アァァーーーーっ!?!?


「侮辱だなんてとんでもない。単なる・・・事実・・に過ぎないと思いますが?」


 にこりと微笑むと、クズ野郎が腕を振り上げて近付いて来る。どうやら、わたしを殴るつもりのようだ。


「ほら、そうやってすぐに暴力に訴えようとする」

「黙れっ!! 人が下手に出ていれば付け上がりよってっ!! 女のクセにっ!?」


 真っ赤になったクズ男の顔。腕を掴む近衛? の力が強くなった。


 この《世界》に降りてから、いつ下手に出られたのかわからないんですけどね?


「では、まずご自分よりも上位の存在に犯されて来てください。話はそれからにしましょう」


 と、背中でひとまとめにされている腕をバッと振り払い、


「え?」


 パチンと指を鳴らす。瞬間、クズ男が目の前から姿を消した。


「へ、陛下っ!!」


 慌ててクズ男を探す近衛? 共。


『……おい、聞こえているか?』


 そして、重々しい低い声が部屋に響いた。


「ハーイ、元気してるかしら?」


『それどころではない。今、そっちの世界から人間が飛ばされて来たが・・・あなたの仕業か?』


「ふふっ、ちゃんと届いていたみたいね? 彼、見目麗しいでしょ」


『顔立ちは整っている、とは思うが……』


「彼ね、わたしと交渉をしたいそうなの。でも、その交渉、彼が自分よりも上位の男に色々と蹂躙されてからじゃないと、始められない交渉なの。しかも、彼の方から持ち掛けた交渉よ。だからお願い、わたしに協力して? その彼は、身体を綺麗にしてこっちに戻してくれれば、なにを・・・したって・・・・構わない・・・・し、遠慮は・・・要らない・・・・から」


 そう告げた瞬間・・・


『もうヤっだ! 信じらんな~いっ!! 今丁度、魔獣討伐戦が終わったところで、アタシ汗だく血塗れ、いろんな肉片塗れのひっどい状態なのにっ! もう、こんな臭くて汚い酷い格好で綺麗で可愛い男の子を迎えないといけないなんて、どうしてくれるのよっ!!』


 太い声のテンションが爆上がり、女性言葉になってわたしを詰る。


「え? じゃあ、あなたの準備が整うまで、それ・・こっちに戻そうか?」


『それも嫌よっ、アタシ、今の話聞いて、身体が火照って疼いて堪らないんだからっ! 責任取ってちょうだいっ!?』


「ぁ~、わかった。それじゃあ後はよろしくー。終わったら連絡ちょうだい」


『あ、ちょっと待って。聞き忘れてたけど、一回・・で返さなきゃダメかしら?』


「ああ、あなたが鎮まったら・・・・・でいいわ」


 確か、戦いの後はいろんな・・・・欲求・・が爆発するとかしないとか・・・


『キャー、ありがとっ!! 大好き! 今度また一緒に遊びましょうね!』


「はーい。それじゃあまたねー」


『や、やめろっ!! そ、それ以上わたしに近寄るなっ!! アァァーーーーっ!?!?』


 と、彼との交信が終わった室内に落ちるのは沈黙。


 なんか、最後に変な声が聞こえた気が・・・?


 ま、あれだわ。きっと、わたしとの話し合いを始める前の準備として、自分の身をもっ色々と・・・経験をして来るのだろう。


 彼、身長が高くて筋骨隆々。逞しくて、野生味溢れる偉丈夫。けれど、態度は紳士的でカリスマもあって、人柄なんかも本っ当にすっごくいい男! ではあるんだけど・・・唯一の欠点が、男の趣味が悪いことなのよねぇ。クズ男を、アンアン言わせるのが大好きだし。


 まぁ、あれだ。わたしとの話の前に、身体を張って色々な・・・こと・・を実地で体験しに行くとはさすが国王だ。素晴らしい自己犠牲精神! がんばれー。まぁ、あのクズ男とまともな話ができなくなったとしても、王位継承権第一位、第二位だとかの代わりが幾らでもいるでしょ。そのときはそのときで、別の人と話させてもらうことにしよう。


 うんうんと一人で納得していると、


「こ、この魔女めっ!! 陛下をどこへやったっ!!」


 怯えの混じる怒声が響いた。


「ああ、彼のところへ送ったの。だって、言ったでしょ? まずは、ご自分よりも上位の存在に無理矢理凌辱されてからいらしてください。交渉はそれからです、と」

「陛下よりも上位の存在がいる筈があるかっ!? 今すぐ陛下を返せっ!!」

「ふふっ……彼は、戦神なの。神、よ。だから、人間であるあのクズ男……国王よりも明確に上位の存在じゃないかしら? ねえ、彼はわたしに言ったわよね? この国最上位の自分に身を差し出すのが当然・・だって。ありがたがれ・・・・・・って。たかが人間という矮小な身で、神という存在にその身を差し出せるという栄誉を与えられたというのに、なにが不満なの?」

「な、なにをっ……」

「ああ、わかった。クズ男が羨ましいの? あなたも、神にその身を捧げたいのね? いいわよ♪」

「ひぃぃっ!!」


 パチン、と指を鳴らすと、情けない悲鳴と共に近衛? っぽい男が一人、《この場》から消える。


『アァァーーーーっ!?!?』


 またしても変な声がしたような? ま、いっか♪


「他に、神へ身を捧げたい人はいるかしら? 一人二人だけじゃなくてもいいわよ? 彼、体力凄いから。あなた達みーんなまとめて、向こうへ送ってあげるわ」


 にっこりと微笑むと、がたがたとみんな震え出した。寒いのかしら?


「お、お前は何者だっ!!」

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