第2話 懸念
「おう、
教室に入り机の横のフックにカバンをぶら下げようとしている俺に背中から声が掛かった。
「お早う
俺は夏服の制服を着た同級生の
「そんなの転校生の見田園千里に決まってんだろ、可愛い可愛い姫様の」
「ああ、千里か」
「千里って……お前、彼氏でも無いのに馴れ馴れしい奴だな。それとも同じ駆け込み族として意気投合でもしたのか?」
ヤバっ、つい癖で名前呼びしちまった。
岡島尚泰は中学からの親友で、俺と同じ平凡人間だ。最近は暇さえあれば彼女が欲しいと言っていてちょっと鬱陶しいが……彼は年齢イコール彼女いない歴で、女に飢えているのか女を見るとグイグイ行くタイプだ、だけど顔面も学力も平均値な尚泰は帰宅部な事もあり女子へのアピールポイントは皆無、未だ彼女は出来ていない。
尚泰は言った。
「しかしよう、あんな真面目そうな姫がいつも遅刻寸前とは意外だよな?」
「さ、さあな? 何か訳でも有るんじゃないか?」
朝から俺とイチャ付いてたのが原因とは言えない……。
「低血圧属性か? 美少女が寝起きが悪いのは特権みたいなもんだからな」
「言えてる」
俺は適当に話を合わせる、千里の件でボロが出ないようにしないとな。
しかし、尚泰の見解は的外れだ。千里が低血圧? 元気に早起きする千里が? 朝ご飯をいつも作り、弁当まで持たせてくれる彼女は俺を起こしに来るくらい寝起きがいい。起きれないのは俺の方だよ。
「って、噂をすれば姫登場か?」
尚泰は千里を目で追いながら言った。
千里は教室に入ると教壇の辺りで膝に手を付いた、顔を赤くして肩で息をしながら。
息を整え、顔を上げて綺麗に着こなした制服姿で俺を一瞬睨んだ千里、怒ってるな……。
千里の席は俺の隣り、教室では殆んど話さない、いわば放置プレイ状態。
機嫌が悪そうな千里は、余り短くない真面目丈のスカートをひるがえしてこちらに接近し、無言で席に座り再びチラリと俺を睨む。
うわーっ、ちょっと怖い、帰ったら正座させられるかも。
「
「
幼なじみの
見た目はまさに元気娘、茶髪のツインテールが可愛く、目が少しだけ吊っているのが気の強さを感じさせる。背は余り高くなく細身の体が同い年とは思えない妹感を醸し出している。
「
その言葉に反応した千里は花蓮の背中を睨んだ。
花蓮は千里の机の角に腰掛け、俺に話し掛けている。
花蓮に悪気は無いかもしれないが、これは千里への挑発行為だ。
「迎え……? いやーっ、そ、そんなの悪いよ。大丈夫だから」
幼なじみとは言え、彼女を家には近づけたくない。万が一にも千里との同居はバレてはならないから。
「遠慮すんな。私、こう見えても結構早起きなんだから」
花蓮は胸に手を当てて俺に顔を近づけた。
「いいって、いいって!」
俺は千里をチラチラと視界に入れ、緊張して必死に断る。
「明日、8時10分に家行くからね」
「い、いや……花蓮」
「皆、席に着け、出席取るぞ」
男性担任が教室に入って来て言った。
千里がジト目で俺を見ている。物言いたげに……『どうするつもり?』と言う声が聴こえて来そうだ。
「いやー、作也。羨ましい奴だな、あんな可愛い幼なじみがいるなんて、一回くらいヤッたのか?」
尚泰が席の後ろで俺を茶化した。
「バ、バカ言え、そんな訳ねーだろっ!」
千里に絶対聞こえてる、けど彼女は俺を敢えてガン無視だ、怖すぎる。
朝のホームルームが終わり、俺は花蓮に断りを入れようと席から立ち上がったが、彼女は席を立ち、どこかに行ってしまった。
俺はスマホアプリでメッセージを花蓮に送り、丁重にお迎えを断る文を送信する。
すると速攻の返信があり『もう決定してるから絶対に行くから!』と交渉の余地は無い。
これはヤバい、花蓮なら迎えに来た時に居間に上がりかねない、俺はその状況を想像し背筋が寒くなる。
千里……協力してくれるのかな?
俺は千里に視線を送ったが、彼女は俺が隣に居ないかの如くそれを無視した。
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