許可無く家に上がり込む同級生に俺の身が持たない。

みりお

第1話 束縛

「はい、あーんして」

 千里ちさとは食卓の向かいに座り、俺の口の前に箸でつまんだタコさんウインナーを差し出し笑顔を見せた。

 この目の前にいる突如現れた居候に俺は毎日圧倒されていた。見田園千里みたぞのちさと17歳、俺と同い年の彼女は父の知り合いの一人娘だ。

 俺の父は冒険家で、世界各地の秘境をその知り合いと旅していて一年の殆んどを海外で過ごしている。

 俺と千里は共に父子家庭で兄弟もいないし親戚は遠方に住んでいた為、取り敢えず二人で協力して暮らすようにと一方的に両家の親から告げられ、このような状況に至っていた。

 だからといって飯を口に入れるのも協力しながらとは言われていない気がするが……。

「千里、時間無いから自分で食べていいか?」

「嫌です! 作クン昨日の夜、直ぐに寝たじゃないですか! お話したいから起きててって約束したのに……だから今日は朝からお返しして貰う必要があります!」

 千里と初めて会ったのは2週間前、親父がいきなり家に連れてきて紹介されたんだ。いや、紹介されたというよりは置き逃げされたというべきか。

 いきなり現れたその女の子は超が付くほどの黒髪が奇麗な美少女で、俺は居間で彼女と挨拶を交わした後、今後一緒に彼女と暮らす事を親父に告げられ絶句したんだった……。

 千里は清楚系で背も高く、スラッとしたモデルのような体型をしていたが意外と胸は大きい、その完璧な体に乗っかった小さな顔、二重の目は大きく瞳は薄茶色で鼻筋が通り顎は細い、背中まで伸びた黒髪は姫カットで可愛らしくも気品を感じさせた。

 ビジュアルは、まさに完璧なお嬢様系美少女……同居する俺とは不釣り合いなほどに。

 そんな敷居の高そうな彼女とは意外にも直ぐに打ち解け、楽しい生活を送っていたが……最近、千里がグイグイと俺にまるで彼女の様な態度で急接近して来て戸惑う日々。

 他人から見れば羨ましがられることは確実なイチャコラ生活、でも俺はこの状況に少し疲れていた。

 千里は今まで一人で過ごす事が多かったらしく、俺は格好の話相手になっていた。初めのうちは可愛い子の相手をするのが嬉しくて俺も毎日が楽しかったが、何だか最近は俺を束縛し、一緒に居る事を強要されているような気分になった来た。

 参ったな、朝からの食べさせプレイ……時間が無いってのに、今日も高校まで激チャリは必至だ。

「ちょっと、よそ見しないでください! 今日という今日は作クンを独占するんですからっ!」

 独占って……朝起きたばかりだぞ? 学校から戻った後じゃダメなのか? 俺は壁の掛け時計の針を気にして言った。

「千里、悪り。ちょっと俺、トイレ行きたい」

「はぁ? お食事中ですよ? まったく」

 口を尖らせた千里は箸を置き、トーストをかじって少し不貞腐れた様子で続けて言った。

「早く済ませて来て下さい」

 俺はトイレに行くフリをして逃亡を試みる。

 居間から廊下に出てトイレのドアをわざとらしく大きな音を立てて開閉し、そのまま階段の一段目に置いていたカバンを拾い上げて玄関へ向かう。

 その時、後方から怒気の籠ったような声が掛かる。

「作クン、お外でトイレですか?」

 その声に俺はビクンと体を震わせた、振り向くと廊下で千里が制服姿に白いメイドのようなフリフリのエプロンを着けたまま仁王立ちし、眉間に皺を寄せて眉をヒクヒクとさせていた。

「千里……ゴメン! 遅刻しちまうから先行くわ!」

 スニーカーに足を突っ込み玄関ドアを開け、爪先を家の前でトントンと地面に叩きつけて踵を入れ、俺は自転車に飛び乗って逃走を図る。

「あーもう! 絶対に許さないんだからっ!」

 千里はサンダルを履き、玄関前に出て可愛らしい声で叫んだ。

 愛が重い、千里が俺の家に住み着いてからというもの俺を束縛しようと食っ付いて離れない。

 だけど……ここから先、つまり家の外に出てしまえば千里は別人になる、俺と千里は同じ高校の同級生だが同居している事は秘密だからだ。

 取り敢えず脱獄に成功した俺は高校に向かった。

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