第10話 サン・クレメンテ攻防戦(10)
索敵システムの端に、
システムからその影が完全に消えた頃、自軍の旗艦に連絡を取ろうとしたシーディアは、通信画面の向こうに現れたのが、艦長代行の貴水である事に眉を
『申し訳ありません、シーディア中将。この回線で、どこまで話して良いのかと言う事もあるのですが、何より報告事項が多過ぎます。出来れば旗艦
「――それで機を逸するような事にはならないと、貴官が断言出来るのであれば、否やはないが」
自分よりも職位の低い士官に対して、やや意地の悪い問い方をしたシーディアだったが、貴水はチラリと後方に一度視線を投げただけで、表向きの動揺は見せずに頷いた。
『地球軍が退いたので、いったんは、外敵からの脅威は横に置いて良いとの事です。中将がこちらに合流される、あと数時間で、基地の制御も奪い返せるだろうから、話はそれから――と』
「……それは、誰が?」
『前者はカミジョウ准将、後者はシェルダン大佐です。トルナーレ大将閣下は負傷されて、現在は医局です。お命に別状はないそうですので、そちらについても、お越し頂いてからで問題ないかと』
命に別状ないと言えど、「トルナーレ負傷」の一言で、充分にシーディアの周囲はざわついたので、貴水は敢えてこの場では、
「……確かに、この回線越しに短時間で聞ける話ではなさそうだ。承知した、では後程そちらの
――そして、あと1時間で合流出来る所まで来た時に、恐らくはトルナーレ大将麾下の部隊と思われる艦載機部隊が、
後々になって聞けば、凍結されていた基地のプログラムを一部解凍して、外から着艦出来るまでになったのが、そのタイミングだったと言う事なのだが、残っていた面々を考えた時に、自分にケチをつけられては困ると思って隊を出発させたのかと、素直に事態を捉えられなかったのも、また確かだった。
「まさか、キルヴェット閣下を一個船団で放り出して、戻って来るとは思わんかった」
旗艦に合流したシーディアは、まだプログラム解凍が不十分だと言うシェルダンを
想定外のタイミングで現れた自らの参謀に、トルナーレは一瞬目を瞠った後、らしからぬ微苦笑を浮かべた。
「…あの方も元軍人なんですから、それくらいやって頂かないと困りますよ。こちらが過保護に送り迎えする必要すら、本来ならなかった。まぁそう言う、軍と議会の政治力学的な話は、今はいいでしょう。それより――」
「そうだな。あまりコルムを重用するなと、おまえからは釘を刺されていたのにな。自業自得だ。俺はともかくシェルダンの事は、責めてくれるな」
「責めてどうします。聞いている限り、その時点では彼の行動が最善ですよ。…法規局が聞けば、色々目をむくとは思いますが。基地のプログラム制御を奪い返す為とは言え、艦隊の指揮権をカミジョウ准将に丸ごと預けるとか、旗艦内の権限を貴水大佐に預けるとか、普通やりませんよ。誰に似たんですか、あの無茶振り」
「いや、俺じゃないだろ!そこは断固否定するぞ!」
後ろに控えていた貴水も、後ろめたくはないのに、つい、目を逸らしてしまった。
「と言うか、現在進行形で基地に〝乗っ取り〟かけているのが、一番怖いんですけどね。彼、その気になれば上層部のコンピュータにも
「おぉ…そうだな…」
「彼を御する事が出来るのが、今のところカミジョウ准将しかいないと言うのもどうかと思いますしね。
「…おまえ、やけにシェルダンを買ってると思ったら、そんな事考えてたのか」
呆れたようなトルナーレの呟きを、礼儀正しく黙殺したシーディアは、その視線を貴水の方へと向けた。
「…それで、カミジョウ准将の方は?」
「は、カミジョウ准将は、航行不能に陥って、捕虜になった地球軍の士官数名とお会いになっているようで…。あと、基地の現状確認に向かわせた、艦載機部隊の状況報告先としても、自らを指示していらっしゃるようです。あの方、元隊長でいらっしゃったとか…」
「艦載機部隊、血の気の多いヤツ多いからなぁ…あと一時間くらい待っとけと言いたいところだが、四代目元隊長に声かけられりゃ、嬉々として基地乗り込むよなぁ…」
伺うような貴水の口調と、ほぼ他人事なトルナーレの口調に、イラッとしたようにシーディアの目が
「…第一艦隊の司令官って、今、どなたでしたか」
「心配すんな、もうすぐこの地位はおまえのモンだ、シーディア」
「……っ⁉︎」
嫌味に、存外真面目な口調で返されたシーディアが、らしくもなく、そこで言葉を詰まらせた。
「なんか、結構ざっくり内臓系やられてるみたいでな。しばらく宇宙空間の航行とか、頻繁にしない方が良いんだと。いずれ法務なりなんなり内勤預かりになるだろうから、誰かが立たないとな」
「閣下……」
「とりあえず、基地の様子がハッキリしたところで、俺は金星に戻る。と、言うより、戻らざるを得ん。後は、基地の様子で判断だな」
別段、悔しさを見せる風でもなく、トルナーレはヒラヒラと、片手を振る。
「俺の事は、気にするな。下士官だった頃から一緒にやって来た、コルムに肩入れしすぎたが為の、自業自得だ。すまんが、この件の決着は、預けるぞ」
――シーディアの躊躇は、そう長いものではなかった。
「承知しました。後は、お預かりします」
諸々の感情を飲み込んで、深々とシーディアは頭をさげた。
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