逃げるな作! 私も行くからっ!」

 花蓮は大きな声で俺達の後を追いかけて来る、小さい体で足音を響かせながら。

 駐輪場に着いた俺は自転車に跨り、鍵を外して傍で見ている川崎に言った。

「川崎、自転車は?」

「持ってないよ。あと、川崎って呼ばれるの馴れてないからレオナって呼んでくれない?」

「へ? 川崎、今日どうやって来たんだよ?」

「タクシーだよ。それと今の話聞いてた? レオナだから、レ・オ・ナ」

 そう言うと川崎は俺の自転車の後ろに勝手に跨った。

「あのな、レ、レオナ」

 流石にまだ馴れていない女の子を名前で呼ぶのには抵抗がある、胸の奥がくすぐったい。

「へーっ! 作って何なの? 随分と優しいのね」

「か、花蓮!」

 俺の傍に自転車を停めて花蓮はギロリと俺を睨みつけた。

 レオナが俺の後ろで聞いた。

「花蓮ちゃんって作也のストーカーなの?」

「誰がストーカーだ!」

 花蓮がツバを飛ばして大声で否定する。

こっわ! 作也、花蓮ちゃんから逃げろーっ!」

 レオナは花蓮に見せ付けるように俺の腰に腕を回して体を密着させて叫んだ。

 花蓮の怒りの眼差しと、背中に伝わるレオナの感触にドキッとした俺は変な汗が全身から噴き出す。

 俺は逃げるつもりは無いが、体に風を当てたくて自転車を漕ぎ出した。

「作也、2条3丁目だからね」

 レオナが俺の背中に声を掛けた。

「解ってるよ」

 夏蓮が俺の自転車に横並びになり聞いた。

「ねえ、作! 何で川崎さん送ってくの?」

「レオナの家が俺んちの近くだからだよ」

「はぁ? レオナって……作って何かやらしくない?」

「何でだよ! 仕方ないだろ? 川崎さんが名前で呼べっていうから……」

 俺は言われたくない事を言われ、大きな声で反論した。

「ムキになるところが余計怪しいよ」

 花蓮はフンッ! と俺から顔を背けた。

 暫く自転車を走らせて目的地周辺で停車すると、俺は振り返ってスマホで位置を確認しているレオナに聞いた。

「枝番は?」

「1の3だよ」

「は? それは無いだろ、それは俺ん家だからな」

「えー? だって家主から送信して貰った住所だよ。取り敢えず進んで、地図観てるから」

 俺はレオナのナビの通りに道を曲がり、停まってと言われた地点に停車する。

「だから、ここは俺ん家だって。ちゃんと調べてくれよ」

「えーっ? 何で!」

 レオナは天を仰いで自転車の後ろから降り、スマホを睨む。

「そうだ、メールに電話番号書いてたんだ、大家さんにかけてみよ」

 スマホを耳に当てたレオナ、足を揺すり少しイライラしているみたいだ。

 不意に俺の携帯電話が振動した、何だよ? 電話? しかも知らない番号だし……。

 俺はその電話に出るか少し迷ったが、スマホの画面をスライドさせて耳に当てた。

「もしもし?」

『あ、もしもし? 良かったーっ、部屋を借りてた川崎レオナですけど藍沢さんですか?』

 俺は眉間に皺を寄せ、レオナの電話の声に反応するのがアホらしくなってしまった。

『もしもし? もしもーし? ちょっと聞いてるの?』

 ウロウロしながらスマホに叫ぶレオナ。

 俺はスマホを耳から離して、レオナに向かって言った。

「聞いてますけど何でしょうか……?」

「はぁ? 何で作也が⁉」

 彼女は驚いて俺に聞いた。

「からかってるのか? レオナ」

「えっ? だってメールにリンクされた番号だから間違い無いよ!」

「んな訳無いだろ? ちょっと見せて」

 俺はレオナのスマホを借り、メールを確認した。

 確かに俺の番号にリンクが貼ってある、何でだ? 入力間違い? 家主は藍沢紘一……嘘だろ……親父の名前だ。

 俺は頭がクラクラした、あのアホ親父が何か企んでるのか? 頼む、もう何処かの秘境で雪男にでも食われてくれ。

「レオナ、ちょっと待ってろ。俺、この家主に覚えがあるから」

 そう言って俺は親父に電話を掛けた。

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