第14話 サン・クレメンテ攻防戦(14)
基地メンテナンス通路外部ハッチを開ける非常用パネルについては、スタフォードによって〝乗っ取りウイルス〟が最初仕込まれていたが、次の
「
とりあえず、基地の主要部署がどうなっているのかを確認しなくてはならないので、テゼルトはまず、それぞれに部署の解錠コードを渡して、隊を分散させた。
そしてテゼルト自身は
「隊長!四代目から、お墨付き出ましたけど、どうしますー?」
状況が状況なので、詳しく口に出来なかったベルンフィールドだったが、テゼルトは正確にその先を読み取っていた。
「全員そのまま行かせろ!多少の
どう見ても、正気じゃない兵が暴れているのは、尋常な事態ではないのだが、かと言って、隊員を引き返させて、隊を固めたところで事態が泥沼化するリスクを上げるだけである。
「演習とでも思って、堕として来い‼︎」
迫力あるテゼルトの声が、場を圧倒する。
隊員達も、怯むどころか「はっ!」「おおーっ‼︎」と言った気炎を各々が上げた。
銃に関しては、殺傷能力が並ではないプラズマ
佐官以下の士官兵士が普段所持しているのは、
変形を統一させる事もあるが、この時点では、どの形態で攻めるかについては、個人の裁量に委ねてあった。
テゼルト自身は、剣と鞭を器用に使い分ける事が多い。鞭で相手の武器を弾いたり、手足の動きを封じたりした上で、剣で留めを刺したりするので、その一連の大きな動きが〝
テゼルトは、無闇に殺すなと言った光輝の言葉を聞いていた訳ではなかったが、サン・クレメンテは金星
ただ、暴れている兵達が、どう見ても正気じゃないと彼らが思ったのは、その血走った目もさる事ながら、テゼルトが足の腱を切って床に転がしているにも関わらず、起き上がって飛びかかろうと不気味な声をあげるのである。
後日「C級ゾンビ映画を無理矢理見させられたみたいでした」と漏らしたベルンフィールドが、テゼルトの後方から更に乱闘する羽目になっていたのは、そう言った理由からであった。
「ベルン、鍵!」
念のため、解錠装置を最後方のベルンフィールドに預けていたテゼルトは、
「……っ」
――まず鼻についたのは、血の臭い。
床の血は、既に乾いてこびりついていた。
だが、
「
あくまで〝トルナーレ隊〟は通称なのだが、その方が通りが良い場合も多い。
テゼルト達が突然現れた事に、ギョッとしたように身体を浮かせた士官もいたが、案の定〝トルナーレ隊〟の言葉に、空気がやや和らいだ。
恐る恐る…と言った態で、
「兵器管制主任ユーダム少佐です。基地責任者であるノティーツ大佐ですが…その……」
ノティーツが、基地乗っ取りを危惧して、基地を閉じてしまっていたと言う話すら、乗り込む直前に聞かされたテゼルト達にとって、その先の話は、彼らの権限も、許容範囲も越えていた。
アルフレッド・シーディアが、そろそろトルナーレの所に合流する筈だとは思ったが、状況的に、それを待つ余裕はないように、テゼルトには思えた。
そして、そんなテゼルトからの通信を受けた光輝も、その判断は、迅速果断。
まだ他の部署に向かわせた部下からの報告も揃わない内に、スタフォードら数名と共に、
通称〝トルナーレ隊〟の隊長は、生え抜きで繰り上がる場合と、出世コースの通過点として、他艦隊から配属される場合と、代々二通りに分類されるのだが、六代目テゼルト、四代目光輝、二人共が後者に当たるため、生え抜き組のベルンフィールドと違って、直接の面識がない。
だがテゼルトの方には、ベルンフィールドを始めとする、生え抜き組からの情報が
「
テゼルトから、そう報告を受けて、光輝は僅かに顔を
「暴れている理由に心当たりのあるヤツは、いないと言う訳か」
「そのようです。医局は、暴れた兵に巻き込まれた者達の治療に追われて、暴れる原因にまでは手が回っていないのが、現状かと」
光輝もテゼルトも、まるで麻薬中毒患者のようだと思ってはいたが、医局の専門家を頼らず、判断するような事はしない。
「第七艦隊からも、医務士官を回すか――」
光輝がそう言いかけたところで、テゼルトが所持していた、無線通信機が鳴った。
『隊長。こちら、営倉班のキンバリーです。今、話せますか』
「問題ない。続けろ」
『続ける、と言いますか…隊長、
デレク・キンバリーは、隊の次席、副長である。また、生え抜きか配属かと言われれば、彼は生え抜き組、光輝との面識もあり、余程の事がなければ、連絡をしてくる事も、まして自分のいる方へ来るように言う事もないと思えるため、テゼルトも、そこは一刀両断にはしなかった。
「…こちらもいま、血の痕が散見されているような状態だが?」
単に理由を説明しろと言っても、状況的に困難な場合もあるため、テゼルトはまず、キンバリーに、重要度の判断基準を与えた。
これは同時に、自分達の判断基準にもなる。
『確かにこちらでも、同様の事象が発生した形跡があります。ですがそれは、暴走兵の犯行ではありません。…少なくともこちらでは。こちらには、
「いる筈のない者…?」
「テゼルト、行くぞ。ここはスタフォードとベルンフィールドにでも預けて、シェルダンと連携させろ」
中佐であるキンバリーが判断に困る話、と聞いた時点で、光輝の動きは早かった。
「…はい?」
「ちょっ…お二人で行くのやめて下さい!分かりました、こっちは何とかしますから、何人か連れて行って下さい‼︎」
ベルンフィールドは、システム関係にそれほど強い訳ではない。
が、この隊で「出来ない」「苦手」は基本、誰も口にしないので、ベルンフィールドとしても、ぽかんと口を開けたスタフォードを巻き込んででも、場を預かるより他はない。
恐らくはキンバリーが営倉へ向かった際、そちら方面の暴走兵はあらかた叩きのめしている筈だが、それでも、光輝とテゼルト、二人で向かわせるなど、言語道断だ。
慌てて三名ほどに後を追わせつつ、ベルンフィールドは、それまで代理で基地を預かっていたユーダム経由で、基地の通信士官に、第一艦隊旗艦にいる筈のシェルダン宛回線を開いて、凍結された基地のプログラム解除に関して、その指示を仰ぐよう伝達をした。
ただその結果は、とりあえず自分が着くまでは、スタフォードの手を借りるようにと言うシェルダンの「指示」を招く形になり、スタフォードが画面の向こうに本気でキレると言う状況を、基地内に生み出した。
どうやらスタフォードは、
上官に平然と、喰ってかかれる度胸もあるようだ。
…と、その会話から察したベルンフィールドだったが、ガチ切れ中の本人に、褒め言葉にしろ、声をかける事は流石に控えた。
ただ後で、隊長であるテゼルトには状況を過不足なく報告したため、面白がって、鍛錬と言う名の二次災害(もしかすると、三次四次だったかも知れない)にスタフォードが引っ張り回される事になったのは、内心で謝罪しつつも、見なかった事にしておいた。
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