この国は、随分と野蛮な国なんですね?



 さて、とりあえず、無理矢理剥ぎ取られた服でも探しに行きますか。


 しばらく気配を殺していると、焦げ臭い臭いとうっすらした煙が広がっていることに気付く。


 あちこちと慌ただしく人が行き交う。人の気配がする度、こそこそと隠れながら城に潜む。部屋がいっぱいあって、隠れ易くて助かる。


 静かな部屋を見て回っていると・・・わたしの着ていた服は、ゴミとして捨てられそうになっていた。本当に信じられない! 人の服を勝手に捨てようとするだなんて、最悪だ。


 発見できて本当によかった。見付けてからは自分の服を着て歩いていたけど、城の中では目立つと思い、使用人? の人達の着るような服を失敬して私服の上から着ることにした。


 隠れながら城のあちこちを巡っていると、城の端々で、わたしより以前に拉致召喚をされたと思しき女性達の面影が残っていることに気付く。


 そして、古い倉庫に雑然と置かれていた……家に帰りたい、虐げられてつらい、死にたいなどの恨み辛みの書き連ねられた日記らしき物を見付けてしまった。


 おそらくは、《この世界》の人間には読むことのできない文字で書かれた……筆跡の違う文字、質感や年代の異なる紙などからして、複数人の女性達が辿った、非業の証。


 怨嗟の叫びに、助けを求める言葉に、胸が痛くなる。


 そうやって、彼女達の面影を追いながらこそこそとしていたのに・・・


「いたぞっ!! 捕まえろっ!!」


 と、近衛? っぽい野郎に捕まった。


 そして、両腕を背中でしっかりと掴まれ、逃げられないように豪奢な部屋へとまるで犯罪者の如く連行された。一応、放火はしたという自覚はあるけど……


 国王だかなんだか知らないけど、ひとのことを勝手に妻にするだとか子を産ませてやるだとか、クソたわけたことをのたまった顔だけ野郎が待っていて・・・


「貴様は、この国最上位であるわたしに情けを掛けられることに一体なんの不満があって逃げ出したっ!! ありがたくその身を差し出すどころか、城に付け火までしよってっ!! 前代未聞だぞっ!? 女神の化身とは言え、首を刎ねられたいのか貴様っ!?!?」


 なんて怒鳴りやがるから、いきなり召喚されてわたしの意志を無視されて、妻だの子だのとのたまわれて、着ていた服を無理矢理剥ぎ取られて捨てられそうになったわたしは、マジ切れしてもいいと思う。


「不満しかねぇに決まってんだろ、脳みそ詰まってんのかクソ野郎が。まずは……手前ぇよりも上位の存在に犯されて来い。話はそれからだ」


 と、言ってやった。


「は? い、今、なんて言った?」


 ぽかんとした顔のクソ野郎。


「だから、不満しかありませんが? わたしとお話がしたいのなら、ご自分よりも上位の存在に無無理矢理凌辱なされてから、いらしてください。交渉はそれからです、と言ったのです」

「え? いや、今……不満しかねぇに決まってんだろ、脳みそ詰まってんのかクソ野郎が。手前ぇよりも上位の存在に犯されて来い。話はそれからだ、とか言わなかったか? 聞き間違い、か……?」

「あら? そうでしたか?」


 あれ? おかしいな? 本音の方が出てしまっていたらしい。気を付けないと。


「い、いや、そんなことよりっ、無礼だぞ貴様っ!? わたしが貴様に情をくれてやろうと言っているのに、なんだその反抗的な態度はっ!?」

「え? 要りませんけど? 気色悪い。初対面の人間に身を任せる程、わたしは貞操観念も倫理観も低くないので。そもそも、異世界のひとを無断で召喚して、妻にする? 子を産め? それ、単なる拉致誘拐、監禁、そして婦女暴行。犯罪のオンパレードですから。どこぞの地域にある、誘拐婚って言う野蛮な風習の方が、まだマシな気がするわ。あれは一応、かなり困難だとしても、誘拐された花嫁が婚姻を了承しないで無事に家に帰り着けば、婚姻は無効になると決まっているし。《世界》が同じなら、自分の住んでいた地域からは地続きなワケだし」


 花嫁の親族や友人が助けに来るかも……という希望がある分、少しだけどまだ救いがある。


 けれど、ここは・・・《世界》が違う。普通の人には、隔てられた《世界の堺》を越える術はない。《別の世界》から《異なる世界》へと召喚されてしまった人は、孤独だ。


 そんな状況で、いきなりとんでもないことを強要するなんて・・・


「この国は、随分と野蛮な国なんですね? とてもとても文明国とは思えない非道なことを、平気で女性に強要する最低の国ですこと」

「我が国を侮辱するか貴様ぁっ!?」

「侮辱だなんてとんでもない。単なる・・・事実・・に過ぎないと思いますが?」

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