第17話 バトル

「えっ……? 嘘……」

 玄関ドアを開けた夏蓮は絶句して俺達を眺めている。

 俺と千里も声を失った、どうしていいか分らずにその場に立ち尽くして三人の間に無言の時間が流れる。

 夏蓮はゆっくり玄関内に体を入れ、閉まったドアに寄りかかって俯いて呟くように言った。

「コレって一体どういうこと?」

「夏蓮……」

 俺は言葉に詰まった。

 千里は観念したのか一度目をつむり、ゆっくりと目を開くと冷静な口調で夏蓮に説明した。

「私は此処の居候です、親の都合で半月前から作也さんと同居させてもらってます」

 夏蓮は俯いたまま言った。

「私、バカみたい……」

「花蓮、黙っててごめん……」

 イラっとした表情を浮かべた花蓮は眉間に皺を寄せ、腕を組んで俺を睨み付け、強い口調で聞いた。

「で? 二人はデキてんの?」

「いや、そういう関係では……」

 俺の体が委縮して声が小さくなる。

「さっきから何なの? 教えてよ! 二人のの関係」

 花蓮の声が玄関内に響き渡った。

 千里は黙って事の成り行きを見守っている。時折、口を挟みたそうに焦れた感じで。

「作に聞いてもダメか……。見田園さん! 作とどこまでしたの?」

 花蓮をキッと睨みつけ、千里は彼女に近づいて言った。

「デリカシーの無いこと言わないで下さい! 私達は健全な家族のお付き合いをして毎日を過ごしているんです!」

 丁寧な言葉でキレる千里。

「健全ね……じゃあキスもまだなんだ。私はさっき作としちゃったけど」

 千里はその言葉に体をピクッとさせた。

「花蓮っ!」

 俺は千里に聞かれたくない事を花蓮に言われ、声が大きくなる。

「でも不純だなぁ、居候って言ったって二人切りなら同棲だよね? 見田園さん、そのうち妊娠しちゃいそう」

 花蓮は挑戦的な態度で千里の顔を除き込む。

 千里は手を振り上げ、パシンと音が響いた。

 夏蓮に平手打ちした千里。放心する夏蓮は叩かれた頬を触りポツリと言った。

「宣戦布告か……」

「夏蓮! 帰ってくれ!」

 俺は二人の間に割って入り、ドアを開けて花蓮を押し出し、自らも外に出てドアを閉めた。

 暫く俯いて玄関前に立っていた花蓮は俺と目を合わせると消え入りそうな声で言った。

「ゴメン……言い過ぎた……」

 片方の頬が赤い花蓮は目を潤ませて俺の胸に頭をコツンと着けて謝った。

「俺の方こそごめん……」

「親が決めた事だもんね? 二人に文句言ってもしょうがないのに……」

 俺はポケットからスマホを取り出し、花蓮に見せた。

「これを取りに来たんだろ?」

「そうだよ! あー、良かった! やっぱり作が気づいてくれてたんだ、助かったよ!」

 スマホを受け取り胸に抱きしめた花蓮は安堵したように目を閉じて天を向いた。

 取り敢えず彼女の機嫌が治って良かったと俺は、ふうと息を吐いた。

 花蓮は家の前に停めていた自転車に跨ると俺にウインクして言った。

「私、見田園さんに負けないから! じゃあね、作! また明日!」

 笑顔で大きく手を振った花蓮はペダルを漕ぐ足に力を籠め視界から消えた。

 た、助かった……花蓮のドライなキャラのお陰だ。いや、まだだ、もう一つの懸案事項を片付け無いと……。

 俺は恐る恐るドアを開けて家に入ると、千里は階段に腰掛け、膝を抱えて顔を伏せていた。彼女の長い黒髪が滝のように前側に流れ、つやつやと輝いている。

 俺は千里の前にしゃがみ、声を掛けた。

「千里……大丈夫?」

「本当ですか?」

 顔を伏せたまま、千里は籠もった声で俺に聞いた。

「何が……?」

 顔を上げ、拗ねたような表情で千里は俺の目を見て再び聞いた。

「キスしたって本当ですか?」

 目元に涙をため、彼女の瞳が俺の心の中を透視しているようだ。

 俺は千里から目を逸して答えた。

「本当だよ、したって言うより、されただけど……」

「不意打ち……ですか? 何やってるんですか? 作クン」

「なんて言うか……反応出来なかったし」

 千里はプッと笑って俺に言った。

「そんなカッコ悪い作クンにはお仕置きが必要ですね」

 階段の一段目に立った千里は、俺の手を引っ張り上げて立たせると言った。

「目を瞑って歯を食いしばって下さい」

「え? 何を……?」

 千里は俺に顔を近づけて睨んだ。

「早く!」

「あ、ああ……」

 ビンタされる……やっぱり彼女は俺を将来恐妻家にさせる。

「行きますよっ!」

 俺は目をギュッと瞑る。

 千里の息を吸う音が聞こえ、俺は身構える。

 その時、唇に柔らかい感触を感じ、俺は驚いて目を開いた。

 千里は俺にキスをしていた、彼女は俺の背中に腕を絡め、唇を押し付ける。

 俺の頭の先から爪先まで電気が走った、少し仰け反って固まった体に彼女のサラッとした黒髪が掛かり、良い香りが漂う。

「やっぱり不意打ちには弱いみたいですね?」

 唇を離した千里は目を細めると、クルッと背中を向けて階段を駆け上がり、自分の部屋に逃げ込んた。

 ウソ……だろ? 頭が混乱して俺はその場に座り込んだ、一日に女の子二人にいきなりキスをされるなんてあり得ないぞ、しかも二人とも喜んでるってどういう事?

 心拍数が爆上がりした俺は頭が痛くなった、これっていわゆる三角関係ってやつだろ? 結末が怖い、小説やアニメじゃ無く、自分が当事者になってしまった事が……。

 女の子と付き合ったことも無いのにいきなり三角関係って! 死にそうだ……。

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