「まずは……手前ぇよりも上位の存在に犯されて来い。話はそれからだ」
月白ヤトヒコ
皆の者、女神の化身が我が国へ降臨されたぞ!
屈強な騎士っぽい野郎共に両脇を挟まれながら連行され、豪奢な部屋に入れられる。
その途端、
「貴様は、一体なんの不満があって逃げ出したっ!! しかも、城に付け火までしよってっ!! 前代未聞だぞっ!? 女神の化身とは言え、首を
怒りに顔を歪めた尊大な態度の男(顔は美形)に、全力で怒鳴られた。
しかし、わたしだって非常に怒っているのだ。
「まずは……手前ぇよりも上位の存在に犯されて来い。話はそれからだ」
と、言ってやった。
✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧
ことの始まりは――――
一仕事を終え、そろそろうちの方に帰ろうかと思っていたときのこと。
同僚に、わたしが管理している部署のことについて強く抗議された。
「あなたが他の部署の仕事のヘルプに行っていたのはわかっているけど、わたしのところの子に迷惑を掛けないで頂けますか? 可哀想に・・・あの子はあなたの部署に無理矢理連れて行かれて、あれこれと無理難題を押し付けられた挙げ句、酷く虐待を受けて、心身共に壊されてしまったんですよ? 責任を取って頂きますからね」
と、同僚の言う『あの子』が受けたという酷い仕打ちを聞かされた。
まさか、わたしが少し目を離した隙にわたしの部署の人間が他の部署の人にそんな非道なことをしているとは露知らず、平身低頭で同僚へ謝った。
「申し訳ありません。わたしの監督不行き届きです。言葉もありません」
恥ずかしいやら申し訳ないやらで、居た堪れない思いで謝罪をする。
「……次はありませんからね」
と、同僚は渋々と謝罪を受け入れてくれた。
酷く落ち込んだ気分で帰ろうとしたら――――
パッと足元に魔法陣が浮かび上がり、気付いたら石造りの建物の中にいた。
「おお、召喚が成功した。皆の者、女神の化身が我が国へ降臨されたぞ!」
見知らぬ人間に取り囲まれ、どういうことなのか事態を把握する前に、
「お前が女神の化身か。まあまあの顔だな。お前をわたしの妻にしてやる。子を産ませてやることを光栄に思うがいい。今夜は初夜だ。この娘を磨き上げろ」
いけ好かない尊大な態度の男(顔は美形)に告げられ、声を出す間もなくメイド服のような格好をした女性達に腕を取られて連れて行かれた。
着ていた服を無理矢理脱がされ、大きな浴場で数人掛かりで入浴させられた。香油で念入りに肌をマッサージさせられ、薄い服を着せられ、化粧を施される。
なにこれ? どういうこと?
「お綺麗ですよ」
「羨ましい」
「いいですか? 陛下に尽くすのですよ」
「陛下に情を掛けられるのは幸福なことです」
「決して陛下に逆らわないように」
「あなたはこれから一生、なに不自由無く暮らせるのですからね」
「毎日美味しいものを食べられますよ」
「平民では見ることも叶わない、とても美しいドレスや宝飾品で身を飾れるのですよ」
「陛下に身を任せるのです」
「呉々も、陛下のお気を損ねぬように」
そんなことを言い含められて、大きなベッドのある豪華な部屋に一人置かれた。
は? 意味わかんないんですけど?
これが巷で噂になっているという拉致召喚か……と、今更ながらに思い至った。
とりあえず、今は逃げよう。
ここでぽかんとしていたら、あのいけ好かない尊大な態度の男に襲われるのは確定のようだ。
貞操、大事。というかっ・・・
いきなり誘拐して、ワケもわからないでいるひとに向かって、妻にしてやる? 今夜は初夜だ?
と、とりあえずベッドのシーツを破り、薄物しかまとっていない身体に巻き付ける。
それからカーテンやらシーツやらを裂いて編み、縄の代わりにして、窓から逃亡を図った。
窓の外には見張りはいない。わたしのことを、逃亡する意志が無いと舐めくさっているようだけど、それはそれで好都合。
逃亡ついでに、部屋に置いてあった酒をベッドへとたっぷりと吸わせて、これまた見付けたマッチで縄へと火を点ける。
一応、この城っぽい建物は石造りなので大して燃え広がることはないだろう。人死には少し胸が痛むから。でも、あの忌々しい初夜の間とやらは燃え落ちろ! そして、二度と使えなくなれ! と祈りながら、燃え上がって行く縄を見て・・・
さて、とりあえず、無理矢理剥ぎ取られた服でも探しに行きますか。
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